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幕間:整理整頓

 主人公ハクの視点です。

 【ストレージ】と呼ばれるスキルがある。

 スキルとは魔法と違い、その人物個人が持っている特別な力のことで、先天的に持っているものだったり、努力によって身に着けられるものがある。

 【ストレージ】は前者で修業したからと言って身に着けられるものではない。いや、そもそも修行する手段がないと言った方が正しいだろう。

 その効果は物の収納。

 亜空間へと繋がる穴を作り出し、そこに物を入れたり出したりすることが出来る。

 容量には個人差があるが、小さな者でも馬車一台分くらいの積み荷を収納することが出来ると言われている。

 亜空間内は時間が流れず、入れた物が傷むことはない。

 まさに、荷運び人として最適の能力。【ストレージ】持ちがいるだけで、商人ならより多くの積み荷を運ぶことが出来るし、冒険者ならば狩った獲物を残さず回収することが出来て換金率を上げることが出来る。

 ただその分、このスキルを持って生まれる人物は少なく、多くは大きな商会や有名冒険者パーティのメンバーだったりと遊ばせているところは少ない。ある国では、戦争の際の物資の補給に使うとして確保しているという話もある。

 そんな持っているだけで将来安泰ともいえるスキルだが、私はひょんなことからそれを手にした。

 正直、今まで使えなかったのになぜ今になってとも思ったが、使ってみればかなり便利で、今ではなくてはならない存在になっている。

 ばれたらあまりよくないものだと知ってからはなるべく隠すようにはしているが、王子辺りはもう察していてもおかしくはなさそう。

 そのうえで王様からそういった話を聞かないから黙ってくれているか、わかっていて放任してくれているのだと思う。

 正直、自由に生きたいと願っていたのでその配慮はありがたかった。

 今の生活があるのはある意味で王様のおかげでもあるし、感謝の念は絶えない。


「さて、と。ここならいいかな」


「こんな森の中まで来て何するの?」


 いつもならば休日はサリアと共にショッピングを楽しんだりダンジョンに潜ったり、あるいはギルドへと赴き簡単な依頼をこなしたりなどして過ごすところだが、今日はそのどれでもない。

 一人森の中まで来たのは、いい加減整理しておいた方がいいのではないかと思ったからだ。


「ちょっとね。【ストレージ】の整理をしようと思って」


 そう言って【ストレージ】の中から物を吐き出していく。

 今までいっぱい入るからと特に考えもせずにポンポン入れてきてしまったが、そろそろ何が入っているのかを把握できなくなってきた。

 【ストレージ】で収納したものは時間が止まるから忘れていたところで傷んだり壊れたりすることはないけれど、そのまま忘れ去られて【ストレージ】の肥やしとなるのは少し問題ではないかと思ったのだ。

 あるとわかっていてあえて使わないのとそもそも存在を忘れてしまって使えないのでは全然違う。

 どんなものでもある時思いもよらない使い方をするかもしれない。その時に、中身を知らなければその閃きも起こらないかもしれない。

 なので、一度物を全部出して、入っているものを把握しようということになったのだ。


「わかってたけど、こんなに入ってたんだね」


 作業中に邪魔されないように王都で買った魔物避けを周囲に撒いているのだが、その範囲を軽く埋め尽くすくらいには物が大量に入っていた。

 森で採取してきた薬草類や茸類、魔物の死骸、盗賊から回収した武器、趣味で買った魔石や魔道具、旅に使うと思って買った野営グッズ、料理に使う食料や香辛料など、挙げ連ねればきりがない。

 中には記憶にないものまで入っており、こんなのいつ入れたっけと首を傾げることになった。


「魔物の死骸はそんなに収納してるつもりはなかったけど、結構あったんだね」


 私が冒険者になりたての頃、採取した薬草類は小分けにして少しずつ納品していたが、魔物の死骸はすべて換金に回していた。

 お金がなかったし、私が狩った魔物はいつもなぜか高額で引き取ってくれたのでいい収入源になっていたのだ。

 今でこそ狩った時の状態がいいからと教えられたが、最初の頃は子供だからおまけしてくれてるんだなくらいにしか思ってなかった気がする。

 そういう経緯があるので、魔物は狩ったら換金するというのが癖になり、おかげで魔物は溜まっていないはずだったのだが。

 よく考えれば王都に来たあたりからその癖は薄れていったように思える。

 闘技大会の賞金でだいぶ余裕ができたというのもあるし、その後は魔石の研究やらの趣味も加わって魔物の素材にも興味を持ったから、すべて売るのではなく、ある程度残すという方向に変わっていったのだ。

