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第二百六十話:竜脈の調整

「ところでホムラ様、そちらの方は?」


 ホムラと子供達の微笑ましいさまを見ていると、一番上と思わしき少女がこちらを見てそう言ってきた。


「ああ、俺様の連れだ。ハクという」


「ハクです。初めまして」


 紹介されたのでとりあえず挨拶しておく。少女は一瞬ホムラの方をちらりと見た後、優雅な仕草でカーテシーをした。


「初めまして。私はエルクード帝国第一皇女ミルファと申します。こちらは弟のレクスとアルク。そして、あっちでメイドに本を読んでもらっているのがアルフ、最後に末の妹のファーナですわ」


 丁寧な物腰で説明するミルファ皇女。

 大体の人は私の事を子供扱いするけど、この人はちゃんとした対応をしてくれる。ホムラのおかげかもしれないけど、しっかりしたいいお姉さんって感じかな。


「お前、ホムラの連れってことは魔術師なのか?」


「え? ええ、まあ」


「ふん、いかにもトロそうな奴だ。ホムラに迷惑かけるんじゃないぞ」


 対するレクス皇子は私のことがあまり気に入らないのか視線が厳しい。でも、子供のせいかあまり迫力は感じられない。

 ホムラは魔術師で通ってるのかな? 未だに城に来た理由がわからないし、一体何をするつもりなのか。


「ねぇねぇ、本好きー?」


「本ですか? まあ、好きな方ですね」


 アルク皇子はまだ幼いせいか無邪気に私に質問してくる。

 ふにゃりとした笑顔が可愛らしい。でも、第二皇子ってことはいずれは王位継承権の関係で色々揉めるんだろうな。

 できればそのまま純粋に育って欲しいところだけど、王族に生まれたからには無視できない問題だよね。


「ホムラ様、今日は遊んでくださるんですか?」


「悪いな、今日は仕事の方で来た。ここに来たのはハクの顔見せと、挨拶に来ただけだな」


「あら、それは残念。せっかく修行の成果を見せられると思いましたのに」


「封印の浄化だったか。俺が代わりをできればいいんだが……」


「大丈夫だ。ずっと俺様がみてやるから安心しろ」


「ホムラかっこいいー」


 皇女達は残念そうにしながらもホムラの事を止める気配はない。それだけホムラの仕事が重要なことだとわかっているのだろう。

 私には何のことかさっぱりだが、封印の浄化って言うのが竜脈の整備に当たるのだろうか?

 その後、少々会話をした後に図書室を後にすると、再びホムラは迷いなく歩き始めた。


「ねぇ、封印の浄化って?」


「まあ、竜脈の整備のための言い訳みたいなもんだ。たまたま竜脈の一番重要な部分が城の下にあったから、毎回城に忍び込んで調整するのが面倒になって、いっそのこと堂々と入れねぇかと考えた結果があれだな」


 ホムラ曰く、この城の地下にはとんでもない怪物が眠っている。今は竜脈の関係で自然に封印状態にあるが、竜脈の魔力が乱れれば封印が解け怪物が暴れ出す可能性がある。俺様には竜脈の魔力を調整するだけの技術があり、封印を安定させることが出来る。この力は弟子に継承させていくから、ホムラと名乗る冒険者が来たら文句を言わずに城に入れてやって欲しい。

 というようなことを皇帝に言ったらしい。

 皇帝はホムラに命を救われているのもあって、その願いは難なく受け入れられた。それ以来ずっと堂々と城に入って調整をしている、と。

 なるほど、そのためのSランク冒険者の肩書ってわけか。

 普通、そんな条件だったらホムラを騙る冒険者が来たら城に入りたい放題になってしまう。だけど、ホムラの場合はSランク冒険者。当然高い戦闘力を持っている。

 城側もただ単にホムラという名前だから通しているというわけでもないだろう。恐らく、ホムラが代替わりする度にその力を確かめることによって信用を得ているに違いない。

 そのためだけにSランク冒険者になるって言うのはやっぱり面倒くさそうだけど、確かにそれなら一応は納得できる、かな?


