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第二百六十六話:休み明け

 第九章始まります。

 王都へと戻ったのは休みが終わる三日前だった。

 思ったよりも時間がかかったせいで結構バタバタしてしまい、始業式の日ではぐったりと椅子に寄りかかって話を聞き流すことになってしまった。

 前世であれば準備と言ってもせいぜい宿題を済ますだとか忘れ物しないようにランドセルに教科書を詰めておくとかそれくらいだろうけど、私の場合は休みの間会えなかった友達に挨拶したり、ギルドに顔を出したりと色々やることが多かったから割とぎりぎりだった。

 二か月ほど経ったおかげか、私が町を出歩いても特に騒がれなくなっていたのは僥倖だろう。まあ、まだちょいちょい話しかけられることもあるけど、それくらいならまだ楽な方だ。これでまだ熱が収まっていなかったら私は寮に引きこもらなくてはならないところだった。

 ギルドの受付の話では私がいない間も結構私に会いに来た人が多かったらしく、その対応に追われて疲れたと言っていた。まあ、よほど重要な用事でない限りは追い返して欲しいと頼んでおいたから今更会いに行くつもりはないが、お疲れ様ですと労っておいた。

 ただ、私がいなかったせいか代わりに『流星』の面々に流れていった人もいるらしい。まあ、一応ルナさんも準優勝者だしね。元々有名な冒険者だし、お呼びがかかることもあるのだろう。

 シンシアさんにも会ったけど、セシルさんもルナさんもようやく元の調子に戻ってきたようで喜んでいた。

 大したことはできないけど、見舞いの品くらい贈った方がよかったかな? いや、私が会いに行ったらまたぶり返しそうだし、何か贈るとしてもシンシアさんに持って行ってもらうのが妥当か。

 その他にも、アリシアが偶然助けた人に惚れられて困っているだとか、サクさんは道場の門下生が増えて大変だとか色々な話が聞けた。

 概ね、私が竜の谷に行く前と何ら変わらない平和な日常を過ごしているようだ。そう考えると、私達だけ竜と出会ったり戦ったり冒険したりして濃い日常を過ごしていたように思える。

 早く元の日常に溶け込めるように努めないとね。


「ハクさん、休みの間はどこに行っていましたの?」


「闘技大会のほとぼりが冷めるまで避難するとは聞きましたが」


「まあ、ちょっと遠くの方へ」


 久しぶりに会ったシルヴィアさんとアーシェさんは相変わらず一緒にいて私に話しかけてきた。

 まあ、私もいつもサリアと一緒にいるから人のことは言えないけどね。

 どうやら二人は領地に帰って休暇を過ごしていたようだ。今回も来ないかと誘われていたんだけど、竜の谷に行きたくて断っていた。

 うーん、言い訳くらいは考えていた方がよかったかな。隣の大陸に行ってました、なら嘘ではないけど、普通の方法では二か月で往復するのは無理があるしなぁ。


「もしかして、故郷に帰っていたとか?」


「確か、ハクさんは辺境の村の出身と言っていましたわね。サリアさんを紹介しに行ったのかもしれませんわ」


「ま、まあ、そんなところです」


 サリアを紹介しに行ったわけではないけど、故郷に帰ったというのは本当だ。まあ、二人が想像しているのは違う場所だろうけど、このまま話に便乗させてもらおう。


「ハクさんの故郷、少し興味ありますわね」


「ハクさん、もしよかったら今度私達も連れて行ってくださらない?」


「いや、それは……」


 連れていくのは簡単だけど、この二人が竜なんて見たら卒倒するんじゃなかろうか。もちろん、辺境の村の方に連れていく気も起きない。あそこはもう私の故郷ではないから。

 今頃あの両親はどうしてるんだろう。お姉ちゃんは仕送りをやめてしまったというし、この調子なら多分お兄ちゃんも同じだろう。二人の稼ぎ頭を失って家計は火の車になっているのではないだろうか。

