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幕間:精霊へと至る道

 主人公の契約妖精アリアの視点です。

 竜の谷のさらに奥地に存在する森。そこはすべての精霊の第二の故郷であり、精霊の女王リュミナリア様が住む場所でもある。

 妖精の間でも割と有名な場所で、いつか行ってみたい場所ナンバーワンの場所でもあるのだ。

 私はどうせ行けるはずもないと諦めていたけれど、まさかこんな形で訪れることになるなんて夢にも思わなかった。

 しかも、今回はただ来ただけではない。なんと、リュミナリア様直々に招待をいただいたのだ。

 まだ精霊にもなれていない未熟者の私をわざわざ招待してくれた。それだけでもう十分光栄なことだ。

 リュミナリア様は精霊の女王。本来ならば上位精霊でもなければ会えないような存在だ。

 もちろん不安もある。恐らく私を呼び出したのはハクと一緒に行動しているからだろうけど、やはり妖精の私では力不足だからもっとふさわしい精霊を付ける、みたいな話だったらどうしようという気持ちもある。

 ハクと別れるのはもう考えられない。契約したこともあるし、ハクが魔力溜まりで死にかけていた頃からの長い付き合いだ。

 人間社会に溶け込むのは少し大変だけど、ハクと一緒ならばそれも苦ではない。ハクは私の生きる意味と言ってもいいだけの大きな存在なのだ。


「スゥー……ハァー……よし、大丈夫」


 一度深呼吸をして呼吸を整えてから森の中へと入っていく。

 初めて入る森ではあるが、やはりこの森は凄い。

 森全体に魔力が満ちていて木々がとても生き生きしている。精霊達も多く飛び回り、あちらこちらに舞い散る精霊光によってとても神秘的な光景になっている。

 妖精の私が珍しいのか、中には立ち止まって私の事を観察してくる精霊もいるけれど、何を言っているのかはわからない。

 精霊は基本喋らない。それは自然の魔力を取り込むことで自然と同化していき、喋らなくてもある程度の意思疎通ができるようになるからと言われている。

 自然に溶け込むことにより、自然の声を聴くことが出来たり、魔力の異常を感知出来たり、意識しなくても姿を消すことが出来たり、精霊は色々なことに長けている。

 人の間で精霊と妖精が区別されているのはこの違いがあるからだろう。人にとっては、妖精はただの珍しい魔物に過ぎないのかもしれない。

 精霊の中で喋るのは恐らくリュミナリア様くらいのものだろう。ここに来て初めて話して、まさか人の言葉を喋れるとは驚いたものだ。喋れるとしても、せいぜい【念話】でだけかと思っていたから。


「この先が、リュミナリア様のいる湖……」


 魔力の満ちる水辺ならばある程度感じることが出来る。私が生まれたのは周りを木々に囲まれた湖であり、その波長がなんとなくわかるからだ。

 木々の間を抜けると広い空間へと出る。精霊光に照らされた大きな湖。数々の精霊が舞い、まるでこの世の楽園かとも思う場所。

 そんな場所の中央、湖の中心にその人はいた。

 白いドレスを身に纏い、若草色の髪を風に遊ばせた妙齢の女性の姿。人の目には見えないだろうが、溢れる精霊光はとても暖かく、すべてを包み込んでくれるような安心感がある。

