第二百六十七話:対抗試合とアダマンタイト
「そういえば、今度ローゼリア森国の魔法学園と対抗試合があるらしいですね」
「対抗試合?」
唐突な話題転換にきょとんとしてしまう。
ローゼリア森国はエルフが作り上げた国で、豊富な魔力を生かした魔法国家で多くの魔術師達の聖地として知られているらしい。
そんな国の魔法学園なので多くの優秀な魔術師を輩出しており、歴史あるオルフェス魔法学園と並ぶ名門校として知られているようだ。
対抗試合ってことはお互いの成長を目的にってことだろうか? 魔法学園の対抗試合なんてちょっと面白そうではある。
「はい。今回はうちが開催校で、一か月後に開かれるらしいです。始業式でも参加する生徒は担任に知らせるようにって言ってましたよ?」
生憎と始業式ではほぼ意識が飛んでいたので話は聞いていない。
対抗試合と言っても学園全体同士がぶつかるわけではなく、志願者の中から学園の代表が選ばれ、その人達が向こうの代表と戦うらしい。
まあ、大体は六年生が選ばれるため低学年にとってはあまり縁のない話みたいだけど。
「ハクさんはもちろん参加しますよね?」
「え? まあ、確かに面白そうではありますね」
話を聞くと、試合の内容は模擬戦に始まり、学園が用意した魔物の討伐、そしてダンジョンの探索の三つらしい。それらの勝敗や時間なんかを基準に得点をつけ、最終的に一位になった学園の勝利、ということになるらしい。
模擬戦はともかく、魔物の討伐やダンジョン探索なんて危ないように思えるけど、そこらへんはちゃんと先生達がフォローに回るらしい。ただ、それでも危険なことに変わりはないのでよほど腕に自信がある人でなければ参加しないようなことなのだとか。
驕っているわけではないけど、今の私なら大抵の魔物は相手にできるし、ダンジョンもあまり潜ったことはないので興味がある。参加するのは結構ありかもしれない。
「ハクが参加するなら僕も参加するぞ!」
「私ももちろん参加します。ハクお嬢様を守るのが私の務めなので」
サリアとエルはやる気満々のようだ。
まあ、参加表明をしても選ばれるかどうかはわからないけど、してみるだけしてみるのもいいかもしれない。
「なら、参加してみようかな」
「よっしゃあ! 優勝したらぜひインタビューさせてくださいね!」
インタビュー云々はともかく、ちょっとやる気は出てきた。
私達は早速クラウス先生に参加する旨を伝えに行くことにした。
参加希望は問題なく受理され、後に会議で決定されて選出されると告げられた。
対抗試合に参加できる人数は全部で五人。主に学園での成績や態度によって決められるみたいだけど、果たしてどうなることやら。
まあ、まだ受付期間内みたいなのですぐに結果が出ることはないだろう。気長に待つことにしよう。
「さて、それじゃあ……」
対抗試合も楽しみではあるが、私にはもう一つ楽しみがある。
【ストレージ】から取り出した淡い緑色をした鉱石を手に取り、にやりと笑う。
アダマンタイト。ミスリルを凌ぎ、世界最硬と呼ばれる神金属。その加工方法は謎に包まれていて、今のところアダマンタイトを加工できた者は誰もいない。というより、加工できるほどの量を得られないと言った方が正しいかもしれないが。
だが、私は有り余るほどのアダマンタイトを手にしている。つまり、解析し放題というわけだ。
もちろん、解析したからと言って加工ができるかと言われたらそういうわけでもないし、鍛冶師でもないのに持っているのは宝の持ち腐れなのかもしれない。
でも、ゲームでしか見たことがないようなこんな謎金属興味がないと言えば嘘になる。
何か魔法のヒントになれば儲けものだし、加工の方法を見つけ出せれば神具を人工的に作り出すことも可能だ。
