第二百六十九話:アダマンタイトの利用方法
糸口さえわかれば後は簡単だった。
翌日、三重魔法陣で試してみたところ、見事に熔けてくれることを確認した。
もちろん、単純に三重魔法陣にしただけでは熔けず、ある程度文言を調整する必要はあったけど、思ったよりも早くそのパターンが見つかってくれたので割と楽だった。
熔けたアダマンタイトは竜人達に作ってもらった鋳型を使ってインゴットにすることが出来た。
こうやって熔かせた以上、加工することも可能だろう。加工に適した温度も見つけたし、後は職人にでも頼めば作ってくれるかもしれない。
「さて、どうしたものか」
なんだか思ったよりも早く加工が実現できそうなことに少し戸惑いを感じている。
今まで誰も加工できなかったのに、こんな簡単に加工できていいのだろうか?
いや、そもそもアダマンタイトを武器や防具に加工できるほどの量を確保するのがほぼ無理だったし、普通の方法ではアダマンタイトを加工できるほど熱せる温度にすることが出来ないから当然と言えば当然なんだろうけど。
ホムラの反応からして今までアダマンタイトが見つかったことはなさそうだし、仮に見つけていたとしても竜に防具は必要ないからわざわざ加工する必要もなかっただろうしね。
一応、【人化】する竜にだったら需要はあるかもしれないが、基本的に竜の戦法は魔法による攻撃だ。エリアスみたいにたまに武器を使う竜もいるけれど、大体は魔法。近接戦をするにしても直接ぶん殴るとかそんな感じだ。
そりゃ、【人化】すればだいぶ弱体化するけれど、それでも普通の人よりは強いし、身体強化魔法でもかければ素手でもいい武器になることだろう。
つくづく、竜って反則だよなぁと思う。
「確か、神具ってそれぞれに特別な能力が備わってるんだよね」
いくら加工ができそうだと言っても、それがイコール神具を作り出せるということにはならない。
神具は基本的にすさまじい切れ味だったり絶対に折れない頑丈さだったりと他の武器に比べて性能が高いのはもちろんだが、それぞれに固有の能力がついていると聞いたことがある。
その能力については詳しいことは伏せられているためよく知らないが、私が今アダマンタイトを使って武器や防具を作ったとして、その能力が付くかと言われたら多分つかないと思う。
それらの能力は恐らく神様が付与したものだろうし、もしそれを再現するとしたら刻印魔法で何かしら効果を付与するくらいだろうか?
ただ、アダマンタイトはかなりの高温にしなければ熔けないので刻印するための焼きごてでは刻印を刻むことはできないだろう。世界最硬の金属であるから仮にミスリルの彫刻刀を使っても彫れないだろうし仮に彫れたとしてもかなり難しそうだ。
ただ硬くて切れ味がいいってだけなら刻印魔法を付与されたミスリル装備の方が使い勝手は良さそうだし、相当な労力を使ってアダマンタイトを加工したにしてはあまりメリットがない。
元々アダマンタイトはどちらかというと盾とか防具に適した素材だし、絶対に壊れないって言うのは魅力かもしれないけど、小回りは利かなそうだなぁ。
「何かいい手があればいいんだけど」
まあ、ミスリルに比べて少し重いとはいえ素材の中ではかなり軽い方だし、魔法耐性も高いから素の状態でも魔法に対してある程度の耐久性を持つ。
特に突出した効果がないとはいえ防具の中ではかなり優れているし、別になくても構わない気はする。
お姉ちゃんに渡すつもりだったからできれば最高のものをと思っていたけれど、これは諦めるしかないかなぁ……。
「とりあえず、採寸もしなきゃいけないし防具作りは後にして、別の利用方法を考えようか」
お姉ちゃんは高速戦闘が主軸だから防具は動きを妨げる物であってはいけないし、胸も大きいからその辺もちゃんと測っておかないと窮屈に感じてしまうだろう。
