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第二十九話:パーティに入るということ

 しばらくそんな話をしながら歩いていると、川へと辿り着いた。

 そこそこ大きな川で、覗いてみると魚が泳いでいるのが見える。ここで釣りとかしたら楽しそう。

 しかし、川辺はかなり荒らされており、数匹のオークが徘徊している。縄張りか何かなのか、一定の範囲を巡回しているようだった。


「よし、じゃあサクッとやってしまいましょうか。ソニアは支援をお願い。ハクちゃんは、後方から攻撃してくれる?」


「わかりました」


「了解です」


 ソニアさんがぶつぶつと呪文を呟くと、リリーさんの身体が仄かに光り輝く。

 一呼吸を置いた後、リリーさんが駆け出し、手近な一体を剣で貫いた。支援魔法の中でも身体強化系の魔法を使ったのだろう、細身の剣でも十分に手ごたえを感じさせる一撃だった。

 厚い脂肪のせいか、その一撃だけでは倒れはしなかったが、即座に肉を切り裂いて絶命させる。

 それに気づいた他のオーク達がやってくるが、ソニアさんの正確無比な氷の針がオークの目を貫いていく。

 混乱している隙にリリーさんが接近し、切り裂く。オーク達も手にした武器で応戦するが、大ぶりな攻撃はリリーさんを捉えることはできない。

 私も水の刃で次々とオークの首を刎ね飛ばしていく。狙われない位置からの一方的な攻撃ならお手の物だ。

 途中で増援が来たが、それも危なげなく処理し、数分後にはオークの死体の山が築かれた。


「ふぅ、これで最後かしらね」


 周囲を見回して増援がないことを確かめると、剣についた血を払い、鞘に納める。

 探知魔法にも近くに反応はないし、これで本当に最後だろう。ふぅと息を吐き、軽く首を回す。

 オークは意外に多かった。依頼では六匹ほどの予定だったが、死体の山を見る限り十体以上はいるだろうか。途中で増援が来たから、近くに巣でもあるのかもしれない。

 とはいえ、今回の依頼は川辺に現れるオークの討伐だから巣まで探しに行くことはないだろう。

 私はオークの死体を【ストレージ】に収納していく。十数体ともなると結構大変だったけど、残らず収納した。


「やっぱり【ストレージ】は便利ね。いつもなら一体運ぶだけでも大変なのに」


「お役に立てましたか?」


「ええ、とっても。ありがとうね、ハクちゃん」


 【ストレージ】の強みは狩った素材を残さず持ち帰ることが出来ることだ。

 せっかく倒しても重くて持ち帰れないなんてことはよくある。そんな時に便利なのが【ストレージ】であり、【ストレージ】持ちが必要とされる理由でもある。

 ただ、そのせいでやたらと勧誘されるからポーチを買ったんだけどね。大きさ的にオークは入らないから偽装にならないんだけど。

 一応、【ストレージ】の効果を付与したバッグというものは存在するらしい。めっちゃ高いらしいけど。

 言い張ればこれも【ストレージ】付きのポーチだって言い張れるかなぁ。


 お昼近かったので携帯食料を食べつつ少し休憩した後、ギルドへと戻る。

 換金所のスキンヘッドの男性は流石にもう慣れたのか、私が【ストレージ】を使うことに対して何も言わなくなった。

 手早く査定を済ませ、換金する。今回は数も多かったせいか結構な金額になった。受付で依頼完了の報告も済ませて報酬を山分けした。


「ありがとうハクちゃん。だいぶ助かったわ」


「ハクさんの魔法はとても綺麗でした。私も頑張らないと」


「こちらこそ。付き合ってくれてありがとうございました」


 数は多かったが、手際の良さもあってかだいぶ早く終わってしまった。まあ、病み上がりだしこのくらいがちょうどいいか。

 リリーさん達と別れ、宿へと帰宅する。部屋に入ると、ベッドの上に寝転がった。

 この部屋に来るのも久しぶりな気がする。怪我のせいでしばらくギルドの医務室にいたからね。その分の宿代が少しもったいないけど、まあ、仕方がない。


「お疲れ様、ハク」


「うん、アリアもお疲れ様」


 部屋に戻るや否やアリアが姿を現す。

 普段は隠密魔法で姿を消しているアリアだけど、医務室で寝ている時は結構頻繁に姿を現してくれていた。誰かが来るたびに舌打ちして姿を消していたのが記憶に新しい。

 隠密魔法は妖精の必須魔法だから造作もないことだろうけど、私が同じことをやろうとしたら多分一日持たないだろうなぁ。二重魔法陣を使えばギリギリ行けるかもしれないけど。