 ハクと同じエメラルドグリーンの瞳を瞬かせ、白い手を軽く上げると、周囲にいた精霊達が散っていった。

 後に残されたのは私とリュミナリア様の二人だけ。リュミナリア様は小さく笑みを浮かべると、私の事を手招きした。


「ようこそ、私の家へ。シュークレ・シェル・ヴェルデール・アリア。待っていたわ」


「は、はい!」


 あまりの神々しさに思わず呆けてしまった。

 私はぎくしゃくとぎこちない動きで飛びながら近づいていく。

 どんな精霊でも一瞬で虜にしてしまいそうな心地の良い魔力、本当なら今すぐにでも飛び込んでいきたいが、リュミナリア様を前にそんなことをするわけにはいかない。

 両手で頬を叩き、気合を入れる。大丈夫、緊張なんてしていない。


「ハクから聞いたわ。あなたがハクを助けてくれたそうね」


「た、助けたなんて……私はただ、少し手助けをしただけです」


 確かに、私がハクを見つけなかったらハクはあのまま死んでいたかもしれない。

 だけど、私はハクの命の恩人だなんて鼻に掛けることはない。

 私がハクに魅かれたのは、ハクがリュミナリア様の持つ魔力を持っていたからだ。つまり、私にとって心地の良い魔力だったから気になって手を貸しただけの事。むしろ、私の方こそハクに色々してもらって感謝するばかりだ。


「その魔力、すでに契約をしているようね?」


「は、はい! 僭越ながら、ハクと契約を結ばせていただきました!」


 契約は妖精にとって重要な意味を持つ。人間でいえば伴侶を迎えるようなものだ。

 契約者は妖精と切っても切れない関係で結ばれることになる。例えば、相手の考えていることがなんとなくわかったり、魔力が同調するから魔力の受け渡しが出来るようになったりする。

 でも、本来なら契約するならば妖精よりも成長した精霊の方がいい。なぜなら、精霊の方が妖精よりも圧倒的に優れているし、メリットもその分大きいからだ。

 だから、ハクが他の精霊でなく、私と契約を結んでくれたことは本当に嬉しい。ハクは私の真名を教えるに値する素晴らしい人間だ。


「ふふ、本当ならもっと優れた精霊を付けるべきなんでしょうけど、ハクとあなたの様子を見ていればぴったりのパートナーだって言えるわね」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ。ハクを見ていればわかるもの。あなたのことを本当に大切に思っているようね」


 てっきり叱責されるかと思ったけれど、リュミナリア様は笑って私のことを許してくれた。

 ぴったりのパートナー。周りから見たらそんなふうに見えるのだろうか。

 もちろん、私とハクは契約云々の前に親友だし、ハクのことについては誰よりもわかっているつもりではある。だけど、基本的に隠密で姿を消してついているだけで実際はあまり何もしていない。

 でも、そんな私でもハクの大切な人と思われているのなら嬉しい。私も、ハクのことは大好きだ。


「でも、やはり妖精の身では限界があるでしょう? 今まで結構苦労したんじゃない?」


「それは、まあ……」


 確かに結構苦労した。ハクについていく以上は避けられないことだが、人がたくさんいる場所で生活することになる。精霊にとってはそこまで苦でもないようだが、妖精にとってはいつ攫われるかもしれない恐怖と戦いながら過ごす必要がある。実際、攫われたこともあったしね。

 常に隠密魔法をかけ続けていれば大丈夫だろうけど、いくら妖精が隠密魔法の達人だからと言っても限界はある。数日に一回は隠密を解かなくてはならないし、定期的に魔力を摂取しなければ力が弱まり消えてしまうかもしれない。

 魔力に関してはハクからもらっているから大丈夫だとはいえ、隠密魔法が続かないのは問題があった。

 おかげで学園ではハクに付きそう精霊を見た、なんて噂も上がっているし。


「私としても、ハクには安全に過ごして欲しいと思ってる。だからね、アリアにはもう少し力を付けてもらいたいの」


「力、ですか?」


「そう。簡単に言えば精霊になって欲しいんだけど」


「せ、精霊に!?」


 精霊は妖精が成長した姿と言われている。その実態としては、妖精が長い時間をかけて自然の魔力を取り込み、より自然に溶け込んでいくことによって魔力が強化され、それが精霊光の輝きを強め、存在の器が成長することによって精霊へと至る。

