幕間:強くなるために
冒険者チーム『流星』のメンバー、シンシアの視点です。
冒険者チーム『流星』と言えば冒険者界隈では結構有名だ。
本来は冒険者という肩書はその方がいろんな国に行きやすいというだけの理由で持っているのでただの飾りでしかないのだが、全員がAランクのチームともなれば注目されるのは必然だった。
普通、Aランクチームと言えば、一人か二人がAランクで、他がBランク、Cランクというのがよくある編成だ。もちろん、チームで行動する以上は連携とかの要素もあるし、一概に個人個人のランクが関係あるかと言われたらそういうわけでもないけど、やはり全員Aランクというのはインパクトが強いらしい。
とはいえ、私はAランク冒険者という肩書は似合わないと思っている。
というのも、私の本職はものづくりであり、戦闘ではない。純粋な力で言えばセシルさんやルナさんには全く敵わないし、出来ることは後方で銃を撃つことくらい。
もちろん、それでも足手纏いにならないように弾丸の研究をしたり、いろんなタイプの銃を作ったりしているけれど、それでもセシルさん達には敵わない。エミちゃんのような超回復スキルがあるわけでもないし、少し中途半端な立ち位置だ。
たまにふと不安になる時がある。自分はチームの一員としてちゃんと貢献できているのかと。
もちろん、みんな優しいし、私はちゃんと役に立っているって褒めてくれることが多い。でもそれでも、不安なものは不安なのだ。
私はもっと強くならなくてはならない。特に、今はセシルさんとルナさんが不安定な状態にある。私がしっかりしなくてはならないのだ。
「そこなのです!」
手に持つ銃から放たれた弾丸は狙い過たず水でできた的に吸い込まれて行き、水飛沫をまき散らす。
銃の扱いはこの世界に来てから始めたものだけど、かなり練習したし、今や銃の名手とも言われる時がある。
だけど、それでも足りないものはあった。
「その調子。次はもっと早くするからね」
「は、はいなのです!」
私は再び銃を構えると飛び出してくる的に意識を集中させた。
現在、何をしているのかと言われれば、私の特訓である。指導してくれるのはハクちゃん、つい最近、私の仲間をコテンパンに叩きのめした人であり、同時に新たな友達になった人物でもある。
始めは調査対象である竜と親しい間柄ということで接触した人物であるが、思いの外その実力は高く、魔術師不利のルールの中闘技大会で優勝するほどの実力者である。
なぜそんな人が私の特訓に付き合ってくれているのかと言えば、きっかけは至極単純なことだった。
ハクちゃんに敗れ、これ以上の任務遂行は困難とされ、後任が決まるまでの間監視する任務を与えられているため、監視という名目でよく遊びに行ったりしていた。
そして、その席で私が愚痴を漏らしたところ、じゃあ特訓しようと言って下さり、現在に至る。
「はあっ!」
次々と出現する的を撃ち抜き、水飛沫を散らせていく。リロードも専用の弾倉を作ってあるから一瞬で終わり、瞬く間に的は消え去っていった。
これで五回目。一回やるごとに的が出現してから消えるまでの速さを早くしていき、どれだけ打ち漏らすかどうかを調べるという目的で行われたテストだが、私は見事にすべてを乗り切った。
正直、最後らへんは早すぎて結構危うかったところがあるけれど、七年間で培った技術はちゃんと体に染みついているらしい。
ただ、緊張しすぎて少し肩に力が入っていたようだ。その場に座り込み、グルグルと肩を回して凝りをほぐす。
「全弾命中。これだけ早く正確に撃てるならもう十分だと思うんですが……」
「でも、まだまだ火力が足りないのです。もっと強くならなきゃセシルさん達を守れないのです」
テストの結果にハクちゃんが淡々と告げるが、私はまだまだ足りないと自分を鼓舞する。
今まで、私の役割は後方からの支援だった。だから、極端に火力を意識する必要はなく、そこそこの火力があればよかった。
だが、前衛二人が行動不能になった時、それではみんなを守れないことに気が付いた。セシルさんやルナさんはもちろん、攻撃手段が乏しいエミちゃんは私がどうにかできなければすぐにやられてしまうだろう。
だから、たとえ前線に出ても戦えるほどの火力が欲しかった。
「火力と言いますが、前にディノメントを一撃で倒してましたよね?」
「あれは特別な弾を使ったのです」
「特別な弾?」
「はい、これなのです」
私はポーチから大きめの弾を取り出す。
これは私の前世のなんちゃって知識から作り出した弾丸で、イメージとしてはスラッグ弾に高い貫通力を付けたというのが近いと思う。
これについては私達と同じように転生した銃に詳しい人に聞いて作ったから多分合ってると思うんだけど、正直ほとんど私の勘だけで作っているから詳しいことはよくわからない。
ハクちゃんは私が取り出した弾をしげしげと眺め、感心したようにほうと息を吐いた。
「本物の弾を使ってるんですね」
「え? はい、じゃないと撃てないのです」
銃には弾が必要なのは当然のことだ。
何を当たり前のことを言ってるんだろう?
