第二百七十六話:その他の対策
「次は魔物討伐とダンジョン探索の対策についてですけど、これはあまり対策のしようがありませんね」
模擬戦と魔物討伐は闘技場を使って行われるらしいんだけど、魔物討伐の際にどんな魔物が出るのかは事前に知らされていない。
まあ、知らせてしまうとあまりにも簡単になりすぎるし、生徒の対応力を見るのも目的の一つだから知らせないのは当然と言えば当然だけど、何が出てくるのかわからないのはちょっと不安ではある。
テトさんの情報によると、以前の対抗試合では冒険者の危険度で言うところのEランクからCランクくらいが出てきたそうだ。
Cランクと言えば、以前戦ったオーガと同じ危険度だ。と言ってもこれは冒険者でもCランクパーティが複数で当たることを想定された難易度であり、一パーティで挑むのならBランクに相当する。そう考えると生徒五人で挑むには少々強い気もする。
まあ、私はすでにBランク冒険者であるし、Cランクくらいの魔物だったら余裕で倒せるだけの力はある。エルも当然倒せるだろうし、頑張ればサリアだって一人で倒せるんじゃないだろうか。
ただ勝ちを狙いに行くだけだったらそれでもいいんだけど、これはあくまでチーム戦。六年の二人を差し置いて二年の私達が活躍しすぎるのはちょっとメンツ的にあれだろうし、アッドさんやテトさんを活躍させる形で立ち回り、私達はサポートに回るのが無難ではあるか。
まあ、勝負するからには勝ちたいけど、危なくなったらちょっとだけでしゃばるってだけでも十分ではあるだろう。あんまりやりすぎないようにエルには言っておかないとね。
「噂ではありますが、出てくる魔物はある程度予想できると思いますよ?」
テトさんによると、去年あったオーガ騒動の影響で対抗試合で出すための魔物を捕まえてくる冒険者の数が減っているらしく、依頼を頼めるようなパーティが集まるまで時間がかかってしまい、いつもより魔物の確保が遅れているらしい。
そうなると、当然遠くから連れてくることはできないため、近場から調達してくるしかない。だから、ここ最近で近場で話題に上がった魔物が出てくるのではないか、という予想が立てられているらしい。
「ここ最近で話題に上がった魔物か。何かいたか?」
「……そういえば、ギルドに寄った時に近くにゴブリンキャプテンが現れたって騒いでたような?」
竜の谷から戻ってギルドに挨拶に行った時に酒場にいた冒険者達がそんなことを話しているのを聞いた気がする。
ゴブリンキャプテンはゴブリンの上位種で、その名の通りゴブリン達のリーダー的な役割を担っているゴブリンである。
ゴブリン自体はFランクの魔物だが、キャプテンによって統率されることによって動きが目に見えて変わるため、ゴブリンキャプテンがいる群れはD~Cランクに指定されている。
「ゴブリンキャプテンか。単体ならそこまで強くもない相手だが、対抗試合で出すか?」
「群れの中にゴブリンアーチャーやゴブリンナイトが生まれていれば可能性はあるんじゃないですか? 出てくる魔物が一匹とは明言されていませんし」
優れた指揮官がいる群れの中ではその武器に突出した上位種が生まれることがある。
その腕前は持っている武器の状態によってまちまちではあるが、ちゃんとした状態の武器ならばそこそこ強い。と言っても、単体ならばせいぜいE~Dランク程度ではあるが。
しかし、キャプテンに指揮された群れの状態であればかなり強い。ただのゴブリンとキャプテンの群れならばともかく、ゴブリンアーチャーなどの上位種が生まれている群れならば危険度はCランクに届く。対抗試合に出す魔物のランク的には釣り合うか。
「でも、試合なんだから当然相手側が戦う魔物もいるよな。まだ候補がいるんじゃないか?」
「確かにそうですね」
ゴブリンキャプテンもゴブリンアーチャーも上位種のためあまり数はいない。特にキャプテンはある程度厳しい条件があるのかほとんど出現しない魔物だ。
仮にキャプテンの群れを出すとしても、それで一試合。もう一試合分の魔物を別に調達する必要がある。
まあ、群れを分けて出すという手もあるけど、キャプテンは一匹しかいないだろうしそれはないだろう。キャプテンありとなしでは難易度に違いがありすぎる。
「さっきギルドで聞いたとか言ってたが、他には何か聞かなかったのか?」
「すいません、ちょっと挨拶に行った程度なので詳しいことは聞いてないです」
改めてギルドに行けばより詳しい情報が聞けるだろうか。まあ、調べたところで本当にその魔物が出てくるかどうかはわからないけど、何もしないよりはある程度予想して対策してた方が楽ではあるかな。
「後で聞いておくので、それまで待っていてくれますか?」
「じゃあお願いします。冒険者だとこういう時ギルドの情報網を利用できていいですね」
まあ、拠点の周囲の魔物の状況は常にチェックしているだろうし、それを聞けるって言うのは確かに便利ではあるかな?
