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第二百五十一話:家族団欒

 私のお母さんはとても見目麗しい人だ。

 もし人前に姿を現せば誰もが振り返り、血気盛んな男達は声を掛けに来るだろう。

 自分で言うのも何だが、私がそこそこに整った容姿をしているのはお母さんが自分に似せて体を作ってくれたからかもしれない。


「皆さん、ようこそおいでくださいました。今日はゆっくりしていってくださいね」


 そんな思い出の中の美人は現代でも健在らしく、私と同じエメラルドグリーンの瞳が優し気に揺れていた。

 夜になり、再び洞窟を訪れた私達は洞窟内に作られた部屋の一つでテーブルを囲んでいる。

 まあ、テーブルと言っても平たい岩の上に大きな葉っぱを乗せただけのワイルドなものだが。

 この場にいるのは私とお姉ちゃん、サリア、アリア、エル、そしてお父さんとお母さんだ。

 どこに行っていたのかは知らないが、お母さんは帰ってくるなり私の事を抱きしめて離さなかった。

 何度も私の感触を確かめ、頭を撫で、頬をぷにぷにし、それはもう色んな所を触られた。

 でも、それがなぜか嫌ではなくて、まるでお姉ちゃんと一緒に寝た時のように安心するものだったのはこの人が私のお母さんだからだろうか。

 その後、お父さんがそれを羨ましそうに見ていたので再び抱き着いてやり、思いっきり甘えてあげた。

 その間、お姉ちゃん達は気が気ではないと言った様子で緊張していたし、アリアはお母さんの姿を見て見惚れていたしでグダグダになったが、お母さんが料理を作るという話を出してくれたおかげでみんなで夕食を取ることになった。

 料理のラインナップはカレー、そして食後のデザートにアイスクリームだった。

 そう、カレー。前世において大人も子供も大好きな定番料理だったあのカレーだ。

 一応この世界にもカレーはあるらしい。転生者だって結構いるみたいだし、その中の誰かが広めていたとしてもおかしくはない。

 ただ、オルフェス王国ではあまり伝わっていなかったようであまり馴染みがなかった。

 アイスクリームも氷の魔石を使った魔道具が必須であり、氷の魔石はそこそこ貴重なのであまり出回っていない。

 王城あたりならあってもよさそうだが、一度も出されたことはないから王様も知らないのかもしれない。

 お母さんが知っているのは私が昔教えたからだ。当初は料理とも呼べないような食事ばかりだったので、食の安寧をもたらすためにも色々手を回していたらしい。

 おかげでお母さんは前世の世界の料理を結構作れる。この世界の料理とは味の濃さも全然違うし、お姉ちゃん達の口に合うかはわからないが、私は大好物だ。思わず涎が垂れてしまう。


「それでは、ハクが生きていてくれたことを祝して」


「そして、ハクに素敵なお友達ができたことを祝って」


「「「いただきます」」」


 お姉ちゃん達がお皿に盛られたカレーを訝しげな様子で眺めているのをしり目に私はすぐさま齧り付く。

 この世界の食材は割と前世の世界のものと名前が同じなので覚えやすい。いや、本当は別の名前なのかもしれないけど、恐らく転生者の誰かがそう言ったことをきっかけに広まっていったんじゃないだろうか?

 一つ、学園での授業で勇者の話が出た時に、勇者が思わず零したカレーという言葉からこの世界のカレーが作られたという話を知っているし、他の食材もそうした転生者の影響と考えれば納得がいく。

 実感はないが、実に700年以上ぶりのカレーの味に私の舌はびっくりしてしまったらしい。ピリッとした辛味に少しむせ込んだが、やがて馴染みの味だと理解するとスプーンの速度は増していった。