 そう考えると、普段からアリアに結構な負担をかけている気がしないでもない。本人は全然気にしていないようだから、軽く言葉をかけるだけに止めているけど。


「パーティでの狩りはどうだった?」


「思ったより、やりやすかったかな」


 私の攻撃手段は魔法に限られるけど、魔法の弱点は接近されることだ。接近されれば魔法のイメージが崩れるし、余波の恐れから大きな魔法は使いにくくなる。そもそも魔法が使えなくなる状況に陥る場合も多いだろう。

 だから、接近されないようにするっていうのは魔術師にとって重要な課題だ。だけど、パーティを組んだ途端、その問題の大部分は片が付く。

 一人で戦うのと違い、味方がいるというのはそれだけ敵の狙いが分散されるということ。しかも、味方が敵を攪乱してくれればさらに狙われにくくなる。

 オーガ戦でわかったことだけど、敵の攻撃を避けながら攻撃を仕掛けるというのはとても難しいし神経を使う。一撃でも貰えば終わりということを考えればなおさらだ。

 今回、一時的にパーティを組んで共に行動してみたけど、明らかにいつもより楽だった。なにせ攻撃が全く来ないのだから。

 低級の魔物でも数が多くなればそれだけ対処は難しくなってくる。いつもみたいに散発的に少数で来るなら余裕だけど、今回のように数が多いのは考え物だ。

 リリーさんが攪乱してくれるおかげでこちらは思うがままに魔法を使うことが出来た。これから先、冒険者としてより難しい依頼を受けようとなった時、仲間の存在はとても重要なものになるだろう。


「パーティ、組まないの?」


「悪くはない、けど……」


 正直、リリーさん達とならパーティを組んでもいいんじゃないかと思い始めている。あの二人は私の事を大事に想ってくれているし、仲間として信頼できる。

 しかし、ここで問題になってくるのがアリアだ。アリアの存在を受け入れてくれるかどうか。

 アリアは妖精であり、妖精はとても希少な存在だ。私がアリアのことを打ち明けたとして、果たしてあの二人はいつも通りに接してくれるだろうか?

 私はあの二人のことを何も知らない。でも、冒険者になるからには何かしらの理由があるのだとは思う。

 リリーさん達の目的は何なのか。それがもしお金だったとして、金の生る木であるアリアを見てどう思うか。それを考えるとなかなか踏ん切りがつかない。

 アリアは私に生きる希望を与えてくれたかけがえのない存在だ。アリアと別れるくらいだったら、私は一人を選ぶ。


「私のことで悩んでるんだったらさ、言わなければいいんじゃない?」


「え?」


「今まで通り、私は隠れてるからさ。ハクがパーティを組みたいって言うなら、私は止めないよ?」


「でも、それじゃあアリアが……」


「私のことは気にしなくていいよ。ハクはどうしたいの?」


 打ち明けないという選択肢。確かに、それも可能かもしれない。アリアは今まで通り姿を消してついてきて、私はパーティを組む。

 でも、そんなこと可能なのだろうか?

 一時的だったらいい。だが、常に行動を共にするとなれば必ずボロは出るだろう。その時、追及を逃れられなければアリアのことが露呈することになる。

 それに、数少ないアリアとの触れ合いが減るのもマイナスだ。念話で会話ならできるかもしれないけど、こうして姿を現して、気兼ねなく会話する方が心が休まる。

 ばれなかったとしても、仲間に対して隠し事があるというのは罪悪感がある。近い将来、そのことで苦悩するのが目に見えている。

 それに目を瞑ればいい案、なのだろうか? 表面上は何も変わらず、仲間を得る。

 これから先も冒険者を続けていくなら仲間は必要になるだろう。ここでそれを手に入れるべきなのだろうか。


「……」


「……まあ、今すぐ決められないって言うなら先延ばしもありだと思うけどね。あの人間ならハクがパーティに入りたいって言ったらいつでも歓迎してくれそうだし」


「そう、だね」


 結局のところ、そういう結論に至るしかない。決められないなら決めなければいい。重要な選択ではあるけど、焦るようなことでもない。だったら、今は現状維持で、未来の自分に託せばいい。

 うーん、優柔不断ってこういうことを言うんだろうな。なんだか情けない。


「ゆっくり決めていけばいいよ。ハクの人生なんだからさ」


「う、うん。ありがとね、アリア」


「どういたしまして」


 さて、くよくよ悩むのは止めだ。今できることをやろう。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アリア先生のハクさんへの接し方が貴い、当然ハクさんがアリア先生に抱く感謝の心が漏れているのもベリーグーです。ふたりの道行きに笑顔が溢れますように。
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