第百七十三話:助手を頼まれた
授業が終わり、生徒達は次の授業に向けて教室を去っていく。
私は残るように言われたのでまだ席に座ったままだ。
私の付き添いとしてサリアやシルヴィアさん達も一緒に残っている。
今日の授業はもう受ける予定はないので時間的にも問題はない。
「ハクさん、あなたは錬金術師になるつもりなの?」
サリア達の事を気にしていたようだったけど、結局無視して話し始めることにしたようだ。
錬金術師になりたいかと言われれば別にそんなことはない。
確かにポーション作りには興味があるし、もし魔術師以外で就職するならば錬金術師もありかなぁとは思っているけど、今のところ就職する予定はない。
せっかく自由に生きられるようになったのだからいろんなことにチャレンジしてみたいしね。
「特にその予定はありませんが」
「はぁ……はっきり言うけど、あなたのその技術はすでにプロ並みよ。いえ、プロ以上だわ」
呆れたように深いため息を吐くクラン先生。
確かに、私の変換は他の人と比べると結構早いようだけど、だからと言って錬金術師になれるかと言ったらそんなことはないと思うんだけどな。
いや、確かに変換の仕事は錬金術の一種だから一応括りとしては錬金術師に入るんだろうけど、変換した魔石を加工したりする技術は私にはない。
結晶質で脆い魔石を魔道具の規格に合うように加工するだけでもかなり繊細な作業を要求される。
うまくやればできそうではあるけど、大変そうだ。
わざわざ自作しなくても優秀な魔道具職人が作ってくれるものがあるのだから大変な思いをしてまで作ろうとも思わないしね。
「どうやってそんな早く変換ができるようになったの?」
「工房でやり方を教わったんですよ」
「だとしても異常だわ。教わり始めて一年も経っていないでしょう?」
私が工房に足を運んだのは大体半年くらい前のことだったかな?
ゴーフェンにいる間は結構頻繁に足を運んでいたけど、王都に帰ってきてからは特に練習とかもしていない。たまに実験でやるくらいだ。
だから、教わった期間で言えば一か月も経っていない。
カイルさんも言っていたけど、こんなに早くコツを掴むのはかなり難しいそうだ。
普通は何年か修行して最適な魔力の込め方を掴んでいくらしい。
そう考えると、確かに納得はできないかもね。
「ねぇ、よかったら授業の助手をしてくれないかしら? ハクさんなら務まると思うんだけど」
「授業を受けるつもりなんですけど?」
「もちろん授業の単位も出すわ。あんなに完璧にできるのならこの授業に関してはもう教えることもないだろうしね」
授業は魔石に関しての細かい雑学や解説の他は大半が魔石の変換に費やすつもりらしい。
一年で習得できる人は稀みたいだけど、たとえ習得できなくてもここで教わっておけば就職した後に経験が役に立つから無駄にはならない。
私の場合は授業のメインである変換を完璧にマスターしているため、それだけでも十分に単位を出すに足りるということだった。
まあ、私としてはみんなと一緒に授業ができるのなら特に問題はない。
ただ、ちょっと目立ってしまいそうなのが何だけど。
「もちろんバイト代も出すわ。どう、やってくれない?」
「まあ、錬金術の授業の間だけなら」
助手と言ってもせいぜい魔石の用意をしたり今回みたいに変換の実演をしたりするくらいだろう。
バイト代は別に要らないけど、クラン先生は一年の時にお世話になったし、引き受けてあげるとしよう。
「ありがとう。それじゃあ、本授業になったらよろしくね」
その後、手伝いの内容やバイト代について少し話し合った後教室を後にすることになった。
クラン先生がどうして錬金術の先生をしているのか聞いてみたけど、元々は錬金術の先生として雇われていたらしい。
だけど、魔法の才能もあり、その人柄から生徒に慕われていることもあって魔法の先生にもなったそうだ。
どちらかというと専門は錬金術だったんだね。少し意外だった。
「今日はこれからどうしますか?」
「私達は研究室の方に顔を出そうと思ってますわ」
「勧誘の件で話があるって言われていますの」
お試し期間であるこの七日間は研究室の勧誘の期間でもある。
主要な研究室は大講堂を借りてパフォーマンスを行うこともできるため、それで新入生達を勧誘することになっている。
恐らく大講義室が使える日取りが決まったんだろう。
止める理由もないので二人を送り出した。
「私達も研究室に行こっか」
「おー」
昨日はすっかり忘れていたけど、もう学園は再開されているから研究会の活動も再開されている。
いや、正確には休み中であっても学園は解放されているから研究は可能なのだけど、私はシルヴィアさん達の領地に行くために行っていなかった。
ヴィクトール先輩達はどうしているだろう。もう研究室にいるのかな?
久し振りとなる旧校舎の研究室へと足を運ぶ。
この道のりも久しぶりだ。
途中何人かの生徒とすれ違いながら研究室まで辿り着く。
扉に手を掛けたら開いていた。やっぱりすでに誰か来ているらしい。
「おお、君達か。まずは進級おめでとう。今年も我々魔法薬研究会はさらなる技術の向上を目指して邁進していくことを目標とする。君達も精進してくれたまえ」
「出来てからー、まだ一年だけどねー」
長々と挨拶するヴィクトール先輩と相変わらずの定位置でお茶をすすっているミスティアさん。
休み中は一度も会っていなかったけど、相変わらずの様子で安心した。
それにしても、この研究会ってできてからまだ一年しか経っていないのか。ということは、以前の発表会はあれが初めて?
まあ、よくよく考えたらミスティアさんは私達と同学年だし、一人で研究室を立ち上げることはできないから必然的に結成されたのは去年ということになるのか。
あまりにも慣れている様子だったからもう何年もやっている気になっていたよ。
「お久しぶりです。ヴィクトール先輩。ミスティアさん。元気そうで何よりです」
「うむ、そちらも息災のようで何よりだ」
「ハクとサリアはー、今年は同じクラスだったねー」
「えっ?」
ミスティアさんが同じクラス?
そういえば、ミスティアさんは一年の時はBクラスだったと聞いている。
てことは、昇格も降格もしなかったってことか。
シルヴィアさん達と一緒になれたことが嬉しくて他の生徒のことを確認するのを忘れていた。
「気づいてなかったー?」
「す、すいません……」
「いいよー。これからもよろしくねー」
「はい、よろしくお願いします」
まあ、知り合いが一緒のクラスになったということは喜ばしい。
普段のミスティアさんはあまり知らないからこれで少しは知ることが出来るだろうか。
前に一度訳あってミスティアさんのクラスで授業を受けることがあったけど、結構優秀なようだった。
あの成績ならAクラス入りもありそうと思っていたけど、Aクラスの壁は思ったよりも厚いらしい。
「友達もー、一緒のクラスだからー、今度紹介するねー」
「はい、ありがとうございます」
友達……例の事件の時に話しかけてきた人がいたけどあの人かな?
その時はこちらもシルヴィアさん達を紹介しよう。
友達の紹介を約束して話を切り上げる。
さて、せっかく研究室に来たんだから久し振りに魔法薬でも作りますか。
感想ありがとうございます。