 まあ、知ったことではないけどね。


「あ、でも、いきなり貴族の娘が訪ねてきたら気を使わせてしまうかしら?」


「そうですわね。貴族用のおもてなしをさせるのも気が引けますし、遠慮した方がいいかしら」


「出来ればそうしていただけると助かります……」


 仮にあの両親の元にこの二人を連れて行ったら飛び上がって驚くだろうな。そして、きっと私を使って二人に取り入ろうとするに違いない。

 普通平民が貴族に取り入ろうと思ったら相当頭が良くなければ無理だろうけど、私という友達がいれば同情して何か恵んでもらえるかもしれないしね。

 私を捨てたことを棚に上げて自慢の娘だとでも紹介する姿が想像できる。なんかあの両親の顔を思い浮かべたら少しむかむかしてきた。

 なんであんなのを好きになってたんだろう。いくら記憶がなかったからと言っても私に対する風当たりの強さくらい理解できなかったものだろうか。

 はぁ、この話は止めよう。気分が悪くなるだけだ。


「やっほー」


「ハクさん、どこに行ってたんですか!」


 そこにやかましい声と共にミスティアさんとキーリエさんがやってくる。

 ミスティアさんはともかく、キーリエさんは少し苦手だ。

 思わず上体をそらしていると、その隙間を詰めるように迫ってくる。


「闘技大会優勝おめでとうございます! いや、ハクさんなら優勝するんじゃないかと思っていましたが、本当に優勝してしまうとは! これは大スクープですよ!」


「そ、そうですか……」


 あんまり優勝優勝言わないで欲しい。魔法学園の生徒が闘技大会に優勝するのは前例のない快挙ではあるけれど、私はそこまで目立ちたいわけではない。

 あれは必要に迫られて参加しただけであって、優勝という肩書に意味はないのだ。

 ただでさえ噂されているのに、これ以上噂を広めてほしくはない。


「それにあの見たことのない召喚魔法! ハクさんは一体どれだけの力を秘めてるんですか? あ、ハクさんの魔法について探るのもいいかもしれませんね。今度取材させてもらってもいいですか?」


「え、遠慮しておきます……」


 私の魔法はオリジナルも含めて多分500以上はあるけど、それらすべてを解説なんてできない。いや、魔法陣の理解についてなら自信があるけど、他の人が理解できるように説明できる気がしない。

 なんたって、私の魔法方式は今のところほぼ私だけのオリジナルだ。もしかしたら、世界のどこかには私と同じような魔法を使う人がいるかもしれないけど、今のところは教えているサリアとルア君くらいしか使い手がいない。

 やり方にしたって魔法陣を正確に記憶し、それを呼び起こすことで発動するというものだから記憶力がなければそもそも使えない。

 より多くの魔法を扱うのならばどう考えても詠唱魔法の方が楽だ。

 つくづくこの体は優秀だと思う。前世でもここまでの記憶力はなかったと思うし、間違いなくこの体のおかげだろうからね。


「ええ、もったいない! ハクさんなら記事の一面を飾ること間違いなしですよ? もちろん、闘技大会優勝に関してはすでに記事にさせてもらいましたが!」


「やめてください……」


 自称記者というのは伊達ではないらしく、校内のスクープというか、生徒の色々な話をネタにして記事にし、目につくところに貼っているらしい。

 もう二か月も前の事をネタにするのはどうかと思うが、確かに闘技大会は休みに入ってから行われたものだし貼る機会がなかったのだろう。

 どうせならそのままお蔵入りにしてくれたらよかったのに、おかげで学園内では未だに視線がキツイ。

 当分は大人しくしておこう。そう思った。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今章は学校間対抗戦の予定ですか
[良い点] なかなかネタの為なら水火も辞せずなキーリエ女史、ぐいぐい来るおかげでハクさんはお目々白黒ですが帰省中の学園の雰囲気が伝わりありがたい。 [気になる点] 当分は大人しくしておこう。そう思った…
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