第二百七十話:メンバー決定
「え? もう決まったんですか?」
「はい! まだ発表はしてないみたいですが、すでに審査は終わって代表の五名は決まっているみたいですよ」
翌日、教室を訪れてみれば、テンション高くキーリエさんがそう告げてきた。
確か、対抗試合は一か月後。まだ始業式から一週間も経っていないけど、そんなにすぐに決まるものなのだろうか。
当分は先のことになるだろうと思っていたので少しびっくりした。
「まあねー、元々参加する人は少ないしー、来た順で決めたんじゃないかなー?」
「そんなんでいいんですか……」
時間の短さから言って、確かにミスティアさんの言う通り来た順に決めた可能性がある。
対抗試合って結構大きな行事だろうし、そんな簡単な決め方でいいんだろうか。
仮にも試合なのだから、普通は勝てるように精鋭を選び出すとか、あるいは目をかけている生徒を推薦するとか、色々あるんじゃないだろうか?
それに来た順で決めたということなら私達も選ばれている可能性が高い。私達はまだ二年生。普通は六年生が参加するのに、そんなところに二年生が三人も混ざってていいんだろうか。
もちろん、私達が応募した時点ですでに枠は埋まっていて、出るのは六年生ばかりって可能性もあるけど、だとしても選び方が雑な気がする。
学園はこの対抗試合をあまり重要視していないってことだろうか? せっかくの面白そうな催しなのに勿体ない限りだ。
「恐らくですが、ハクさん達も選ばれてますよ! その証拠に、放課後に学園長に呼ばれているでしょう?」
「それは、まあ」
確かに朝のホームルームでクラウス先生から放課後に学園長室に来るように言われている。
なんでそれを知っているのかというのはもはや突っ込む気にもなれないから言わないが、キーリエさんの言う通りすでに選抜五名が決まっているならそれ関係である可能性は高い。
仮に私達三人が選ばれたとして、後の二人は誰だろう。知り合いだと楽でいいんだけどな。
「対抗試合では毎回負け続きですから、今回こそ勝てるって信じてますよ! ハクさん達ならきっと勝てます」
「そうだといいですね」
負け続きなのか。まあ、相手はエルフらしいし、魔法の腕に関してはやっぱり向こうの方が上なのかな?
勝ち負けよりも、エルフの実力がどんなものなのかの方が気になる。
私は相手の事を想像しながら、放課後を待った。
やがて放課後となり、私達は学園長室へと歩を進めていた。
学園長とは言っても、実際に面と向かって会うのは初めてかもしれない。
行事の時に挨拶しているのはよく見るが、少し頭の毛が寂しいおじさんってくらいの印象だ。
もちろん、サリアの入学を認めてくれたのは学園長だし、サリアが糾弾された際も色々と対処してくれたから恩がある人物に変わりはないが。
やがて部屋の前まで辿り着き、コンコンと扉をノックする。入っていいと声がかかるのを待ってから、静かに扉を開いた。
「やあ、よく来てくれた。これで揃ったな」
部屋の中には学園長の他に二人の生徒がいた。
一人は金髪の長身の男性。片手をポケットに突っ込み、もう片手で何か石のようなものをジャラジャラと遊ばせている。
もう一人は茶髪の女性。朗らかそうな笑顔を見せ、感じは良さそうだが、なぜか手には筆を持っている。
スカーフの色を見る限りどちらも六年生のようだ。
「誰かと思えば百合カップルと護衛騎士かよ。まだ二年じゃねぇか」
「いいじゃないですか。有名ですよ? 三人とも」
私達を見るなり、男性の方は面倒くさそうにため息を吐き、女性の方はそんな男性を宥めている。
はて、見たことはないが、どうやら向こうは私達の事を知っているようだ。
百合カップルだの護衛騎士だのって言うのはよくわからないけど……。
「では、揃ったところで話を始めよう」
学園長がパンパンと手を叩き、自分の下に視線を集める。
いつまでも入口に立っているわけにもいかないので、二人の横まで移動し、学園長の話を聞く態勢に入った。