本当はサプライズとかしてみたいけど、戦闘に関わることだからその辺はきっちりしなくちゃダメだろう。適当にやって動きにくいってなったら意味がない。
だから、今はそれよりも別の使い道を考えた方が有意義というものだ。
「アダマンタイトの特性は、ミスリルより勝る硬度、それに魔法耐性だったね」
三大神金属のうち、アダマンタイトは何者をも寄せ付けぬ不変の硬さが自慢だ。
剣や槍なんかの攻撃はもちろん、魔法の攻撃だって簡単に跳ねのけるし、寒さや熱さにだって強い。ただ、その分加工が難しく、あまり複雑な形状の物は作りにくいって言うのが難点か。
物理は試してないけど、確かに魔法に対する耐性はかなりのものだ。熔かす一環で二重魔法陣を用いた魔法を使ってもびくともしなかったし、仮にアダマンタイトの防具を着ている人が消し炭になる威力だったとしても防具だけは残りそうだ。
ただ、その分魔力伝導率はかなり悪いように思える。
魔力の流れを見てみたけど、アダマンタイトは中に魔力がびっちり詰まっていてほとんど動きがなかった。
もちろん、無機物に魔力の流れがないのは当然の事ではあるけど、これはむしろ魔力が詰まりすぎて魔力が流れる隙間がないって感じだ。
だから、多分魔法剣にしようと思ってもうまく魔力を纏わせることが出来ずに不発に終わるんじゃないだろうか? そうなると、当然刻印魔法もダメだろう。あれは多かれ少なかれ、刻印されたものに魔力を流す必要があるのだから。
魔法耐性が高いのは耐性があるというより、魔力の密度が高すぎて受け付けないって感じだろうか。私が使う防御魔法と同じような原理かもしれない。
「そうなると、魔法の触媒としてはちょっと不向きか……」
本来なら魔力を多く含んでいるということは魔法の触媒として適していると言えるけど、これはどうにも普通の魔石とは違うらしい。
というのも、例えば魔石なら、内包されている魔力を吸い出してその魔力を利用して魔法を放つって形になるんだけど、アダマンタイトはそもそも吸い出せる場所がない。
魔石の魔力がコップに注がれたような状態だとしたら、アダマンタイトは蓋を開けていないペットボトルって感じだろうか。
なんとかして魔力が抜け出せる道を作ってあげれば使えるかもしれないけど、そこまでの労力を使うなら普通の魔石を使った方が楽だ。
まあ、魔力の少ない場所に結界を張る際に魔力タンクとして設置する、っていう使い方ならできなくもないかな? 魔力の密度だけはかなり高いから、同じ大きさでもかなりの時間持つだろうし。
「魔法薬に使ったら何かあるかな」
魔法の触媒としては不向きでも、内包している魔力はかなりのもの。それならば、魔法薬の材料としては何かしら利用法があるかもしれない。
まあ、硬すぎてすり鉢程度じゃ混ぜれないってところが問題だけど。
あらかじめ細かく砕いておいて混ぜれば何とか? それでもなんかじゃりじゃりしそうで飲みたくないけど。
元々魔法薬に入れる魔石は属性を付与する目的で入れることが多いから、何の属性もないアダマンタイトを入れるのは間違ってるか。いくら凄い金属とはいえ、素材のままならただ魔力の密度が高いだけの金属だし。
それに仮に素材として適していたとして、下手に凄いものができてしまったら確実に今度の発表会で出す羽目になりそうだし、作り方を聞かれてアダマンタイトの事が漏れるのはあまりよろしくない。やるとしても一人でこっそりとだね。
「……と、いけない。そろそろ戻らないと」
あれこれ考えているうちに気が付けば日が沈んでいた。
転移魔法ですぐに戻れるとは言っても寮の部屋の中にピンポイントで戻れるわけではないし、門限を過ぎて外をうろついているのを見られたら面倒くさい。晩御飯を逃したくもないし早く戻るべきだろう。
私は急いで寮の上空へと転移した。
感想ありがとうございます。