「まあ、皇帝は薄々俺が同一人物だって気付いてるみたいだけどな」


「え、それって大丈夫なの?」


「まあ、何も言ってこないし大丈夫だろ」


 そんなんでいいのだろうか。

 いやまあ、ホムラというSランク冒険者がいて、しばらく経ったらまた同じ名前のSランク冒険者が誕生しているんだから同一人物だと思っても不思議ではないけど。ホムラの事だから色々と口を滑らせていそうだし。

 そうなると、ホムラは人ではないってわかってることになるんだけど、それでも何も言ってこないってことはよほどホムラを信用しているのか、それとも怖くて言い出せないだけなのか。

 まあ、確かにどっちでも問題はないか。


「さて、この部屋だな」


 ホムラがやってきたのは地下にある一室。扉には厳重な結界が張られていて、ここが重要区画だということを伺わせる。

 結界って言うのは結構難しい技術で、維持し続けるためには常に魔力を送り続けなくてはならない。そのためには常に術者が傍にいて魔力を供給し続けるか、固定魔法陣によって周囲の魔力を吸収する術式を描くかのどちらかになる。大きな魔石があればそれで代替することもできるけどね。

 この結界は後者のようだ。かなり強固で、私でもそう簡単には壊せそうにない。


「結界はカモフラージュだな。これがあった方が様になるだろ?」


「まあ、確かに」


 本当に怪物が封印されているわけでもなし、結界なんて必要はない。だけど、あった方がそれっぽいし、信じてもらいやすいのは確かだろう。

 ホムラが軽く結界に触れると瞬時に霧散する。強固な結界ではあったが、術者がいじれば解除するのは簡単だ。

 設定によっては解除しなくても通ることはできると思うけど、ホムラはいちいち解除するらしい。城に忍び込むのは面倒がるのにこう言うのはいいのかな。まあ、確かにそこまで手間でもないけども。


「さて、そろそろ集中しろ。下手すると呑み込まれるからな」


「え?」


 ホムラが扉を開けると、ぶわりと濃密な魔力が広がった。

 その濃度は尋常じゃない。魔力溜まりよりも濃いかもしれない。

 思わず息が詰まりむせてしまう。防御魔法を張り、魔力をシャットアウトしてもなお感じる威圧感。

 これはちょっと、想像以上だな……。


「大丈夫か?」


「へ、平気……」


 正直すぐにでも帰りたいが、それではダメだ。せめて少しでも着手しなくてはここに来た意味がない。

 私は重い足を動かして部屋の中に入る。どうやら物置部屋のようだが、意識しなくてもかなりの濃度の魔力が瘴気のように部屋中に渦巻いているのがわかった。

 こ、これを調整するの……?

 あまりの規模の大きさに少し眩暈がした。本当にできるんだろうか。


「さて、まずは竜脈を認識することから始めるか。魔力の流れがあるのがわかるか? まあ、今は色んな方向に流れてしっちゃかめっちゃかだろうが、奥の方に太い一本の流れがあるはずだ。それが竜脈だ」


 ホムラに言われて少し集中してみる。魔力が視覚化され、その荒れ狂う流れが脳内にダイレクトに伝わってきた。

 太い一本の流れ……細かな流れがいくつもあってわかりにくいが、確かに感じる。竜脈が重要な血管で、他が毛細血管と言ったところだろうか。

 幾重にも重なってもの凄く見えにくいが、確かに奔流のようなものは感じる事ができる。


「見つけたか? そしたら、その周りにある変な方向に流れてる魔力を全部竜脈と同じ方向へ誘導するんだ。そうすりゃ、いずれは合流して一本の線になる。完全に一本の線にすることが出来りゃ、完璧に調整したってことになるわけだ」


「こ、これを、全部……?」


 ざっと見ただけでも途方もない数の流れが存在している。それはまるで迷宮のようで、とてもじゃないけどこれをすべて同じ方向に誘導するなんてできる気がしない。

 ホムラはいつもこんなことをやっているのか……。

 あまりに途方もない作業で戦慄すら覚える。


「どうだ、できそうか?」


「や、やってみるよ……」


 やると言った手前、投げ出すわけにはいかない。

 私は流れの一つに干渉し、方向を誘導する。

 途方もない作業が始まった。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思ったより大変そうな作業
[良い点] 可愛らしい帝国の姫や王子たち(´-ω-`)ちょっぴりツンツンボーイもいますがナイスアクセント! [気になる点] 気がつけば、なし崩し的に竜脈の整理を実習してますけど(´Д` )勝手にやって…
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