第百七十九話:旧交を温める
「ハクちゃん! 久しぶりね、元気にしてた?」
「王都に行ったと聞いていたからもしかしたらと思っていましたが、まさか本当に会えるなんて。会えて嬉しいです!」
懐かしい二人を前にして思わず固まってしまった。
なぜ二人がここにいるんだろう? という疑問が浮かんできたが、別にそう可笑しいことでもない。
彼女らは確かにカラバの町を拠点とする冒険者ではあるが、護衛の依頼などで町を離れることはよくあることだろうし、より安定した稼ぎを求めて拠点を移すことも珍しくはない。
まあ、二人の場合は私を心配してって言うのもありそうな気がするけど。
結局カラバの町には全然戻っていないし、手紙だって出していない。
私が王都に行く時に同行しようとしていたくらい心配症の二人なら来てもおかしくはないか。
「お、お久しぶりです。リリーさん、ソニアさん」
「あれから全然帰ってこないから心配してたのよ。だから来ちゃったわ」
「ほんとはもっと早く来る予定だったんですけど、ちょっと立て込んでまして」
二人は相変わらず……いや、少し変わっただろうか?
基本のスタイルは変わっていないけど、リリーさんの剣は新しくなっているし、ソニアさんの服もドレスアーマーというか、金属ではないけど少し硬そうな防具になっている。
まあ、あれから結構経っているし、武器や防具の新調をしていてもおかしくはないか。
冒険者にとって武器や防具はまさに生命線とも言えるものだからね。
お金に余裕があるなら、常により良いものを身に着けようと思うのは当たり前だ。
「ハクちゃんは変わりないようね。あれからどうしてたの? お姉さんは見つかった?」
「はい、無事にお姉ちゃんと合流できました。心配かけてごめんなさい」
ひとまず、久し振りに会ったということでお互いに情報交換をすることになった。
酒場の一角に座り、酒を注文する。
私はお酒は遠慮したいので果実水にしておいた。
「おい、あいつら誰だ」
「知らないな。この辺りの冒険者じゃないぞ」
「天使ちゃんとあんなに親しそうに……知り合いか?」
「あの二人も結構美人だな」
なぜか、私達が酒場に向かうとみんな席を譲ってくれたが、別にそこまで長居する予定もないので適当に椅子を引っ張ってきて空いているテーブルに陣取る。
旧交を温めるには少しうるさい場所ではあるが、まあ、冒険者らしいと言えばそうだろう。
特に気にすることもなく話し始める。
あれからカラバの町はしばらく平和が続いていたらしい。
もちろん、近くにある森から時折現れる魔物が度々街道に現れたりはしたが、特に大きな事件もなく、細々と依頼を受けながら過ごしていたらしい。
しかし、ある時から次第に魔物が増え始め、討伐依頼が多くなっていった。
街でも優秀な冒険者である二人はその対応に追われることになり、後から私を追って王都に行くという計画も頓挫してしまったのだとか。
この魔物増加の原因、ギルドが調べたところによると近隣にオーガが出て、それから逃げてきた魔物が集まってしまった結果らしい。
しかも、そのオーガは通常のオーガよりも強力な個体で、近隣の村では対処できなかったのだという。
結局、そのオーガはリリーさん達とあの時一緒に戦った冒険者の一人であるロランドさんが討伐に赴き、どうにか討伐したらしい。
通常よりも強力なオーガ……もしかして、王都を襲ったオーガの生き残りだったりするのかな。
オーガ騒動の後、もちろん周辺の調査は行われたけど、オーガは確認できなかった。
恐らく、その時にはすでに町の方へと向かっていたんだろう。
撃ち漏らしがいるとは思わなかった。無事に倒せたようでよかった。
と思っていたけど、どうやら無事にというわけでもなかったらしく、ソニアさんが大怪我を負ってしまったらしい。
幸い、すぐに治癒魔法をかけたおかげで大事にはならず、回復することはできたが、しばらく療養するために安静にしているしかなかったらしい。
その後、怪我も完全に回復し、元の勘を取り戻すために依頼を行っていたそうだが、その時になってふと私の事を思い出し、追いかけようという話が出たらしい。
そして、色々と準備をしてから王都行の護衛依頼を受け、そしてようやく王都へ辿り着いたのが昨日のことらしかった。
「ハクちゃんの方はどう? 怪我とかしてない?」
「まあ、何度か魔力切れになったり大怪我したりしましたが、特に問題はないです」
「大ありでしょう! 何があったのよ!」
リリーさんがバンとテーブルを叩く。
そんなに怒らなくても……とりあえず、私は王都に来てからのことをリリーさん達に説明する。
闘技大会の事、オーガ騒動の事、ゴーフェンでの事、学園の事。思い返すと結構いろんなことをやっているな、私。
サリアのことについては話すかどうか迷ったが、あまり言いふらすことでもないのでやめておいた。
一応、王都では緘口令が敷かれている話だしね。
「その、なんていうか……」
「ハクさん、一体何者ですか……」
私の話を聞いた二人は何とも言えない顔で私を見ている。
そんなドン引きしなくても……。
ちなみに、竜の翼についても話した。何か知っているかもしれないしね。
「闘技大会準優勝、オーガの軍勢を一掃、紅蓮のアグニスとタイマンして勝利、ギガントゴーレムの討伐……それで今はBランク冒険者? いやいや……」
「多分、それだけできるならAランク冒険者でもおかしくないと思います。下手したら幻のSランク冒険者という可能性も……」
「二人とも大袈裟ですよ」
まあ、Aランク冒険者であるアグニスさんと互角の勝負をできるということは単純に言えばAランク冒険者と同じくらいの戦闘力を持っていると解釈できなくもないけど、ランクというのはただの強さの指標という話ではない。
もちろんそれも大事だけど、今まで積み上げてきた実績とかその人の人柄とか、ランクが高ければ高いほどそういったものに左右される。
特別依頼を受けてただ成功したってだけではダメだろう。総評を見て、Aランクに足ると思われた者がAランク冒険者となるのだ。
私みたいな子供がそうホイホイとAランクやらSランクやらになっちゃダメな気がする。Bランクだって過分なのに。
「しかも、お姉さんがあの神速のサフィって……笑うしかないわ」
「ハクさんって、実は凄い人だったんですね」
お姉ちゃんの名は冒険者の間では結構有名らしい。
まあ、神速のサフィなんて渾名もあるくらいだしね。
乾いた笑いを見せるリリーさんに少し不満を覚えながら果実水を飲む。
そんなに持ち上げられると照れるというかもう恥ずかしい。
目立ちたいわけじゃないからこれでも結構端折って伝えたつもりなんだけどな。どうしてこうなった。
「それで、今は学園に通っていると?」
「はい。ご縁がありましたので」
「でもハクちゃんの年齢って……いえ、何でもないわ」
うん、まあ、入学できるのは11歳で、私は今11歳ではあるけれど、本来入学する時期の時点ではまだ10歳だ。つまり、本来ならば入学できない年齢になる。
まあ、そこらへんは王様が何とかしてくれているからいいんだけど、王様の話は端折ってあるので驚かれるのは当然か。
実際は7歳くらいに見られているとは思わず、そんなことを考えていた。
感想ありがとうございます。