第二十四話:顔合わせ
お待たせしました。
朝起きると昨日の朝と同様軽い頭痛に襲われた。今日は大事な日だというのに幸先が悪い。
頭を振って頭痛を飛ばすと、手早く食事を済ませて町へと向かう。
ギルドに集合するのは正午だが、先に服を取りに行くのだ。
二日前にロニールさんに連れられて通った道を思い返しながら進むと、商業区へと辿り着く。
窓際に並べられたマネキンに着せられたドレスはやはり美しく、店の品位が高いことを窺わせる。今更だけど、こんな店に私みたいな子供が来ていいのだろうか。
おずおずと店の中に入ると、マリーさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、ハクちゃん。依頼の服、出来ているわよ」
相変わらず笑顔が美しい。そのまま店の奥へと促され、出来上がった服と対面する。
私に合うように小さくなってはいるが、それは紛れもなく以前見せてもらった服だった。新しく縫い直したのか、紺色の布地が滑らかで触り心地が良い。一緒に頼んだ黒の外套は頭をすっぽり包めるフードが付いている。動きやすさを重視しているが、要所要所につけられているリボンが可愛らしさを出している。
「おお……」
「さ、試着してみて。大丈夫だとは思うんだけど、合わなかったら言ってちょうだいね」
促されるままに袖を通してみる。採寸の時はぶかぶかだったが、これはぴったりだ。
姿見を見せてもらうと肩にかかるほどの銀髪の少女が真新しい服を着こんでいるのが映った。こうしてみると、なんだか服に着られているという感じがする。まだ冒険者っていう風格はないなぁ。
軽く動いてみたが、動きも阻害しないし見た目もいい。流石マリーさん、いい仕事をしている。
「大丈夫そうね。それとハクちゃん、これをあなたに贈るわ」
そう言ってマリーさんが取り出したのは革のブーツだった。頑丈そうで、新品なのか汚れ一つない。きょとんとしていると、ボロボロの私の木靴を脱がせて履かせてくれた。
足裏が痛くない。慣れた痛みがないのは少し違和感があったが、それだけいいものということだろう。
「あ、あの、これは?」
「私からハクちゃんへの贈り物。大事に使ってくれると嬉しいわ」
にっこりと微笑むマリーさんの笑顔に私はしばらく固まってしまった。
元々ファッションセンスなんて皆無で、服は着られれば何でもいい、靴は履ければ何でもいいだった私だ。こうして贈られなければこれからもずっとボロボロの靴のままだっただろう。
恐らく旅用なのだろう。頑丈そうなブーツはちょっとやそっとでは傷つかなさそうだ。履き心地も全く違う。結構な値段がしたのではないだろうか?
「……ありがとうございます。大切にします」
服も見繕ってもらって靴まで貰って、見た目だけなら旅人に見えるかもしれない。私の事を想ってくれている人がいるからこそのこの姿だ。嬉しくないわけがない。
思わずギュっと抱き着いてしまった私をマリーさんは優しく抱き留めてくれた。この温もり、包み込まれるような愛を私は欲しているのかもしれない。
「これから大変かもしれないけど、頑張ってね」
「はい!」
いつまでも甘えていたいがそういうわけにもいかない。そろそろ行かないと正午になってしまう。
改めてお礼を言って店を後にするとギルドへと向かった。
ギルドに着くとちょうどいい時間になっていた。中に入ると、すでに待っていたであろう何人かの冒険者達が受付の前にたむろしている。全部で……14人かな?