 特に今ではギガントゴーレムの換金によってかなりの大金を入手してしまったので、売ることすらしていない。

 それが積もり積もってこの惨状を生み出してしまったのだろう。


「これだけあれば防具も武器も作り放題だと思うよ? ハクはそういうのに興味ないの?」


「うーん、私は体力ないからあんまり重いの持ってもって感じなんだよね」


 私の周りをふよふよと飛んでいるアリアはそんなふうに尋ねてくるが、正直武器も防具も作る予定は今のところない。

 まず、私は魔術師だ。武器というなら杖があれば十分だし、私の場合は杖すら必要ない。防具は必要かもしれないが、あまり重いものだととっさの時に動けなくなってしまうし、私の体重ではたとえ防具を付けていたとしても吹き飛ばされてしまう気がする。

 それに、私はまだ11歳。成長期のはずだ。今防具を作ってもすぐに着れなくなってしまうと思う。……辺境の村で育てられていた時から容姿が変わっていないような気もするけど、竜は成長しないとかないよね?

 私の身体は精霊と同じようなものだと言っていたから、それを考えるとありえない話ではない気がする。

 か、考えないようにしよう……。


「鉱石類の防具とかならともかく、魔物の素材の中には軽いものもあるし、ハクでも扱えるものはあると思うよ?」


「え、ほんと?」


「うん。たとえば、そいつとか」


 アリアが指さしたのは蜘蛛の魔物。

 虫は苦手なので【ストレージ】に入れることすら嫌悪しているのだが、これでもCランク以上の魔物であるので中堅冒険者からしたら結構貴重だ。

 サリアからの勧めもあり、収納していたのだが、やはり気持ち悪い。

 アリアは全然気にならないのか、蜘蛛の魔物の傍に近づき、背中の外殻をコンコンと叩く。


「この外殻は軽い割には結構強度があって、防具として適していると思うよ。珍しく闇属性の耐性もあるしね」


「う、うーん、でも……」


「それ以外でも、こいつの翼膜は弾力がある割にはかなり硬くて刃を通しにくいし、こっちは脆いけど属性耐性が高いからアクセサリとして優秀だよ」


 転がっている魔物を指さし、丁寧に説明してくれるアリア。

 魔物の知識に関してはたまに冒険者ギルドにある資料室で勉強したり、学園で教わった知識があるため言われてみれば確かにそうだなと思う部分はある。

 武器や防具と言われると鉄とか、あるいはミスリルとか思い浮かべるけど、魔物の素材を使ったものも少なくない。むしろ、多くのD、Cランク冒険者は魔物の素材を使った武器や防具を使用している。

 それは武器屋に売られている普通の剣や鎧では魔物の相手が厳しくなり、かつミスリルのような高性能だが高いものを買うお金がないというランク帯だからだ。

 なので、普通の剣よりも強く、普通の鎧よりも固い魔物の素材で武器防具を作る。素材を持ち込めば料金は安くなるしね。

 また、魔物の素材で作った武器や防具を身に着けているということは、その魔物を狩れるだけの実力があるということを示すことにもなり、名を売るチャンスにもなる。まさに一石二鳥というわけだ。


「よく知ってるね」


「ハクに付き合って色々見てきたからね」


 魔物に関してはただ単に素材としての価値があるのか、くらいにしか思っていなかったが、よくよく考えれば結構興味深いこともある。

 そもそも、魔石に興味を持っておきながら魔物の素材には無頓着って言うのは少々勿体ない魔物の使い方だ。

 少しは研究してみてもいいのかなと思った。


「前みたいに大怪我したらいけないし、防具くらいは作ってもいいんじゃないかな」


「か、考えておくよ」


 アリアに心配をかけてしまったという記憶が蘇って申し訳ない気持ちになる。

 私の身体は私だけのものではない。私がいなくなることによって悲しむ人も今では結構増えたと思う。

 今度、お姉ちゃんに相談してみよう。いい鍛冶屋を知っているかもしれない。

 頭の片隅にそんなことを思いながら、目の前に広がる大量の物の選別を始めた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] よくある脳内にインデックスが表示されるタイプのストレージだったら整理も楽だったのに(´Д` )いつ入れたのかわからない物って夏休み前の終業日に机から出てくる干からびたパンの耳を思い出し…
[一言] むしろお姉ちゃんにも整理を手伝って貰った方が良かったのでは
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