幕間:エンシェントドラゴンとの交流3
主人公の姉サフィの視点です。
私は即座に接近した。アースさんが何をしてくるのかはわからないけど、わざわざ土の剣を出したってことは近接戦をやりたいってことだろう。
ハクのようにウェポン系の魔法を飛ばして攻撃するということも考えられるけど、私の動きに合わせて構えたから予想通りに近接戦をしてくれるようだ。
土の剣はかなり大きい。剣というよりは大剣と言った方がいいかもしれない。
私の剣はミスリルでできているけれど、流石にあんなでかい剣をまともに受けたら受けきれない。体格もかなり大きいし、まともに打ち合ったら負ける。
だから私は背後に回ることにした。
速さに物を言わせた無理矢理の奇襲攻撃。背後にさえ回ってしまえば相手は振り返る時間を取られることになる。
中には私の速さについてくる人もいるかもしれないけれど、今のところそんな人とは会ったことがない。一番近くてミーシャさんだろうか。
しかし、相手は竜。常に相手が上と思って行動しなければこちらが危うい。
「はぁっ!」
竜ならばついてくるのではないかと思っていたが、予想に反して反応できていないようだった。
このまま背中を切りつければ勝てるかも。そう思って両手の剣を振り下ろした。
しかし……。
「なっ!?」
私の剣は防がれた。あろうことか、こちらを振り返ることなく後ろに回した大剣で弾き飛ばしたのだ。
後ろの目でもついているのか。いくら大剣の表面積が大きいとはいえ、無造作に後ろに振るっただけで私の剣を弾くなんて普通はできない。
弾かれて崩された態勢をバック転で整え、再び近づく。
こうなったらとにかく攻撃して隙を伺うしかない。
「シャドウランス!」
サリアも私の攻撃の間合いを縫って攻撃してくる。
私の動きが見えているのだろうか。だとしたら相当な動体視力だ。……いや、もしかしたらハクが言っていた目に身体強化魔法をかけるって奴かな?
身体強化魔法はその名の通り身体を強化する魔法だ。普通は目にかけたところでちょっと視力が良くなる程度の効果しかないはずだが、ハクの場合は動体視力すら向上するらしい。
それでも最初は私の速度を追うのは難しかったと言っていたけど、私からしたらそんな工夫で私の姿を見れるようになるのが凄いとしか言いようがなかった。
私のこれは師匠に教わった技術。反応されることはあっても、完全に見切られたことはなかった。
竜の力がなくても、ハクは十分優秀だってことだね。
とにかく、援護があるのはありがたい。中級魔法を詠唱短縮しているのは凄いと思うし、狙いも結構正確だけど、やはりアースさんには届かない。
あんな重そうな剣を片手で振り回しているし、それでいて私の攻撃もサリアの魔法も全て往なしている。
圧倒的な差があるのがわかる。でも、ここで挫けてはいけない。
きっとどこかに糸口が……!
「……そこっ!」
数分打ち合い、ようやく隙らしきものが現れた。
サリアの魔法に対して剣を振るったこのタイミング。ここで腹を狙えばいくら振りが早くても防ぐのは間に合わないはず。
もうチャンスはないと思い、渾身の力で剣を振り下ろした。剣は革の鎧を貫通し、その体に深い傷をつける……はずだった。
「……ッ!?」
しかし、実際には剣は弾かれた。
もちろん、大剣に弾かれたわけではない。鎧に弾かれたわけでもない。ただその肉体に弾かれたのだ。
地竜は高い防御能力を持つ。その鱗は一説によればアダマンタイトにも及ぶのではないかと言われ、下手な打撃や斬撃は全く意味をなさないと言われている。
それが人の姿でも発揮されるのは想定外だった。ハクですら普通の状態ならば怪我を負うのに、そんなの予想できるわけない。
あまりの衝撃に体勢を立て直すのも忘れて目を見開いていた。
「見事」
「ひっ!?」
瞬間、アースさんの大剣が振り抜かれる。
ありえないような風切り音を響かせながら振られた剣は、気が付けば私の首元にぴったりと張り付いていた。
「あ、あぁ……」
遅れて衝撃がやってくる。暴風が髪をたなびかせ、風圧によってバランスを崩し、成す術なくへたり込む。
今の一撃、止めてくれなかったら私の首は飛んでいた。非殺傷結界なんて関係ない、力によるごり押しだけで千切れ飛んでいたことだろう。
