第百六十九話:久しぶりの王都
予想外に注目を浴びてしまい、なぜか私が火魔法を披露することになったりしたけど、概ね問題なく授業は終わった。
なぜか多くの生徒が私の魔法に驚いていたようだったけど、これでもBクラスの生徒なのだから魔法くらい撃てても不思議はないと思うんだけどな。
ちゃんと詠唱句も唱えたし、威力も控えめにした。驚かれる要素がないと思うんだけど。
と思っていたんだけど、二年生に上がって初めから魔法が使える生徒はあまりいないらしい。
Aクラスのようなエリートの集まりならできる人も多いけど、それ以外のクラスとなるとBクラスでも半分出来ればいい方らしい。
それに最初に魔法を撃った時は無詠唱だったし、それも驚かれる原因となったようだ。
まあ、多少目立ってしまったけど、何事もなく終わってくれたのだからそれでいい。
ただ、途中で去っていってしまったあの男の子は気になるけど。
クラウス先生に聞いたら後でフォローしておくって言ってたから多分大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配だ。
まあ、それは先生達に任せるとして、今日の授業が終わってしまった。
この後は他の魔法の授業があるんだけど、風属性も闇属性も明日になっている。
受ける予定の錬金術や刻印魔法も明日以降だ。
お試し期間中はこう言うこともよくあるので仕方ないと言えば仕方ないが、あまり時間が余ってもやることがない。
研究室に行ってもいいけど、今日はせっかくだし町に出てみようかな。
約三か月ぶりの王都だし、何か変わっているかもしれない。
「サリア、これから町に行くけど、一緒に来る?」
「おう、いくぞ」
サリアは最近家に帰っていないし、アンリエッタ夫人に顔を見せに行った方がいい気がする。
適当にぶらぶらするだけの予定だし、途中で寄りに行ってもいいかもしれない。
「あら、二人とも町に行くんですの?」
「はい、ちょっと散歩がてら」
「それなら私達も行きますわ。行きたいお店がありますの」
二人はニドーレン侯爵から王都の楽器屋に向けた手紙を預かっているらしい。
急ぎではないらしいが、行く機会があったら届けて欲しいと言われたそうだ。
二人は土魔法と水魔法の授業がこれからあるはずなのだが、また後日もあるのでその時に受けるのだという。
まあ、大勢の方が楽しいし私は構わないんだけどね。
「それでは、一緒に行きましょうか」
一度寮に戻って私服に着替える。
最近は制服でいることが多いせいか慣れてきたけど、やっぱり私服の方が楽だ。
合流してから門番に挨拶して街へと繰り出す。
さて、用事もあることだし最初に楽器屋に行くかな?
「楽器屋ってどこにあるんですか?」
「中央部の裏道にありますわ。一般にも販売してますけど、大体は城の音楽家の専属ですわね」
「ここの楽器屋はうちの領の楽器を仕入れてるんですのよ」
城の専属ってことは、結構な高級店なのかな?
まあ、楽器って高いイメージがあるし、音楽家はパーティとかに呼ばれるだろうから層としては貴族向けなのかな。
一応、ストリートパフォーマーみたいに市井で音楽を披露する人もいるみたいだけど。
王都でも外縁部の広場でよく見かける。
「ハクさんが気に入った楽器があったら購入してみてはいかがです?」
「私、そんなに演奏うまくないですよ?」
「楽器は高級品ですから、持っているだけでステータスになりますわ」
私は別に貴族でもなんでもないし、そういうステータスはいらないかなぁ。
前世はゲームの中でよければやったことがあるけど、そんな経験あてにならないし。
打楽器くらいなら適当に叩いていればそれっぽくなるかな?
まあ、使う機会はないだろうな。
「つきましたわ」
しばらくして楽器屋に辿り着く。
高級店ということもあって店構えは立派だ。
中に入ると、女性の店員が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。本日はどういった楽器をお望みでしょうか?」
「ニドーレン侯爵の娘、シルヴィアですわ。本日はお父様から手紙を預かってきましたの」
「まあ、侯爵様の……ようこそいらっしゃいました。お手紙を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ。どうぞ」
シルヴィアさんが手紙を渡す。店員は一度それを持って店の奥へと引っ込んだが、すぐに別の店員が現れた。
「お越しいただきありがとうございます、シルヴィア様、アーシェ様。ご用件は手紙の件だけでしょうか?」
「よかったらこの人達にお勧めの楽器を紹介してあげてくださる?」
「かしこまりました。ではお嬢様方、こちらへ」
あれよあれよという間に店の奥へと通される。
高級品だからか、店頭には置いていないようで、店の奥の一室に通された。
楽器に興味はあるけど、そこまで欲しいとは思ってないんだけどな……。
ここまでされて買いませんは通らないかな? というか、二人とも私がただの冒険者って言うこと忘れてるよね。
楽器がどのくらいの値段か知らないけど、普通の冒険者じゃ買えないんじゃないだろうか。買えたとしてもそんなことに金を使う冒険者はいない気がする。
「何か希望の楽器はありますか?」
「いえ、特には……」
「それでしたら、こちらはどうでしょうか」
渡されたのは鈍色をした横笛。持ってみると結構重く、鉄製であることがわかる。
フルートって感じ? まあ、そこまで複雑じゃないけど。
このくらいなら少しは吹けるかな。
店員さんに教えられながらぎこちなく穴を押さえ、吹き口に口を付ける。
吹いてみると、甲高い音が響いた。
音程が意外と高い。ぎこちなく抑える穴を変えて音程を変えていく。
鉄製のためか長く吹いていると疲れてくるのが難点か。
まあ、概ね楽しめたからいいだろう。
「素晴らしいです。お嬢様は音楽の才能がおありなのですね」
「当然、ハクさんは優秀なんですわ」
「ハクさんは何でもできるんですのよ」
いや何でもはできない。
というか、あんな適当なので音楽の才能があるとか言われても困る。
まあ、店員さんのは百パーセントお世辞だってわかるけどね。
「お買い求めになりますか?」
「いや、使わないと思うしいいです」
演奏会をするつもりはない。
「あら残念。せっかくハクさんの演奏が聴けると思ってましたのに」
「私なんかの演奏を聞いてもしょうがないでしょう」
「そんなことありませんわ。ハクさんの演奏する姿は貴重ですから」
そりゃまあ、演奏なんて滅多にしないだろうから貴重なのは確かだろうけど。
でも、それだったらシルヴィアさん達がやっても同じことでしょう。私の姿を見て何が楽しいのか。
「なあ、僕も吹いてみてもいいか?」
「ええ、構いません。それではこちらの笛を……」
「これでいい」
サリアは私が持っていた笛を取り上げる。
もしかして、それを吹くの?
私が口を付けちゃってるんだけど、いいのかな。
「サリア、これで拭いたら……」
持っていたハンカチを差し出そうとしたら、それよりも早く口を付けてしまった。
私と同じように吹こうとしているが、なかなか音が出ない。
多分、強く吹きすぎなんだと思うけど、ここまで音が出ないのも凄いな。
「か、間接キスですわ!」
「くぅ! 連れてきた甲斐がありましたわ!」
シルヴィアさん達が騒いでる。
まあ、確かに間接キスになるのかな?
何をそんなに興奮してるのかは知らないけど。
私はサリアに指摘をしながら調節していく。しばらくするとサリアでも音を出せるようになっていた。
結局、その後その横笛を購入することになったけど、まあ、サリアが気に入ってるみたいだしいいだろう。
未だに騒いでるシルヴィアさん達を連れて楽器屋を後にした。
感想、誤字報告ありがとうございます。