「いや、てっきり魔導銃かと思ってたので。なるほど、転生者らしいですね」
「魔導銃? どういうことなのです?」
「もしかして、知らないんですか?」
話を聞くと、この世界にも銃というものが存在するらしい。
それは魔導銃と呼ばれ、魔力を込めることで魔法の弾を発射する銃なのだそうだ。
ハクちゃんも持っているというので見せてもらうと、私が持つ銃よりもだいぶ古い感じではあるが、確かに銃であった。
てっきりファンタジーな世界なのだから銃なんて存在しないと思ってたんだけど、どうやら違ったらしい。
「まあでも、シンシアさんの銃は実際に弾を使っているだけあって魔力で威力が左右されません。あれだけの高火力を叩き出せるなら、そちらの方が優秀かもしれませんね」
「あ、ありがとうなのです!」
もっと大型のものとなれば通常の弾ならば超えるものもあるかもしれないが、特製弾を超えるようなものではないらしい。
私は自分の作った銃が褒められた気がして少し嬉しかった。
「さらに火力を求めるというのなら、魔法を組み合わせてみてはどうです?」
「それが、私は魔力がかなり少なくてまともに魔法を使えないのです」
獣人族であるためか、私の魔力量はかなり少ない。適性も火と土が少しあるだけで他は全然使えないし、魔法に関してはパーティの中で一番役に立たないだろう。
まあ、だからこその今の戦闘スタイルであるのだけれど。
「それなら、刻印魔法はどうでしょう。あれなら、そんなに魔力はいりません」
「刻印魔法、なのです?」
「はい。あ、刻印魔法はですね……」
話を聞く限り、エンチャント系の魔法と似たようなものらしい。なるほど、確かに弾丸に威力を上げる刻印魔法を刻めば火力は伸ばせるだろう。新たな弾を開発する以外であれば、それが一番手っ取り早いかもしれない。
「ただ、専用の道具が必要なのと、結構繊細な作業が必要になるのですが」
「あ、それなら問題ないのです」
私は弾を一つ手に取ると、威力を上げる刻印を刻むことを意識する。すると、見る見るうちに弾に掘り込みが出来て行き、あっという間に刻印が刻まれた弾となった。
「これは……」
「ハクちゃんには言ってなかったのです。これは私の能力なのですよ」
材料とイメージさえあれば自在に物を成型することが出来る能力。それが私の持つ特別な力だ。
私は魔道具職人を名乗っているが、その気になれば剣だって盾だってなんだって作ることが出来る。ただ、銃ばかり使うのでほとんどの人は私の能力を誤解しているみたいだ。
まあ、それはそれでいいのだけど。生産系の能力なんて金儲けを考えない限りは自分と自分の仲間に使うだけで十分なのだから。
「なるほど。とんでもない能力ですね」
ハクちゃんの表情は変わらない。驚いているのか、感心しているのか、私ではぴくりと引くつく顔を見ただけでは何を思っているのかわからなかった。
「それなら、一つ頼まれてくれませんか?」
しばし逡巡した後、控えめな形でそう切り出すハクちゃん。
ハクちゃんから頼み事なんて珍しい。いつもは淡々と私の話を聞き、時には私のちょっとしたお願いを聞いてくれたりするだけで自分からは何も言わないのに。
少しは友達として距離が近づいてきたのだろうか。そうだとしたら嬉しい。
私は話を聞き、即座にオーケーを出した。
何と言っても友達の頼みだもの、叶えないわけにはいかないよね。
感想、誤字報告ありがとうございます。