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第百七十五話:刻印魔法の授業

 お試し期間もそろそろ終わりに近づいてくる。

 私は一応それぞれの魔法の授業に足を延ばしてみたが、やはりどの授業もやることは大体一緒のようだった。

 特にとる予定もないので適当に聞き流し、残すところはあと一つだけとなった。

 刻印魔法。上級者向けの授業で人気がなく、お試し期間中も一回しか行われない授業。

 別にお試し期間中に授業を受けていなくても授業を取ることはできるが、やはりあらかじめ知っておくのは大事なのでこの機会を逃すわけにはいかない。

 指定されている実習棟にある実験室の一つに向かい、先生の到着を待つ。

 案の定、受ける生徒は全然いなかった。というか一人もいない。

 これってもしかして、私達だけ?


「誰もいませんわね」


「教室、合ってますの?」


「多分……はい、合ってますね」


 一応教室を確認してみたが間違いはなかった。空き教室に来てしまったというわけではないらしい。

 いくら人気がないとはいえ、誰もいないとは思わなかった。

 せめて、一人か二人くらいはいるものだと思っていたけど。


「そんなに難しいのかしら」


「私、不安になってきましたわ……」


 私は興味があったから受けてみただけだけど、シルヴィアさん達は私達が受けるからとついてきただけだ。

 あまりに難しい授業なら取らないという選択肢もある。

 落ち着かない様子でしばらく待っていると、教室の扉を開く音がした。


「あっ……」


 先生かと思ったが、入ってきたのは小柄な男の子だった。

 前髪が長く、目が隠れてしまっていて表情はあまり読み取れない。ただ、おどおどしている様子から緊張していることはよくわかった。

 もしかしたら、私達がいることが予想外だったのかもしれない。

 教室の入口で固まっている。あんまり人と喋るのは得意じゃない感じかな?


「あら、他にも希望者がいたんですのね」


「私達だけじゃなくて安心しましたわ」


「ん、ハクー」


 シルヴィアさんとアーシェさんは男の子を見て安堵の息を漏らしている。サリアは興味がないのか、私の肩に寄りかかってだらっとしていた。

 それにしても、全く動く様子がない。

 いつまでもあんな所に立っていたら疲れるのではないだろうか。


「なにそんなところで突っ立ってるの? 授業を始めるから早く入りなさい」


 声を掛けようかどうか迷っていると、男の子の背を押して入ってくる人物が現れた。

 男の子と同じくらいの背丈で深緑色の髪をポニーテールにまとめている小柄な女性。

 彼女には見覚えがある。確か、入学テストの時にいた試験官の一人だ。


「わわっ……」


 男の子は前のめりになって転びそうになりながら教室に入ってくる。

 先生はそれを気に留めることもなく、教壇の隣に立った。


「早く席について」


 男の子は少し戸惑っている様子だったが、先生に言われて渋々私達と少し離れた席に座る。

 ちらちらとこちらを見てきて落ち着きがない。


「今回は結構人数がいるわね。もう時間だし、授業を始めるわよ」


 全部で五人しかいないのに人数がいるという。

 やはりこの授業は人気がないようだ。


「私はアンジェリカ。この刻印魔法の授業を担当する。よろしくね」


 アンジェリカ先生は私達を軽く見回し、ふぅと息をつく。

 確かアンジェリカ先生はショーティーだと聞いている。ショーティーは手先が器用で、細かい作業に向いていると聞いたことがある。

 刻印魔法は繊細な作業を要求されるらしいし、この授業にはうってつけの人材なのだろう。


「さて、まずは聞きたいんだけど、あなた達は刻印魔法についてどの程度知っている?」


 人数も少ないので一人一人にそれぞれ聞いて行く。

 私が知っているのは授業説明の時にクラウス先生が言っていた程度だ。

 一応、あれから刻印師という職業について調べてみたが、珍しい職業らしくてよくわからなかった。

 それはみんなも同じで、みんなそれぞれ魔法陣を書いて何かする程度のことしか言わない。

 だが、最後に聞かれた男の子は立ち上がってすらすらと話し始めた。


「刻印魔法は疑似的な魔法の武器や防具を作るのに必要な技術です。刻印によって疑似的に魔法を再現し、魔力を流すだけで誰でも強化することが出来ます。特に、高ランクの冒険者は刻印魔法が施された武器を持っていることが多いです。そのほかにも……」


