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第二十六話:戦いが終わって

 目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。微かに漂う薬品の香りが鼻を衝く。くらくらとする視界でゆっくりと周囲を見回してみると、どうやら私はベッドに寝かされているのだということに気が付いた。


「あ、気が付いた。大丈夫?」


 ぼーっとする頭でしばし部屋を観察していると、目の前に小さな人影が入り込んでくる。

 口調こそいつもと変わりないが、その表情はとても悲し気で、心配してくれているのだということがわかる。

 大丈夫だと伝えようとして体を起こそうと腕に体重をかけると、鈍い痛みに襲われて思わず倒れ込んでしまった。

 ああ、そうか、思い出した。私はオーガに狙われた二人を助けるために飛び出して、振り下ろされた棍棒をまともに受けたんだ。

 腕を見てみると、包帯でぐるぐる巻きになっている。動かせはするが、動かすたびにじんじんと鈍い痛みが襲ってくる。


「ダメだよ。治癒魔法はかけたけど完全に治ったわけじゃないんだから。動かしちゃダメ」


「アリア、私、どうなったの?」


 攻撃を受けた後の記憶がどうも曖昧だ。確か、リリーさんがオーガに止めを刺していたような気がするけど……。


「あの後ソニアって人が治癒魔法をかけて、みんなでギルドまで帰ってきたんだよ。私も便乗して治癒魔法をかけておいたから、しばらくしたら痛みも引くと思うよ」


「そっか。じゃあ、みんな無事なんだね」


「まあ、逃げる時に転んで怪我した人はいたけど、みんな無事だね」


「よかった……」


 それを聞いて安心した。恐らくオーガは今回のパーティで狩るような魔物ではない。明らかに格上の存在だった。それなのに一人の犠牲も出なかったのは不幸中の幸いだろう。

 ほっと胸を撫で下ろしていると、不機嫌そうなアリアの顔と目が合った。


「よかった、じゃないよ! なんであんな無茶したのさ! 私がとっさに防御魔法を重ね掛けしなかったら潰されてたかもしれないんだよ?」


 そうか、あの時は自分の防御魔法のおかげで耐えらえていると思っていたけど、アリアも力を貸してくれていたんだね。

 それもそうか。後から魔力でブーストしたって最初の時点で力負けしてたらそのまま押し潰されてるもんね。ただでさえ力がないのに、真っ向から立ち向かったらそりゃそうなるか。


「ごめん、あの時は無我夢中で……」


「今回は腕の怪我だけで済んだからいいけど、もう二度と無茶しちゃだめだからね!」


「は、はい……」


 お礼を、とも思ったけど、顔を真っ赤にして怒っている今のアリアに言っても逆効果っぽいなぁ。

 振り返ってみても、なんであんなことしたのか自分でもわからない。

 目の前に困っている人がいたら助けられるなら助けるくらいの気持ちはあるけど、あんな自分の身を挺してまで守るなんて、そんな柄じゃないはずだ。

 アリアが相手ならわからないけど、あの時庇ったのは出会って数時間程度のほぼ初対面の人だったし、何が私をああさせたのかがわからない。

 私は私のはずだ。変わったとすれば、全く別の人生を歩んだ記憶があるということ。もしかして、その記憶が関係しているのだろうか?