私の予想だと詳しく聞けばもう少し珍しいのが来てる可能性が高いと思っている。
最近になってまたエルが竜姿でこの辺を通過したからね。多分その魔力に当てられた遠方の魔物がこの近くまで来てるんじゃないかな。
「では、次はダンジョン探索についてですね」
ダンジョンに関してもどこのダンジョンに潜るかは事前に知らされていない。
過去の傾向を見る限り、私とサリアがよく行っている王都近くの森にあるダンジョンを始め、王都からかなり離れたダンジョンに行くこともあってなかなか絞り込むことができない。
ほぼ被りもないようだから、今回も恐らく行ったことがないダンジョンではないかとは言われているみたいだけど。
「そもそもダンジョンってそんなにいっぱいあるんですか?」
「割と発見されてるみたいですよ? 大きな町の近くには大抵あるみたいです。まあ、町の近くにダンジョンがあるというより、ダンジョンの近くに町を作ったという方が正しいですけどね」
ダンジョンというのはいわば無限資源だ。ダンジョン内にある宝箱や魔物はもちろん、野草や鉱石などダンジョンにあるものはすべて一定期間経つと復活する。
魔物の肉は食料になるし、毛皮は衣服に、爪や牙は武器になったりするのでそれらを狩る手段さえあればダンジョンはかなり有用な資源なのだ。
ダンジョンの発見者はそのダンジョンを所有する形になり、月ごとにそのダンジョンで得られた収益の何パーセントかが貰えるため、未発見のダンジョンを見つけて億万長者に、なんて夢を見る冒険者もいるのだとか。
当然、そんな資源の山であるダンジョンを利用しない手はなく、ダンジョンへのアクセスをよくするために近くに町が建ち、発展して大きな町になっていくわけだ。
「この国でまだ行ってないダンジョンは?」
「そうですねぇ、思いつく限りだとヴァレスティン領のガレスの町の近くにあるダンジョンがまだでしょうか」
ヴァレスティン領は王都から北にある領地で、林業が盛んな地域らしい。
というのも、周囲を森に囲まれた場所であることも要因の一つなのだが、そこにあるダンジョンは森のようなダンジョンらしく、出てくる魔物もトレントなどの植物系の魔物が多いことからよく木材が取れるためそれを主要産業にしているらしい。
森風のダンジョンということもあって、多くの薬草が自生していることもあり、病気を治癒する目的で作られる薬もよく作られているようだ。
「それにしても、ヴァレスティンってどこかで聞いたような?」
学園に通うようになってから多くの貴族の子供と接してきたこともあって割と貴族の知り合いが増えている。ヴァレスティンという名前もその中にあったような気がした。
はて、誰だったっけ?
「ハク、ヴァレスティンはミスティアの家名だぞ」
「ああ、ミスティアさんか」
サリアが指摘してくれたおかげでようやく合点がいった。
魔法薬研究会でよく顔を合わせる上に同じクラスになっているというのに忘れていたのはちょっと申し訳ない。
確かに、以前自分の領地にダンジョンがあるみたいなことを言っていたような気がする。
ミスティアさんの実家の領のダンジョンか。森風のダンジョンというのも興味が引かれるし、もしそこならちょっと楽しみだな。
感想ありがとうございます。