 さっきまでおどおどしていたのが嘘のようにぺらぺらと話している。

 よほど刻印魔法のことが好きなのだろう。刻印魔法がどうやってできたとか刻印師の必要性だとか色々話してくれる。

 一通り喋り終わった後、はっと辺りを見回して私達の視線に気が付き、恥ずかしそうに小さくなっていたが、アンジェリカ先生にとってはとても満足いく結果だったらしく、感心したように頷いていた。


「そこまで知っているのは凄いわね。あなた、名前は?」


「さ、サルサークです。Fクラスの、その、平民です……」


 男の子、サルサーク君は自信なさげに小さな声で言う。

 Fクラスは序列で言うと一番下のクラスだ。魔法の才能はあるが、ほとんど知識がなく、なかなか変動がないクラスでもある。

 そんな子がここまでの知識を持っていると思うと驚くところがある。

 一体どこでそんな知識を手に入れたのだろうか。


「そうか。いや、こんな才能ある原石が転がっていたのは喜ばしいわね。よかったら本授業も受けてくれると嬉しいわ。あなたなら大歓迎よ」


「い、いいんですか?」


「ええ。もちろん、そっちの子達もね」


 そう言ってこちらに視線をよこす。

 知識が有るかないかで言えばあった方が授業はやりやすいだろうけど、その知識を学ぶための授業でもある。

 刻印魔法がどれほどのものかはわからないけど、やれるだけはやってみたいところだね。


「さて、それじゃあ説明を始めるわよ」


 アンジェリカ先生の授業が始まる。

 さっきサルサーク君が言った通り、刻印魔法とは魔法陣を刻印することで疑似的に魔法を再現し、魔力をキーにしていつでも強化できる状態にすることを言う。

 主に使われるのは武器や防具で、魔力を流すことによって剣に炎を纏わせたり、一時的に防具を固くしたりなどができる。

 他にも、通話の魔法を刻印することで離れた場所への連絡手段としたり、竜脈などの重要な拠点に刻印することで結界などを張ったりと色々な使い道がある。


「刻印魔法に用いられるのはこのこてだ。刻印する素材は何でも構わないが、出来れば金属が好ましい。魔力が通しやすいものならよりいい」


 アンジェリカ先生が取り出したのは細いペンのような道具。

 説明によると、道具のペン先に熱を通し、刻印したいものに焼き付けるように刻印を施すらしい。

 素材によっては焼き付けられないこともあるので、その場合は直接彫り込む場合もあるそうだ。

 もちろん、焼き付けるのと彫り込むのだったら彫り込む方が断然難しくなる。

 しかも、刻印は少しでも歪んでしまうと発動しなかったり暴発したりすることがある。だから、ちゃんとした刻印を施すには長い年月を修行する必要があるらしい。

 また、刻印する魔法陣に関してもまだわかっていないことが多く、刻印できる魔法は限られているのだとか。


「今回はお試しでこの金属片に刻印をしてもらうわ。プロテクトの魔法がかかっているから暴発の心配はしなくて大丈夫よ」


 そうやって配られたのは手のひらほどの大きさの金属片だった。

 それと一緒にこても配られる。

 こての使い方を説明され、とりあえずやってみろということで刻印を体験することになった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おや、男の子のエントリーとは久しぶり。お目々が前髪で隠れたサルサークはノベルゲーム系主人公なビジュアルっすね。
[良い点] よく見たら次回で累計200話 [一言] 魔法陣に精通しているハクさんなら何か分かるかもしれない( ˘ω˘ )b
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