 長い時間、それこそ何十年もの時が必要だ。私も妖精として結構長いけど、流石に今すぐ精霊になれと言われてなれるほどの魔力を吸収しているわけではない。

 あまりに無茶振りにどうしようか迷っていると、リュミナリア様はそっと私の事を抱きかかえた。


「大丈夫、とても簡単なことよ。ただ私の魔力を受け取ってくれれば、それで済むから」


「わ、私が精霊になったら、ハクのお役に立てるでしょうか?」


「とりあえず、ある程度の問題は解決するはずよ」


 そんな簡単に精霊になれるんだろうか? 不安ではあるが、リュミナリア様が言うならばそうなんだろう。

 私が精霊になる。そんなこと考えたこともなかった。

 私が精霊になれば、よりハクの役に立つことが出来る。そう考えたら、私の答えは一瞬で決まっていた。


「わかりました。私を精霊にしてください」


「わかったわ。それじゃあ、じっとしていてね」


 私の答えに満足げに笑うと、指先をそっと私の頭に乗せてくる。すると、そこからリュミナリア様の魔力が流れ込んできた。

 とても暖かく、安らぎをもたらしてくれる魔力。しかし、その量はあまりにも膨大だった。

 ぬるま湯に浸かっているような心地よさがありながら、水の中にいるかのような息苦しさを感じる。

 妖精を精霊にする方法、それがどういうものなのか理解した。

 用は数十年かけて蓄積する魔力を一度に注ぎ込んでやればいい。そうすれば、妖精は精霊になれる。

 ただ、この方法かなり強引な方法のようで、かなり苦しい。

 リュミナリア様の魔力だからまだましだが、これがその辺の魔力溜まりとかの魔力を一気に流し込まれていたら発狂していたかもしれない。

 緩やかな苦しみが続く。それは何時間にも感じられたが、実際にはそこまで時間は経っていないのかもしれない。

 私の中の何かが殻を破って大きくなっていく。これが存在が成長するということなのだろうか、私が私でなくなってしまうような恐怖が付きまとう。

 私は耐え続けた。絶対に耐えきって、ハクの役に立つのだと決めたから。


「……終わったわ」


 永遠とも思えるような時間が過ぎ、リュミナリア様は私の頭から手を放した。

 体がポカポカする。息が上がり、まともに焦点が合わない。

 リュミナリア様の掌の上でしばらく荒い呼吸を繰り返していると、しばらくしてようやく頭が冷えてきた。


「リュミナリア様、私は精霊になれたんですか?」


「うーん、まあ一応はってところかしら。姿は妖精のままだけど」


 私は自分の身体を確認してみる。若干背が伸びただろうか?

 服も心なしかきつくなり、より女性らしい体つきになった気がする。羽根の数も二枚から六枚に増えているし、髪も伸びたようだ。

 これが、精霊としての私の姿? でも、精霊はリュミナリア様のように人間と同じくらいの大きさがある。背が伸びたとは言っても、せいぜい10センチ程度。手の平よりちょっと大きい程度だ。

 確かに内包している魔力は大きくなったように感じるけど、精霊になれたかというと少し自信がない。


「でも、あなたの魔力はとても綺麗だわ。ハクと一緒にいるおかげかしらね」


「ほ、ほんとですか?」



「ええ。その様子なら、ハクと一緒にいればそのうちちゃんとした精霊になれるでしょう。ハクの事、お願いね」


 私は精霊としてはまだ未熟らしい。でも、仮にとは言え精霊になれたのだ。出来ることも増えただろうし、ハクの役に立てることに変わりはない。

 私の魔力はほとんどがハクの魔力だ。それが綺麗だというのなら、ハクの魔力はとても清らかということだろう。

 いずれはハクと並び立って一緒に戦うことも夢じゃないかもしれない。


「はい、お任せください!」


 私はハクの契約妖精、ハクと共に過ごし、その成長を見届けるのが私の使命だ。

 私に力を与えてくれたリュミナリア様に敬礼しつつ、ハクの元へと戻っていった。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アリアさん実質ハクさんのお嫁さん? [一言] そういえば真名はこんな長い名前だったなぁ
[良い点] 精霊仮免を許されたアリア先生( ^ω^ )仮免で妖精スタイルのまんまで良かったと思います。(急に自分より大きくなったらハクさんビックリですよね) [気になる点] 今回の文脈から思うに、リュ…
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