第二百四十一話:その後の対応
その後、念のため闇魔法で拘束した後、子供達の様子を確認すると、皆縛られていたとはいえ特に怪我をしているという様子はなく無事であることが確認できた。
もしこれで怪我でもしていようものなら半殺しにしているところだが、ひとまず無事なようでほっと安堵する。
子供達もまさか再び誘拐されるとは思っていなかったようで、私の姿を見た途端安堵のあまり泣き出してしまう子もいた。
縛られているロープをほどき、凍り付かせてしまった車輪を直している途中でお姉ちゃん達も追いつき、そのまま町に戻ることになった。
「ハク、助けてくれてありがとう!」
「いえいえ、無事で何よりです」
一度ならず二度までも誘拐されるという不運。確かに獣人というだけあって子供にしてはかなり力もあるし働き手として利用するには十分ではあるだろうが、わざわざ手間をかけてもう一度攫うとはよほど金が欲しかったのだろうか。
確かに、船は壊れ、乗員はいなくなり、商品である子供達までもが逃げてしまったとなれば損失は計り知れないだろう。今回の件で捜査もされるだろうし、それで証拠が見つかってしまえば待っているのは死か、よくても犯罪奴隷である。
子供達が港町に帰ってきたことは大々的に知らせてしまったからいずれ捜査されるであろうことは予測できただろうし、だったらさっさと逃げればいいのにと思うのだが、やったのは子供達の誘拐。一体何がしたいのか。
言い逃れられる自信があったのか、それとも目先の利益だけを追い求めて損失を取り戻そうと動いた結果なのか、どちらにしてもあまり賢い選択とは思えない。
ともかく、その辺りはピエールさんが何かしらの成果を上げていることだろう。まずは町に戻って、報告しなければならない。
行きでは文字通り飛ぶような速さで移動した道だが、普通に馬車で移動するとなると結構遠い。しかし、それでも一時間程度のこと。特に魔物や盗賊に襲われるというトラブルもなく、無事に戻ってくることが出来た。
町に戻ると、ひとまず子供達を宿まで送り、すぐにピエールさんに報告に行くことにした。
こういうのって普通はアポが必要なのかもしれないけど、誘拐犯の引き渡しもしなくてはならないし、重要な話だから恐らく許されると思う。
ひとまず、警備隊の詰め所に捕まえた男を引き渡してから相変わらず立派な屋敷の扉を叩くと、すぐに執事が対応してくれ、ピエールさんと面会させてもらえることになった。
ピエールさんの中では冒険者であるお姉ちゃんが生き残ってくれたからこそ子供達もパニックにならずにこの町まで辿り着くことが出来た、という印象のようでかなり特別視しているようだ。
なので、お姉ちゃんが来たらすぐに通すように言われているようで、特に問題もなく家に上がらせてもらうことになった。
念のためお姉ちゃんに付いてきてもらってよかった。一応、私もお姉ちゃんの妹の冒険者ということになっているけど、あまり信じられていないようだしまともに取り合ってもらえないのではないかと思ったのだ。
ちなみに、エルとサリアは子供達と一緒に残ってもらっている。また手を出してこないとも限らないしね。
「お待たせした。どうしたんだい?」
応接間に通されてしばし待っていると、ピエールさんがやってきた。
私は挨拶もそこそこに子供達が誘拐された現状を伝える。すると、ピエールさんはやってしまったと苦々しげな表情を浮かべた。
「申し訳ない。こちらの監視が甘かった。私のミスだ」
「いえ、私も油断していました。まさかこのタイミングで再び誘拐してくるなんて」
タイミングからして、子供達を誘拐したのは子供達を奴隷として売り飛ばそうとしていた連中で間違いないだろう。ピエールさんがどういう指示をしたのかも知っていたようだし、この町に拠点を構えるパラム商会が黒と見て間違いなさそうだ。
ただ、だとしても豪胆すぎる。普通、誘拐がばれそうになっているタイミングで再び誘拐なんてするだろうか? 最初の件は何とか言い逃れできたとしても、二回目の誘拐が失敗すればほぼ確実に言い逃れはできなくなってしまう。
成功したとしても結果的には利益はマイナス止まりだし、それならばれる前に逃げてしまい、別の場所で再起を図った方がまだいいのではないかと思うのだが。
「パラム商会の件はどうなりましたか?」
「ああ。領主権限で強制捜査を行ったのだが、残念ながら明確な証拠は見つからなかった。船に関しても、何人かの商人に貸し出しているだけで、そこで違法な輸出が行われていても自分達にはわかりかねると言ったように言い逃れられた」
言い逃れに関しては予想通りと言えばその通りだ。時間はあっただろうし、帳簿とか取引記録とかを隠すことも容易だっただろう。
強制捜査とはいえ、隅から隅まで見れるわけではないだろうし、見逃しは絶対にある。その辺はピエールさんの部下の手腕にかかっているけど、どうやら今回はあまり発揮されなかったようだ。
「なら、今回の誘拐の犯人を警備隊に引き渡しているので、尋問してみてはどうでしょうか」
「おお、捕まえてくれたのか。それはありがたい」
唯一の手掛かりはあの男だ。もし彼の口からパラム商会の単語が出れば確実に黒と言えるし、そうでないにしても少なくとも実行犯グループくらいは検挙することが出来るだろう。
あの男が仲間を売るくらいなら死を選ぶ、みたいな鋼の精神をしていたら別だが……。
まあ、もしもの時は私がちょっと威嚇してやれば素直に吐いてくれそうな気もするし、そこまで落胆することでもないだろう。
「ならすぐに尋問官を送ろう。絶対に証拠を出させてみせる」
「お願いします。それと、町を出入りする馬車の積み荷は確認させた方がいいですよ。また誘拐なんて起きたらたまりませんから」
「わかった。すぐに通達しよう。今回は本当に済まなかった」
深々と頭を下げるピエールさん。
貴族が冒険者に向かって頭を下げるなんて他の貴族が聞いたら何を馬鹿なことをと思うところだろうけど、こうして人を選ばず素直に謝罪できるのはいいことだと思う。
もちろん、貴族としての品位とかもあるし、絶対に頭を下げてはいけない相手というのもいるんだろうけど、そこらへんは私にはよくわからない。
ハクとしての私も白夜としての私も貴族とは縁遠い存在だったからね。今言ったのは私の単なるイメージだし、本当のところはどうかわからないよ。
尋問はピエールさんに任せ、宿へと戻る。
今回の誘拐が失敗したことはまだ向こうは把握していないだろう。ピエールさんの対応の早さから考えて、向こうが気付くよりも尋問して吐かせる方が早いはず。
証拠さえ手に入れられればより踏み込んだ捜査もできるだろうし、次こそは言い逃れられないだろう。
パラム商会とやらが完全な黒幕なのかはわからないが、ここで捕まえることが出来れば少なくとも子供達が再び狙われることはないはず。ピエールさんだって警戒するだろうし、そこまで来れば子供達の安全は保障されたようなものだ。
後はうまく証拠が見つかり、パラム商会が捕まるのを待つだけ。私達のやるべきことは終わった。
再会を喜ぶ子供達を微笑ましく眺めながら、私はふっと肩の力を抜いた。
感想、誤字報告ありがとうございます。