第二百七話:転生者達
「大丈夫なのです?」
たった四発でBランクの魔物二体を沈めてみせたシンシアさんは心配そうな顔で私に話しかけてきた。
綺麗に狩ろうと思っていた魔物は半分ほど原形をとどめておらず、明らかに使用できる素材部位が減っている。
正直、私一人でもどうとでもなったのだが、魔術師が一人で魔物討伐に赴き、不意打ちで腕を食われたなんて状況になったら助けに入るのはごく普通の判断なので怒ることはできない。むしろ、私の油断をフォローしてくれたことにお礼を言うべきだろう。
魔物の素材が勿体ないと思うのは私のただの我儘だ。
「はい、大丈夫です。すいません、助けてもらったようで」
「当然なのです。困った時はお互い様なのですよ」
シンシアさんの手を借りて立ち上がる。
再生した左腕は問題なく機能しているようだ。むしろ、前よりも綺麗になった気がする。
シンシアさんの戦闘能力にも驚いたが、一番驚いたのはこれだ。
もしかして、これが転生者としての能力なのだろうか?
「腕も治していただいて、ありがとうございます」
「えっへん!」
「無事で何よりなのですよ」
褒めて欲しいとばかりに胸を張っていたので、なんとなく頭を撫でてあげたらすっごく嬉しそうに微笑んでくれた。
この人、エルフだよね? 見た目は17、8歳くらいに見えるけど、実際はもっと上だろうに凄く子供っぽい。
確か、寮母のアリステリアさんが見た目30代くらいで400歳くらいらしいから……100歳から200歳くらい?
と言っても、エルフはある程度歳をとると成長が止まるらしいからあんまり当てにならないけど。
「それにしても、なぜここへ?」
「あ、それは、えっと……」
「ハクちゃんを監視……」
「わー! わー! なんでもないのですー!」
まあ、監視してることは知っているけど、あくまで今気づいたかのように振舞ってみる。
エミさんは隠す気はなさそうだけど、シンシアさんはそうでもないようだ。
手をバタバタ振って必死に取り繕っている姿が少し可愛い。
やっぱりケモミミっていいよね。撫でまわしたい。
「まあ、それはいいんですけど、ちょうどよかったです。私、シンシアさん達と話してみたかったので」
「私達となのです?」
「はい。あ、でもその前に場所を移動しないと危ないですね」
派手に倒したおかげであたりにはかなりの量の血が飛び散っている。このままでは、血の匂いに誘われて魔物がやってきてしまうだろう。
私はひとまずポーチにしまうふりをして【ストレージ】にしまい込む。
この世界には【ストレージ】機能を持った収納というものが存在しているので偽装はばっちりだ。ただ、かなり高価らしくて冒険者で持っている人はあまりいないようだけど。
「あ、すいません。後でちゃんとお返しするので」
私が受けた依頼とはいえ、倒したのはシンシアさん達だ。だから、この魔物の死体はシンシアさん達がもらい受けるべきである。
しかし、シンシアさんは手を振ってそれを制した。
「いやいや、いいのです。元々ハクちゃんの獲物だったのですし」
「でも、狩ったのはシンシアさんでは?」
「ここでもらってしまっては横取りと同じなのです! Aランク冒険者としてそんなことは断じてできないのです!」
横取りは確かに褒められた行為ではないが、今回の場合は救援という形だったし、横取りには当たらない気がする。
まあ、くれるというなら遠慮なく貰っておこう。どっちにしろ、討伐証明のために必要だし。
「ではありがたく。それでは、移動しましょうか」
「ごーごー!」
空を見てみると、太陽が天高く登っていた。ちょうどお昼時らしい。
せっかくなので、【ストレージ】から軽食を出してみんなに振舞うことにした。
たまに、ギルドの冒険者達や職員の皆さんに振舞っているので【ストレージ】には常にいくつかのストックがある。