「あ、ハクさんも来たようですね。これで全員揃いました。それでは……」
「おいおい、こんなチビまで参加するのかよ」
シャーリーさんが説明を始めようとするとそれに割り込むようにして冒険者の一人が声を上げる。両ポケットに手を突っ込んで壁に寄りかかっている大柄な男だ。その傍らには愛武器なのかハンマーが置かれている。
「これは遊びの集まりじゃねぇんだぞ。乳くせぇガキはすっこんでな」
厳つい顔で威嚇するように睨みつけてくる。
まあ、実際ガキだしこの依頼もシャーリーさんの厚意で受けさせてもらったようなものだから場違いなのはわかってるけど、面と向かってそう言われるとちょっと腹立つなぁ。
「ロランドさん、ハクさんはれっきとしたEランク冒険者です。この依頼にも参加する資格はあります」
「でもよぉ、どう見たって足手纏いにしかならねぇだろ。ガキの御守なんて俺はごめんだぜ」
窘めるようなシャーリーさんの言葉も全く意に介さないようだ。
こちらを怖がらせようとしているのか、ちょいちょい角度を変えながら睨みつけているのが逆に面白い。
普通の子供だったら怖がってたかもね。でも残念、こちとら陰口悪口なんて言われ慣れている。こんな冒険者が一堂に会するギルドのど真ん中で襲ってくることもないだろうし。仮に襲って来られたとしてもこの程度だったら何とかなる気がしないでもない。
だって、完全に脳筋の香りがするもん。見た目も武器も。
「討伐数だけで言ってもここ数日であんたの倍は倒していると思うけどね。普段から酒浸りで碌に依頼に行かないあんたよりはよっぽど優秀だと思うよ」
「あ?」
そんな男に意見する者がいた。私の隣にいた女性が一歩前に出ると、蔑むような視線で男を見据える。
あれ、この人どっかで見たような……。
剣士だろうか、革の鎧を着て、腰には細い剣を佩いている。
男は一瞬きょとんとした顔をしたと思うと次の瞬間には大きな声で笑い出した。
「はっはっは、面白い冗談だ。Cランクの俺よりこいつの方が上だぁ? 笑わせるぜ」
「冗談でもなんでもないんだけどねぇ。この子のこと知らない時点でだいぶ遅れてるし、流石脳筋だわ」
「誰が脳筋だ。その脳天かち割ってやろうか?」
「……そろそろいいですか?」
しばらく言い合っていた二人だったが、シャーリーさんがコホンと咳払いをすると、ちっと舌打ちしながらも黙った。
こんな厳つい冒険者を黙らせるとは流石。まあ、ギルドの職員はその気になればギルド証を剥奪する権利を持っているからね。冒険者としては逆らえないか。
全員黙ったところでシャーリーさんが今回の依頼について説明を始める。
今回の依頼は街道に現れた無数の魔物の掃討。目撃されている数はおよそ五十ほどで群れと言ってもいい規模だ。一人では手に余るため、複数人でパーティを組んで戦うことになる。
シャーリーさんに促され、集まった冒険者達が自己紹介を始めた。
「私はリリー。こっちのソニアと一緒にパーティを組んで活動しているCランク冒険者よ。よろしくね」
「ソニアです。どうぞよろしくお願いします」
どうやらあの女性はリリーというようだ。どこかで見たことがあるなと思っていたけど、以前勧誘された時にいた唯一の女の人だと思い出す。
Cランクってことは、一人前の冒険者ってことか。まだまだ先は長いなぁ。
自己紹介を終えると、私の方を見てウインクしてきた。ソニアさんの方もぺこりと一礼して元の位置に戻る。
まだ諦めていないのかなぁ。
「俺か。俺はロランド。Cランク冒険者だ。揃いも揃ってランク低いなお前ら。俺の邪魔にならないように注意しとけよ」
特にそこのチビはな。そう訴えるかのようにじろりとこちらを見てくる。
そんなに心配しなくても足は引っ張らないつもりですよ。
リリーさんはロランドさんのことが気に入らないのか不機嫌そうな目でじっと見ている。まあ、さっきも突っかかってたし以前から揉めてるのかもしれない。
全員の自己紹介が終わったところで軽く打ち合わせをし、街道に向かうことになった。
活動報告にも書いていますが、ようやくパソコンが戻ってきたので今日から更新を再開させていただきます。
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。