「もう察しはついているだろうが、君達は今度開かれるローゼリア魔法学園との対抗試合のメンバーとして選抜された。君達は学園の代表として、ローゼリア魔法学園の生徒と対戦することになる。一応聞くが、辞退したいという者はいないね?」
「当たり前だ。俺が参加しなきゃ勝てるもんも勝てねぇだろうしな」
「私なんかでお役に立てるかはわかりませんが、精一杯頑張ろうと思っています!」
もちろん、私達も否やはない。強く参加表明をすると、学園長は満足げに頷いていた。
「このところ我がオルフェス魔法学園は負け続きだ。おかげで向こうからは舐められるばかり。ぜひとも鼻を明かしてやって欲しい」
「任せろ。俺がいればローゼリアのエルフどもなんていちころだぜ」
「頼もしい限りだ。だが、いくら個としての強さがあってもこれは団体戦。五人で一組の戦いだ。そこで、君達には対抗試合までの間、出来る限り研鑽に励んでほしい。チームとしてね」
いくら個人の能力が高くても集団としての強さがなければ勝つことはできない。
なるほど、これは思ったより難しいかもしれないね。
私とサリアやエルに関しては付き合いも長いしある程度の連携は取れると思うけど、この二人に関しては初対面だ。
試合までに交流を深めて、お互いに何ができるのかを知っておくことは重要だろう。
「そんな必要はないだろ。俺が全部ぶっ潰せば勝てる」
「ダメですよ。仮にアッド君が全部勝ったとしても、私達が勝てなければ負けなんですから。ちゃんと協力してくださいね?」
「……チッ、わかったよ」
女性の方は割と協力的だが、男性の方はそうではない様子。
私達を立てろと言うわけではないけど、少しくらいは協力してくれないと思わぬところで落とし穴がありそうだ。
あんまり人と話すのは得意じゃないんだけど、ちゃんと仲良くなれるかなぁ。少し不安だ。
「さて、まずは親睦を深めるためにも自己紹介から。アッド君、君から」
「へいへい、わかったよ」
男性はぶっきらぼうに返事をしながらこちらに向き直る。
「俺はアッド・フォン・ソーサラス。ソーサラス家の三男だ。得意なのは宝石魔法。だからどんな属性でも粗方使える。お前らとは格が違うんだよ」
アッドさんは得意げに手にした石を放り投げてまたキャッチする。
どうやらあれは宝石のようだ。一つ一つは小粒だが、かなりの量がある。
宝石魔法は宝石に込められた魔力を使って行う魔法だ。
宝石は魔石と同じく魔法の触媒として使えるが、魔石よりも魔力伝導率が高くその分魔法の威力を増しやすい。
それに、宝石は魔力を通せば属性を変化させることが出来る魔石と違って属性は不変で、その分安定しやすいためただ魔力を流すだけでも属性魔法が使える。
まあ、宝石だから値段は張るけど、それに目を瞑れば魔力が少ない人でも強力な魔法を使うことが出来る手段の一つとして優秀だ。
これの利点は、仮にその属性の適性がなくてもそれぞれの属性の魔法が使えるということ。だから、アッドさんが言った通り対応する宝石さえあればどんな属性の魔法でも使える。
使い手は少ないけど、結構便利な魔法なのだ。
「次は私ですね。私はテト。テト・フォン・クルシェです。魔法というか、お絵かきは得意ですよ」
彼女はそう言って手にした筆を走らせる。
宙に向かって無造作に振り回したと思われたその筆は軌跡を残し、それはやがて一つの絵になっていった。
デフォルメされた犬や猫の絵。空中にどうやって描いたのかは不明だが、確かに適度にデフォルメされていて可愛らしい絵だった。
しかも、テトさんがそれっと声を掛ければ、それらの絵はまるで意志を持ったかのように動き出した。
宙を自在に飛び回る絵。こんな魔法は見たことがない。私は思わず目を奪われた。
「これくらいしかできませんが、よろしくお願いしますね!」
にっこりと笑みを浮かべたテトさんはとても無邪気にそう言った。
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