ちゃんと攻撃は当てないというルールを守ってくれたことに安堵する? そんなことできるわけない。
あれは仮に当てなくても命を奪うことが出来る一撃だ。私が生きているのは、アースさんが加減してくれたから。
一歩間違えば死んでいたかもしれない。そう思うと体が震えてまともに立てなかった。
「さて、残りは……」
「はぁあ!!」
ゆっくりと振り返ったアースさんの目の前に闇色の槍が無数に浮かぶ。
サリアもすきを窺って色々準備していたのだろう。この数ならば、一発くらいは当てられてもおかしくはなかった。
だが、アースさんはそんなに優しくはないようで……。
「ふんっ」
無造作に剣を一振りする。それだけで闇色の槍はすべて跡形もなく消え去ってしまった。
ウェポン系の魔法は実体を持っている。だから、普通は剣で攻撃したなら弾かれたりする。だけどこれは弾いたというより、元から消し去ったというものだ。
つまり、槍を構成する魔力を霧散させたということ。対抗属性の魔法同士がぶつかり合って消えるのと似ているが、剣を一振りしただけでそんなことが出来ようはずもない。
そもそも、闇属性の対抗属性は存在しない。一応、光属性がそうではないかと言われているが、特殊属性だけあって基本属性とは少し異なると言われている。
対抗属性でもない土属性で魔法を消す。それはもはや魔術師は詰みの状態だ。
「だったら……!」
続いてサリアはアースさんに向かって拘束魔法を試した。
闇属性はこういった相手の動きを制限する魔法に長けている。並大抵の力では振りほどけない、はずだ。
だが、アースさんはそこらの魔物とは一線を画す存在。突貫で作られた拘束魔法など意に介さないようで、あっという間に打ち破ってしまった。
「いい腕だ」
「な、ひぅっ!?」
突如、アースさんが片手をサリアの方に向けたかと思うと、サリアの足元から巨大な槍が付きだしてきた。
非殺傷結界のおかげでその先端は丸くなっているが、こんなものが直撃したら大怪我は免れないだろう。いくら攻撃を当てないというルールがあるとはいえ、そうなったかもしれないというだけで相手の戦意を奪うには十分だった。
「あぁ……」
サリアがその場に座り込む。もう勝てないと悟ったようだ。
目には大粒の涙が浮かび、今にも泣きだしてしまいそう。
「そこまで」
ここでエルさんが止めに入った。
私はへたり込んだまま動けないし、サリアは泣きそうでまともに魔法を放つこともできない状態。どう見ても、試合を続けられる状態ではなかった。
なんとか無事に生き残ることが出来たと知ってホッとする。
本来の竜の戦い方とはだいぶ違っていたけれど、やはりその力は段違いだ。
すべてにおいて人類を超越した存在。竜は悪しき者として駆逐しようと考えている国も結構あるけれど、この力を知ったらとてもじゃないけど戦いを挑もうなんて考えられなかった。
「なかなかいい太刀筋だった。サリア殿の魔法も人間にしては申し分ない。我らに比べればいささか不安ではあるが、人の生活においてならば十分な力だろう」
アースさんは割りと私達のことを評価してくれたようだ。と言っても、結局傷一つつけることはできなかったんだけど……。
私達も傷こそ負っていないけど、心はもうボロボロだ。もう二度とやりたくない。
「さて、では次に行きましょうか」
「……えっ」
この人は何を言ってるんだろう。次? もう終わりでいいでしょ?
「次はわたくしが参りましょう。さっきの戦いを見てサフィ様の剣技には非常に興味が沸きましたから」
「ボクはサリアっちの魔法に興味があるなー。まだまだ改良できそうだし、ボクの魔法とも相性よさそう?」
「へへっ、楽しみだな。こんな歯ごたえがある人間は久しぶりだからよ」
じりじりと忍び寄ってくる三匹の竜。思わず後退るが、後ろにはエルさんがいてにっこりと背中を押してくる。
ま、まさか全員と戦えってことじゃないよね? そうだよね?
「さあ、第二ラウンドと行きましょう」
「いやぁぁあああ!?」
こうして、私達は日が暮れるまで竜の相手をすることになった。
終わる頃には何度も死ぬような思いをさせられ、精神をすり減らされてまるで魂の抜けた抜け殻のようになっていたのは言うまでもない。
感想、誤字報告ありがとうございます。