第百七十二話:魔石の作り方
「魔石にはそれぞれに属性があるわ。それは何によって分けられていると思う?」
「はい、魔物の属性です」
「そう、魔物はそれぞれ得意な属性を持っている。だから、魔物の体内で生成される魔石はその属性を帯びやすい。でも、それだけでは目当ての魔石を入手するのは難しいのはわかるかしら?」
クラン先生の授業は続く。
確かに、魔物にはそれぞれ属性があり、その魔物からとれる魔石はその属性を帯びていることが多い。
しかし、逆に言えばその属性の魔石しか取れないということでもある。
多くの魔物は属性を持たないから、取れるのは属性を帯びていないただの魔石だ。属性持ちの魔物というのは基本的に辺境にいて、町で暮らしているだけならまず出会うことはない。
ならば、目当ての属性の魔石を手に入れるのにわざわざ辺境に足を運ぶのかと言われたらそうではない。
個人で使う分ならともかく、町で大量に使われる光の魔石や水の魔石を集めようと思ったらその労力は計り知れない。
「属性付きの魔石は他にも入手手段があるの。それが何かわかるかしら?」
答えられる生徒はいない。
ゴーフェンのような魔道具作りが盛んな町ならばともかく、普通に暮らしているだけなら魔石の入手経路なんて気にする人はいないだろう。
中には鉱山から入手できることを知っている人もいるが、それがどうやって属性付きの魔石に変わるかはあまり知られていない。
「ハクさん、答えてみて?」
「魔石に魔力を通して変換することで入手します」
案の定、当ててきたので答える。
魔石の変換については自分でも実験したし、ゴーフェンの工房で体験させてもらっているから自信をもって答えられる。
属性を持たない魔石に特定の属性の魔力を通すとその属性を帯びる。
それらが定着するまで魔力を通し続けることによって別の属性の魔石を生み出すのが魔石の変換だ。
確かに光属性を持つ人は少ないけど、光属性の魔物を探して剥ぎ取るよりは何倍も楽だ。
特殊属性を持つ人は専属の工房で働いている人も多く、その人達の努力によって魔石は生み出されている。
魔石の大きさによっては変換するのに数日かかることもあるらしいから、そう考えるとこうして明りがある部屋で授業が受けられるのはありがたいことなんだと思うよ。
「その通り。ハクさんは博識ですね」
教室が少しざわついている。
まあ、魔石の変換なんてそれこそ魔道具工房とかで学ばない限り知ることはないからね。
お姉ちゃんは知っていたみたいだけど、どこで知ったのかな? 今度聞いてみようか。
「魔石の変換は魔道具作りにおいても必須の技術よ。まずはそれを学んでいくことになるわね」
そう言ってクラン先生は机の上に小さな魔石を用意する。
小指の爪ほどの小さな魔石だ。
綺麗にカットされているから、大きな魔石を小さく刻んだみたいだね。
「こちらに魔石の欠片を用意してみたわ。まずは実際にやってみて、魔石の変換がどういうものかを体験してみましょう」
魔石の変換の方法を説明する。
やることは単純、魔石に特定の属性の魔力を流して定着させるだけだ。
ただ、魔石の大きさによってはかなり時間がかかるため、一筋縄ではいかない。それに、ただ魔力を流すだけと言っても力加減も難しい。
込める魔力が多すぎれば魔石は割れてしまうし、少なすぎれば変換するのにかなりの時間がかかる。
今回はかなり小さな魔石の欠片ともいうべきものだからかかっても数時間程度でできるだろうが、この授業中には終わらないだろうな。
まあ、クラン先生も完成できるとは思っていないだろう。
魔石を変換する感覚を教えるのが目的で、実際に変換するのは本授業に入ってからだと思う。
それぞれ説明を受けた生徒が配られた魔石に思い思いに魔力を込めていく。
力を籠めすぎて割ってしまう者、なかなか属性が染み渡らない者、そもそも魔力の流し方がわからず戸惑う者。
何人かの生徒はそれでも徐々に魔力を流し込んでいるようだが、魔石の色が変わるほどに流し込めている生徒はいない。
「なかなか難しいですわね……」
「色が変わらないですわ……」
「ハク、どうやるんだ?」
シルヴィアさんもアーシェさんも火属性の魔力を流し込んでいるようだが加減がわからないのか魔石の色が変わる様子はない。
欠片だから少しの魔力でも変換には問題ないと思うんだけど、やっぱり最初は加減がわからないとやりにくいのだろう。
割ってしまっても新たに欠片が配られるから思い切りやってみて徐々に感覚を掴んでいくのがいいと思うけど、やはり誰だって割りたくはない。
時間さえかければ誰だってできるのだから、最初は慎重になるのも頷ける。
サリアに至ってはそもそもやり方を理解していないようだ。
私はすっと自分の魔石の欠片に手を置いてよく見ているように言う。
「魔石には魔力が内包されているんだよ。それを邪魔しないように浸食させる感じで魔力を流すの」
適当なことを言っているがイメージとしてはそんな感じだと思う。
実際、私は最初からある程度できたのでどういう感覚が正解なのかと言われてもよくわかっていない。
ただ、魔石に内包されている魔力を追い出すようにしてしまうと魔石の許容量を超えてしまって割れてしまう、という感じがする。
追い出すのではなく、融和させる。それが変換の近道だ。
私はそっと魔力を流す。今回はとりあえず水属性を選んだ。
魔石の欠片が徐々に水色を帯びていく。
魔石が小さいこともあり、浸食はあっという間に進んでいき、すぐに魔石全体が青色へと変わった。
「こんな感じかな」
「おお、凄いぞハク!」
「綺麗な青色になっていますわ、どうやったんですの?」
「ハクさん、私にも教えてくださいな」
途中から見ていたシルヴィアさん達も興味津々で私の魔石を見ている。
その声が聞こえたのか、近くにいた他の生徒達も私の机を覗き込んできている。
自分でも不思議だけど、よく割れないよね。結構勢いよく流し込んでいるつもりなんだけど。
私は請われるがままに再度魔石に魔力を込める。
水の魔石が火の魔石に、続いて風の魔石に、土の魔石にとどんどん変化していく。
この程度の大きさだったら変換は楽勝だ。
いつの間にか多くの生徒が私の机を囲んでいる。クラン先生までもが私の魔石にくぎ付けとなっていた。
「は、ハクさん、一体どこでそんな技術を……」
「以前魔道具工房で教えてもらったんですよ」
これは嘘ではない。
その前にも自力で変換擬きはできていたけど、実際に教わったのはカイルさんのところでだ。
私の言葉に多くの生徒は納得したように頷いていたが、クラン先生は信じられないといった様子で私を見ていた。
「ちょ、ちょっと授業が終わった後に話があります。ハクさんは残ってちょうだいね」
「? わかりました」
私の変換速度はかなり早いらしい。確かに、カイルさんのところでも二週間くらいかかると言われていた魔石の変換を数時間程度で済ませてしまった。
でも、このくらいの魔石だったらそうそう時間に差はないと思うんだけど。
適切な量でやれば授業内でも完成させることはできるだろし。
結局、クラン先生が実演する予定が私が実演することになり、私はせっせと魔石を変換することになった。
感想ありがとうございます。