まあ、作ったところで使うかどうかはわからないけど、お姉ちゃん達に渡したりと使い道はそのうち出来るだろう。
なにせ世界最硬の金属だ。何か使い道があるのは間違いない。
「ふふ、どこから調べようかなぁ」
「なぁ、そんなに凄いのか? それ」
「もし加工できればすごいけど、今のところはただ硬いだけのガラクタだね」
サリアとアリアが興味深そうに後ろから覗いてくる。
加工が出来なければアリアの言う通り確かにガラクタだけど、ガラクタのまま終わらせるわけがない。
まずは火で熔かせるかどうかだよね。インゴットにできなければ加工はかなり難しい。
ひとまず、寮の裏手にある空き地に土魔法で簡易的な溶鉱炉を作り、熔けるかどうかを試してみる。
だが、いくら燃やしても鉱石は熔けることはなかった。
「相当融点が高いみたいだね」
当然、鉄なんか容易に溶ける温度にはしている。だけど、変化はせいぜい周囲にくっついていた石が熔けた程度。アダマンタイト自体は何の変化もない。
流石神金属。並の火力では熔けないらしい。むしろ、本当に熔けるかどうかすら怪しくなってきた。
でも、神具が作られている以上、何らかの方法で加工ができるということ。それが神様の謎パワーによるものだったらどうしようもないけど、そうでないならまだ手はあるはず。
「とりあえず、もうちょっと火力を上げてみようか」
私は溶鉱炉に防御魔法を張る。これ以上の高温となると溶鉱炉自身が耐えきれない可能性があるからだ。
そして、火魔法によって直接火を送り込んでいく。二重魔法陣まで使って火力を高めた魔法だ。これで火力は劇的に上がるはず。
しばらくそうやって燃やしてみて様子を見る。しかし、いつまで経ってもアダマンタイトが熔けることはなかった。
「うーん、一万度は超えてると思うんだけど……」
金属の融点がどれくらいだかは詳しくは知らないが、一万度もあれば大抵のものは熔けると思うんだけどな。
でも、神金属と呼ばれるくらいだし、こちらの常識は通用しないのかもしれない。もしかしたら、神様の世界ではもっと高温なのが普通かもしれないしね。
とりあえず、上げられるところまで上げていってみよう。そしたら何か変化があるかもしれない。
「なぁ、ハク。まだ続けるのか?」
「そのつもりだけど、疲れちゃった?」
「いや、疲れたというか……」
「ハク、もしかして気づいてない?」
「え?」
ふとサリアの方を見てみると、かなり汗をかいていた。
今は秋だから汗をかくほど気温は上がらないし、それに今は放課後だから日も傾いている。そんなに暑いとは思えないんだけど……。
と、考えたところで気づいた。ここ、もの凄く暑くなってる。
考えてみれば当たり前だ、溶鉱炉で火を焚いてるんだから暑くなるのは当然の事。しかも、一万度もの高温なら汗をかくのも頷ける。
集中しすぎて気づかなかった。周囲には木もあるし、ここで実験するのはちょっと危険かもしれない。
「ごめん、暑かったよね。気づかなかった」
「集中するのもほどほどにね?」
いつの間にか時間もかなりすぎていたようだし、一旦実験はここまでにしよう。
溶鉱炉の火を落とし、中のアダマンタイトを回収する。かなり熱かったが、【ストレージ】にしまってしまえば関係ない。
明日はもっと安全な場所でやるとしよう。ただ、私が知ってる人気のない場所というと森とかだから火事が少し心配ではあるけど。
「いっそのこと竜の谷に転移してやった方がいいかもね」
竜の谷ならかなり広いし、燃えるようなものも少ない。鍛冶屋もあるし、そこの設備を使わせてもらうのもありかもしれないね。
まあ、今日は遅いし明日でいいだろう。溶鉱炉を壊し、寮の部屋へと戻っていく。
幸先が悪いスタートではあるけど、きっと何とかして見せる。
感想、誤字報告ありがとうございます。