第百七十八話:久しぶりの再会
授業も終わり、お試し期間中に受けるべき授業はすべて受け終わった。
明後日からは本授業となる。
一応、お試ししてから受ける授業を確定させようという話ではあったが、結局変更することなく当初の予定通りの授業を受けることにした。
刻印魔法に関してはシルヴィアさん達は少し悩んでいたようだったけど、私達と一緒にいることを選んだようだ。
まあ、刻印魔法の授業は数日に一回程度だし、描くだけなら私もサリアもできる。うまくいかなければサルサーク君に聞くこともできるだろうし、サポートする体制は万全だ。
受ける授業を貰った紙に記入し、クラウス先生へと届ける。
私が水魔法の授業を受けないことが意外だったのか少し突っ込まれたが、全属性が使えると言ったら黙った。
まあ、入学テストでは水魔法を使っていたからね。得意属性の授業を受けないのは少し違和感があったんだろう。
みんなでお昼を食べ、その後それぞれの研究室へと向かう。
そういえば、火属性魔法研究室のパフォーマンスってどうなったんだろう。
大講義室でやるとは言っていたけど、結局見に行く機会がなかったな。
まあ、私達はすでに研究室に所属しているし、今更別の研究室に所属するつもりもないから行っても意味がないのかもしれないが、どんなものなのかは少し見たかったな。
そんなことを思いながら研究室の扉を開く。
相変わらず、いつものメンバーがたむろしていた。ミスティアさんはお茶をすすっている。
「よく来たな二人とも。さあ、今日も色々と実験していこうではないか」
この二人は暇なのか、お試し期間中もずっと研究室に入り浸っていたようだ。
確かに、新しい素材が手に入ったなら色々試してみたい気持ちはあるけれど、そんなのでちゃんと授業を取れるのだろうか?
ミスティアさんはともかく、ヴィクトール先輩は少し心配だ。
「何、安心したまえ。すでに授業は取ってある」
「私もー、今日提出したよー」
おっと、声に漏れていたのだろうか。
まあ、ちゃんと取っているなら何より。
二人は何を取ったんだろう? ちょっと興味がある。
「私は火、土の魔法と剣術、錬金術Ⅲ、社交術だな」
「私はー、水と風と光とー、錬金術と社交術ー、後はエルフ語かなー」
おや、二人とも錬金術を取るのか。
私達が錬金術の授業を受けに行った時はいなかったけど、別の時間に行ったのかな?
ヴィクトール先輩は授業が違うから一緒に受けられないけど、ミスティアさんは一緒だね。
「私達も錬金術を取ったんですよ」
「ハクは先生の助手を任されたぞ」
「おおー、凄いねー」
そういえばそんな話だったな。
まあ、助手と言ってもそんな大したことはやらないだろう。
少し先生を手伝いながら一緒に授業を受けられれば何も問題はない。
「授業の時はー、よろしくねー」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
しばらく受ける授業のことで盛り上がり、その後はいつものように実験を行うことになった。
とはいえ、主要な組み合わせはヴィクトール先輩がほとんどやっているようだし、出来ることと言えばそれらの組み合わせで二人ができない氷や雷の魔法を撃ちこむことくらいだけどね。
組み合わせの数が多すぎてこの日は魔法薬を作り出すことはできなかったが、まあこんな日もある。
これからものんびりまったり研究を続けられたらいいな。
授業が始まる前に一度お姉ちゃんに会いに行こう。
前回行った時は会えなかったし、学園の状況を伝えておきたい。
ちょうど今日は学園が休みということもあり、私は早速町へと繰り出した。
個人的な用事だし、そこまで長居する予定でもないのでサリアとは別行動だ。
サリアもサリアで何かやりたいことがあるようだったしね。
というわけで、私一人でお姉ちゃんが泊まる宿へと向かう。
宿に関しては以前春休みの時にシルヴィアさん達の家に行く際に引き払っていたようだけど、戻ってきた時に再び同じ宿に泊まることにしたらしい。
留守にしていた期間を抜いても半年くらい泊っていることになる。
いい加減借家か何かを借りた方がいいのではないだろうか?
まあ、その辺はお姉ちゃんの自由だから私からとやかくは言わない。
なんだかんだ、あの宿の料理は美味しかったしね。
「いらっしゃいませ!」
宿に入ると、受付の女性が挨拶してくれる。
私もお姉ちゃんと一緒に結構長い間泊っていたせいもあって、すっかり顔を覚えられてしまったようだ。
軽く挨拶をかわし、お姉ちゃんがいないかどうかを聞く。
「サフィさんでしたら、昨日帰ってきて、今は冒険者ギルドにいると思いますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
冒険者は大きな仕事が終わった後は体を休めるために休養日を挟むことが多いが、帰ってきて早々またギルドに行っているらしい。
お姉ちゃんだって皇帝からかなりの金額を受け取っているのだから当分はお金の心配はしなくていいだろうに。
冒険者としての癖なのか、それとも冒険心がうずいているのか。
まあ、いいや。
さっき出ていったばかりだというし、今行けば多分会えるだろう。
私は宿屋を後にし、ギルドへと向かう。
この道も歩き慣れたものだ。
特に何事もなく、ギルドへと到着した。
「おい、天使ちゃんがやってきたぞ!」
「ほんとか!」
「ああ、癒しの天使……」
「お前ら、声が大きいぞ」
ギルド内は相変わらず騒がしい。
今はお昼前だが、併設された酒場には何人もの冒険者がたむろしている。
外縁部では外壁工事が終わったようだったが、中央部の外壁は未だ修復されていない。まだしばらくは修復の手伝い系の依頼が続くだろう。
とはいえ、すでに闘技大会から時間が経っているということもあり、周辺の魔物が再び集まり始めている。
それらの討伐やダンジョンの調査、それに護衛依頼など探せば依頼はいくらでもあるから、この人達がここにいるのは単にやる気がないのか、やりたいと思う依頼がないってことなんだろうな。
まあ、冒険者同士での情報交換って言う意味もあるんだろうけど、大体は酒が飲みたいだけな気がする。
冒険者ならば通常の酒場より安く飲めるらしいからね。冒険者であることの利点の一つだ。
まあ、それはそれとして、お姉ちゃんはいるかな?
きょろきょろと辺りを見回してみる。
ぱっと見はいなさそう。すれ違いになってしまったのだろうか?
うーん、どうしようかな。
通信魔法が使えれば楽なんだけど、お姉ちゃんは風魔法が使えないから受信すらできない。
やはり地道に探すしかないかなぁ……。
そう思って、とりあえず受付にお姉ちゃんのことを見ていないか聞こうと近寄った時、ふと目に入った後ろ姿に視線が止まった。
依頼が張られている掲示板の前にいる二人組。
一人は細い剣を腰に佩いている女性、もう一人は杖を背負った背の低い女性。
その姿には見覚えがあった。
あれは、確か……そう、カラバの町で出会った冒険者。
「あ、ハクさん!」
「え、ハクちゃん?」
ちょうど振り返った二人は私を見て喜色の混じった声を上げる。
あの時、街道に現れたオーガを共に退け、一時はパーティも組んだ仲。
リリーさんとソニアさんの姿がそこにはあった。
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