第二百十五話:戦闘準備
「け、決闘だと?」
私の申し出に面を食らったのか、きょとんとした表情をしている。
話し合いで決着がつかないならもう戦ってわからせるしかない。古来より発言力というものは強い者が所持しているものだ。
最初は話し合いでとか思っていたけど、あまりにも要領を得ない発言を聞いていて私もキレてしまった。
後から考えると早まったかなと思わなくもないけど、この時はそんなこと頭になかった。
「そうです。お互いに主張が通らないんですから、戦って勝った方の言うことを聞く。これが一番手っ取り早いでしょう?」
「いや、それはそうなんだが……」
明らかに困惑している様子。
まあ、片や学生で片やAランク冒険者。私もBランクの冒険者ではあるけど、普通に考えればどちらが勝つかなんて目に見えている。
なにせ相手は転生者で特別な力を持っている。Aランク冒険者まで上り詰めたのだから、さぞや強力な魔物を狩ってきたことだろう。しかし、それはこちらも同じこと。
子供だからと甘く見るならそれでもいい。私が有利になるだけだ。まあ、全力を出してきたとしても叩き潰すけど。
「来週に闘技大会が開かれるのはご存知ですか?」
「ああ、知っている」
「では、私はそれに出ますのでルナさんも参加してください。そこで決着を付けましょう」
「……本当に決闘する気なのか? 私が勝ってしまうぞ?」
心配そうな視線を向けてくるルナさん。
私についての情報は概ね知っているはずなのだが、それでもなおこの余裕。相当腕に自信があるようだ。
「それで何かそちらに不都合がおありですか? それとも、怖気づきましたか?」
「む、そんなことはない。その決闘、受けて立つ」
「望むところです。では、闘技大会でまた会いましょう」
「ああ」
その気になれば今すぐにでもやってもよかったが、ちょうど闘技大会という公式の場があるのだ、そこで叩きのめした方が負けを認めさせやすいだろう。
下手に適当な場所で決闘して後でごねられても困る。
ルナさんの性格ならきちんと約束は守ってくれることだろう。もし守らなかったら……ちょっと痛い目を見てもらうことになるかもね。
ルナさんはそのまま席を立ち、部屋を出ていった。
用もなくなったので私も部屋を後にする。先生に報告は……しなくてもいいか。別に何も言われてないし。
さて、闘技大会に出るというなら私も色々準備しなくてはいけない。前回は飛び入りだったけど、今回は学園枠で参加できそうだし、時間もある。
すでに学園が登録を済ませていると考えると、予選でルナさんと当たることはないだろう。うまくいけば本選初戦、運が悪ければ決勝かな。
当然、ルナさんと当たるまでに負けてしまっては意味がないので目指すは優勝だ。
何が必要になるかを思い浮かべつつ、私は寮へと戻っていった。
テストが終わり、シルヴィアさん達との打ち上げを楽しんだ後、私は早速準備のために町を訪れていた。
今回のお目当ては魔石各種。お相手の得意属性がわかっていればそれに対応した魔石だけで済んだんだけど、うっかり【鑑定】し忘れてしまったから全種類用意するしかない。
どうにも、人に対して【鑑定】するっていうのは慣れない。魔物相手ならだいぶ慣れてきたんだけどね。
まあ、それはともかく、魔石を用意するのは魔力切れ対策だ。
以前は決勝戦で惜しいところまで行ったけど、結局は魔力切れで負けてしまった。だから、魔法の触媒となり、魔力の肩代わりをしてくれる魔石を使えば多少なりとも魔力の節約ができるんじゃないかと思ったのだ。
それに試したいこともあったしね。
幸い、この時期は王都周辺の魔物の掃討が行われるから魔石は結構な量が流通している。と言っても、大体は無属性の魔石なので変換しないといけないのだが。
一応、無属性の魔石でも魔力タンクとして使用する分には使えないことはない。効率は悪いけどね。
適当に手頃な大きさの魔石を買いあさり、百個ほどを確保する。こんなに要らないかもしれないけど、まあ一応ね。
「じゃあ皆さん、ご協力お願いします」
「おう、任せろー」
「ハクお嬢様の頼みとあらば!」
「私達も精一杯頑張りますわ」
「時間かかるかもしれませんが、ハクさんのためならば」
「魔石の変換? 任せて」
「こんなに要らないと思うんだけど、まあ、ハクがそう言うなら」
魔石を買い、みんなで集まったのはサリアの家だ。
なぜみんなに集まってもらったかと言えば、魔石の変換を手伝ってもらうためだ。
本来、魔石の変換はかなり時間がかかるものだけど、今回買った魔石はかなり小さい。うまく行けば一つ辺り数時間で出来上がるはずだった。
本当は私がやれば早いんだけど、流石にこの数を全部変換するのは骨が折れるから、こうして集まってもらったというわけだ。
私の交友関係をさらってみると、意外に属性が揃っている。サリアは闇属性、エルは氷属性、シルヴィアさん達は火属性でお姉ちゃんは光属性、アリシアに至っては基本属性をすべて持っている。
不意の申し出にも拘らずこうして集まってくれたみんなには感謝している。
お姉ちゃんとかは加減がわからず魔石を砕いてしまうことも多々あったけど、サリア達は私が授業で教えていることもあって比較的安定していた。
「これだけあれば足りるかしら?」
「はい、十分です。皆さん本当にありがとうございます」
闘技大会まで残り二日、出来上がった魔石は全部で六十三個。半数近く割れてしまったけど、まあそのために多く買ったのだから問題ない。
後はこれに一工夫加えて、正常に機能するか確かめるだけだ。
「闘技大会、見に行くから頑張ってね」
「私達も! 優勝期待していますわ!」
「私も、道場の皆さんと見に行きますから」
すでに学園側からは私が参加するようにお達しが来ている。
流石に全員辞退はなかったようだけど、参加するのは私と六年生の学生が二人だそうだ。
随分少ない、けどまあ、学園としては形だけでも参加させられればいいだろうし、問題はないだろう。
というか、私が優勝を狙うことが問題な気がするけどね。もし本当に優勝したら学生で初の優勝者になるだろうし。
だが、自重する気はない。ルナさんは完膚なきまでに叩きのめす。いや、流石に竜の力は使わないでおくけどね?
さて、後必要なのは……アンジェリカ先生なら知ってるかな? すでに放課後となっているが、今ならまだいるだろう。アンジェリカ先生に会いに職員室へと向かう。
「失礼します」
放課後ということもあり、教師の数は少ない。ここにいるのは基本的に学園に常駐している先生達だ。
机に書かれている名前を頼りに進むと、アンジェリカ先生が書類を片付けているのが目に入る。
「アンジェリカ先生、今大丈夫ですか?」
「ん? あら、ハクじゃない。どうしたの?」
私はある道具が借りられないか聞いてみる。刻印魔法の先生であるアンジェリカ先生なら知っていると思ったのだが、やはり知っているようだった。
「ええ、構わないわよ。でも、何に使うつもり?」
「そりゃあ、そのままの用途ですよ」
授業ではまだ使用されていないから疑問に思っているようだけど、やるべきことは決まっている。
今期の授業はもうないそうなので、しばらくは借りていて大丈夫らしい。闘技大会まで借りられればそれでいいのですぐに借りられて安心した。
ふっふっふ、さて、面白くなってきた。
感想ありがとうございます。