 それを見て、お姉ちゃん達も恐る恐ると言った様子で口を付けると、その後は言うまでもない。数分後にはお代わりと言ってからの皿を差し出してくる姿があった。


「そうだ、二人にお土産があるんです」


「ほう、土産とな」


「なにかしら」


 食事が一段落した頃、私は【ストレージ】からお土産を取り出す。

 ちなみに、今はお父さんは人化しているので普通に人の言葉を喋っている。と言っても、基本はこの大陸の言葉だからお姉ちゃん達はよくわかっていないようだけど。

 それぞれお酒と調味料を渡すと、お母さんは嬉しそうに頬を綻ばせ、お父さんに至っては目の色を変えていた。


「これは、オルフェスの酒か。あそこの酒はなかなか手に入らなくてな、感謝するぞハク」


「私が料理好きなのを覚えていてくれたのね。嬉しいわ」


 正確には覚えていたわけではなくエルに教えてもらっただけだが、まあそれは些細な問題だろう。今ならお母さんとの思い出も思い出せたし、覚えていたと言っても間違いではない。ただ、時系列が変わるだけで。

 お父さんは早速酒の蓋を開けて木のジョッキに注いでいる。手の速いことだ。

 まあ、喜んでくれたならいいんだけどね。


「なんか、こうしてみると全然竜とか精霊って感じしないね」


「確かにな。人の姿を取ってると、ほんとにただの人間にしか見えないぞ」


 お姉ちゃんとサリアがひそひそと話し合っている。

 人化した状態のお父さんの容姿は老年の剣士と言った風貌だ。銀色のざんばら髪に見るだけで委縮してしまいそうな鋭い金の双眸。皺が寄り、やや衰えたような顔ではあるが、それを感じさせないだけの気迫と貫録を持っている。

 片やお母さんは白のドレスを着た優しげな貴婦人と言った容姿だ。若草色の長髪に同じ色の瞳。精霊はおよそ少年や少女と言った年齢の容姿が多いとされているが、お母さんはそれよりも若干成長した妙齢の女性と言った感じだ。

 二人とも人間離れした魔力を持っているが、人状態ではそこまで魔力が漏れるわけでもなく、ちょっと威圧感があるな? くらいの印象しかない。

 お父さんは人状態になって、お母さんはわざと人間に姿を見せるように意識してようやく認識できる変化ではあるが、確かにこの状態であれば普通の人と言っても通るような印象だった。

 しかし、それは外見だけの事。もし勝負を挑めば並の人間であれば即座に無力化されてしまうだろう。お父さんは当然として、お母さんも精霊の女王として強い力を持っている。この夫婦に勝てる人がいるとしたら、それこそ勇者くらいしかいないだろうね。


「私、リュミナリア様を初めて見たけど、あれはどんな精霊でも惚れるわ。魔力が心地よすぎるもの」


「私よりも?」


「そ、そういうわけじゃないよ。むしろ今ならハクの方が心地いいくらいだから」


 お母さんの魔力はお父さんの魔力と違ってとげとげしさが全くない。同じ量の魔力を放出していたとしても、お父さんならば委縮してもお母さんならば平然と立っていられると思う。

 精霊は魔力生命体で、魔力の多い場所を好む性質があるけれど、一口に魔力と言っても色々あって、森の中にある静かな水辺を好む精霊もいれば特定の人の近くを好む精霊もいる。でも、その中でもお母さんの魔力は別格で、傍にいるだけで安らぎを感じさせてくれるらしい。

 必然、お母さんが立ち寄る場所は心地よい魔力が充満するし、お母さん自体も魔力補給スポットとしてかなりの好条件物件なのだ。

 恐らく、私が精霊に好かれているのはそんなお母さんの魔力を受け継いでいるからだろう。アリアがあそこに立ち寄ったのももしかしたらこの魔力があったからかもしれないね。


「ふふ……」


 こうしてみんなで団欒するのはとても楽しい。

 一度は両親という存在に疑問を抱いたけど、それは偽りのものだった。こうしてきちんと愛情を注いでくれた両親に巡り合い、親、友達と共に語らう。それはとても幸せなことだ。

 人としての生活を捨てる気はないけれど、今だけはもう少しだけこんな時間が続いてくれたらいいのにと思った。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば、ハクさんやリュミナリアさんを害したら人族全体が精霊からそっぽ向かれたりしないのかな
[良い点] 世界すら揺るがせる高貴なる竜王と精霊女王の夫婦との晩餐が(´ω`)庶民的なカレーライス!なんたるほのぼの空間、日本の国民食は異世界の人々の胃袋さえ掴むのか!! しかしハクさんの知識有りと…
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