 前世の私はそんな善人だったのだろうか。思い出そうとしてみても、そんな記憶に心当たりはない。


「……ちっ、誰か来た」


 そう言うや否や、アリアの身体が周囲の景色に溶け込んで消えていった。完全に見えなくなった瞬間、ガチャッと扉が開く音と共に誰かが入ってくる。

 視線を向けてみると、リリーさんとソニアさん、それに筋骨隆々の見知らぬ男性がいた。


「ハクちゃん! よかった、目を覚ましたのね」


 リリーさんは素早い動きで接近すると、私の顔をそっと抱きしめてくる。

 ちょっと、胸が当たってるんだけど……。

 抵抗しようとも思ったが、腕を動かそうとすると鈍い痛みが走り、結局されるがままになってしまった。

 ソニアさんもリリーさんに続いてベッドに腰かけ、私の顔を覗き込んでくる。


「本当によかった。目を覚まさなかったらどうしようかと」


「そんな大げさな……」


「それだけ危なかったってことですよ。ボロボロだったんですからね?」


 まあ、確かにあの時は痛かった。腕の感覚も無くなってたし、あと少しでも遅かったら潰されていたかもしれない。

 そういえば、あの時止めを刺したのってリリーさんだよね? お礼を言わなきゃ。


「リリーさん。助けてくれてありがとうございます」


「そんな、こっちこそソニアを助けてくれてありがとう。ハクちゃんがいなかったら、助からなかったかもしれないわ」


「はい。ハクさんは私の命の恩人です。感謝しています」


 見たところ、ソニアさんに目立った傷跡はない。治癒魔法を使ったのかもしれないけど、それで治るくらいの傷なら大したことはないだろう。

 あの時無鉄砲にも飛び出した甲斐はあった。


「ハク君。無事に生還できたことを嬉しく思う」


「は、はい。ありがとうございます」


「私はこの町のギルドマスターをしている、レオンだ。今回はギルドの調査不足で危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ない」


 お互いの無事を喜びあっていると、二人の後ろにいた男性が話しかけてきた。

 誰だろうとは思っていたけど、ギルドマスターさんでしたか。確かに、筋骨隆々な体は見るからに強そうでそんな雰囲気はする。

 見た目とは裏腹に、その物腰は柔らかだった。深く頭を下げるレオンさんに慌ててこちらも頭を下げる。


「君達のおかげで被害を最小限に抑えることが出来た。オーガを相手にあのパーティでここまでの成果が上げられたのは君達の実力と幸運によるものだろう。特に、オーガ二体を相手取って奮闘したハク君とリリー君には賛辞を述べたい。ありがとう」


 聞くところによると、オーガは本来Cランク冒険者がパーティ単位で相手にするような相手らしい。今回の討伐隊でCランクはロランドさんとリリーさん、ソニアさんの三人だけ。一体ならまだしも、五体も同時に相手にできるような編成ではなかった。

 ギルドに連絡が入った時は全滅も覚悟していたのだという。しかし応援に来てみればオーガは全滅していた。

 ロランドさんとリリーさんの実力が高かったこと、そして、私が思いの外奮戦してくれたおかげで町に被害が出なかったのだとそう聞かされた。

 確かにあの時はやばかった。オーガ三体に囲まれた時は生きた心地がしなかった。実際、目に身体強化魔法をかけてなかったら早々にやられていただろう。

 念には念をと考えた魔法が役に立って本当によかった。


「他にも話したいことはあるが、今は怪我を治すのが先だろう。報酬の話も併せて後日改めて話すとしよう」


 気を使ってくれたのか、レオンさんは早々に話を切り上げて部屋を出ていった。リリーさん達も少し話した後部屋を出て行き、再び静寂が訪れる。

 ……落ち着いてきたら何だか頭痛が酷くなってきた気がする。なんだか視界もぼやけて見えるし、やっぱり無茶しすぎたのかな。


「ほら、もう休んで。早く元気になってね」


 耳元でアリアの声が聞こえてきた。あんまりよく見えないけど、寄り添ってくれているのはわかる。

 少し休もう……。

 目を閉じ、体の力を抜くと、そう時間がかからないうちに再び眠りに落ちた。

 誤字報告ありがとうございます。助かります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロランドとリリーがランク相応の強者として描写されてるところ 特にロランドみたいに絡んでくるやつって贔屓や実力以外で上がってきて実力が大したことないパターンか 主人公の噛ませにされること多い…
[気になる点] 常時魔法展開をやり出したぐらいからの謎の頭痛、魔力溜まり以来と言う事は……魔力量が増加中かな?
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