なぜそんなことをしているのかというと、元々は外壁修復のために訪れた錬金術師達のためにと思って用意したのだが、それがいつの間にか冒険者達にも配るようになり、定着してしまったためだ。
別にやめてもいいけど、私のようなちびっこ冒険者が冒険者ギルドに訪れるのはギルドの品位を疑われてしまうし、心象をよくする点数稼ぎの意味でも今でもたまに配りに行っている。
適当に倒れた丸太の上に腰かけてから渡すと、二人とも美味しそうに食べてくれた。作った甲斐があるというものだ。
「まずは改めて自己紹介を。私はハクです。よろしくお願いします」
「あ、ご丁寧にどうもなのです。私はシンシアなのです」
「エミだよー! よろしくね、ハクちゃん!」
人心地着いたところで話を切り出す。
未だ森の中なので危険がないわけではないが、今のところ探知魔法にはなにも引っかかっていない。
念のため、アリアも偵察してくれているのでよっぽどのことがなければ後れを取ることはないだろう。
「シンシアさん達は、聖教勇者連盟の方々なのですよね?」
「そうなのです。でも、本部に帰ることはほとんどないのです」
「いつも適当に村を回って村人のお手伝いをしてるよー」
どうやら、村を回って依頼を片付けて回っているというのは本当らしい。
ギルドに依頼を出せないほど困窮している村だからお礼も雀の涙なのだろうけど、聖教勇者連盟という後ろ盾があるからあまりお金には困っていないらしい。
私がイメージする聖教勇者連盟は勇者召喚によって強力な戦力を保有し、さらに転生者達を保護してさらにそれを補強している巨大な軍事組織のようなもの、なんだけど実際のところはどうなんだろうか。
国を治める王様相手にあれだけの言動ができるのだから発言力は強いのだろうし、下手をしたら世界を牛耳る組織でもあるのかもしれない。
できればそんな相手とは戦いたくないな。
「それじゃあ、あなた達は転生者なのですか?」
「!? 転生者の事を知っているのです!?」
聖教勇者連盟は表向きは勇者のサポートをするための優秀な人材を集めるという名目で特別な力を持つ者を身分問わず保護している。
そして、特別な力を持つというのは転生者の特徴で、それ故に転生者が集まりやすい。
勇者召喚という異世界から人を呼び出す技術を持っているのだから、転生者についても恐らく知っているだろう。
転生者が一人いるだけでも場合によっては軍隊に匹敵する力を持つ場合もあるのだから、それらを保護しているというのは相当な戦力の集中を意味する。
これ、マジで逆らったら国ごと消されかねないよね。どうにか穏便に話を進めないと。
「まあ、友達から聞きました」
「その方は転生者なのです?」
「まあ、多分?」
アリシアは間違いなく転生者だが、明言は避けておいた。
噂では保護を求めるもの以外は無理に勧誘することはないと聞いているけど、本当のところはどうかわからない。
アリシアに迷惑がかかることはあまりしたくない。
「それで、どうなんですか?」
「はい、私達はみんな転生者なのですよ」
「達ってことは、セシルさんやルナさんも?」
「はいなのです。みんな凄い方なのですよ」
全員転生者か。まあ、これは予想通り。
転生者が全員特別な力を持っているかどうかはわからないけど、Aランク冒険者になれるだけの実力があるということは何かしら持っていても不思議ではない。
エミさんは恐らくあの治癒力だろう。あんなの普通じゃない。私も部位欠損を治すくらいならできなくはないけど、もっと時間がかかる。
……いや、新しく魔法を作ればいけるかな? 今度試作してみよう。
シンシアさんは、なんだろう。魔道銃の威力は凄かったけど、あれは魔力が高いというよりは魔道銃自体の性能のはずだ。
となると、道具を作成する力? 錬金術のスキルが凄いのかもしれない。
後の二人はよくわからない。うまく聞き出せればいいけど、あまり深入りするのは危険かな。
とりあえず、もっと仲良くなってからだと思い、会話を続けることにした。
感想ありがとうございます。