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第百六十八話:お試し授業

 翌日。お試し期間が始まり、それぞれの授業を体験することになった。

 なるべく被らないようになっており、よほどぎっちり受けようとしなければ大体はすべて回れることになっている。

 ただ、それは必須である魔法の授業に限り、そのほかの授業は結構被りが多い。

 まあ、基本的に力を入れているのは魔法だし、それ以外は補助的な授業だからしょうがないんだろうけどね。

 魔法の授業は初日から最終日まで全部あるけど、刻印魔法に至っては一日しかない。それだけ人気がないということだろう。

 幸い、その日は後半なので最初に魔法系の授業を受けてしまえば後は結構自由だ。

 打ち合わせ通りに魔法の授業を受けに指定された教室へと向かう。

 最初に受けるのは火魔法の授業だ。

 サリアは受ける予定はないけど、別に他の授業とも被っていないのでとりあえず一緒に来るらしい。

 使い手が多い魔法ということもあり、教室は結構な生徒でごった返していた。


「凄い人ですね」


「初日は好きな魔法の授業を受けに行くのが普通ですから」


「今は他のクラスの生徒もいますけど、本来の授業になれば分けられるはずですからここまで多いのは最初だけですわ」


 授業はクラスによって内容が異なる。しかし、大部分は同じだ。

 説明する方も大変なので細かな内容は説明だけにとどめ、おおよそこんなことをするんだと大雑把に説明するのがこのお試し授業らしい。

 だから、正式に授業が決まって実際に授業をする時はそれぞれのクラスの生徒だけとなる。

 一応、魔法の授業は期間中すべての日に設定されているが、期間中は授業を受けなくてもいいので面倒事は最初にやってしまおうという心理もあるのだろう。

 初日にこうして人が集まるのは恒例のことだと先輩が言っていたらしい。


「今年も相変わらず多いな。そろそろ時間だから授業を始めるぞ」


 教壇にクラウス先生を始めとした数人の教師が立つ。

 ざわついていた教室が静まり返り、しばらくして授業の説明が始まった。

 二年生での魔法の授業はまず一年時の復習から始まる。

 一年時で学んだことをどれだけ吸収できているかを図り、それによって次に行う魔法の実践の進行具合を決めるらしい。

 基本的にAクラスに近いほど初めから実践的な練習が行われる。練習は訓練室や校庭で行い、詠唱句の確認やら魔力の確認やらをするらしい。

 魔力の量が少ないと数発魔法を撃っただけでも倒れてしまう人もいるため、その辺りの判断は教師の腕にかかっている。

 まあ、魔力を使い果たすと気絶してしまうけど、魔力が増えるきっかけにもなるから一概に魔力切れが悪いってわけでもないんだけどね。

 むしろ、安全な場面なら積極的に魔力切れを起こしてもいいくらいだ。

 まあ、そんなことをしたら他の授業が受けられないからそこまですることはないらしいけど。

 今回は体験ということで、復習の過程は飛ばして数人が実践練習をすることになった。

 校庭に移動する。

 他の魔法の授業も似たようなものなのか、すでに校庭には何グループかの集団がいた。


「これから魔法の実践訓練に入る。ただし、今日はお試しなのでAクラスの人だけとしましょう。呼ばれた者は前に出るように」


 別の教師が名前を呼んでいく。

 前に出た数人の生徒に質問をし、ちゃんと詠唱句を覚えているかどうかを確認していた。

 流石エリートのAクラスということもあり、大体の生徒は詠唱句を覚えているようだった。


「次は実際に魔法を撃つ。間違っても人には向けるなよ。自信がない者は空へ向かって放て」


 その掛け声とともに次々に詠唱が始まる。

 実際に魔法を使うというのは初めてなのか、みんな詠唱を噛んだりさっきは言えたのに度忘れしてしまっていたりと緊張しているようだった。

 それでもなんどかやっているうちにちゃんと魔法は発動し、虚空に向かって火球を飛ばしていく。

 みんな軌道がブレブレだったり放ってからすぐに消滅してしまったりと不安定だけど、初めて使うならこんなものだろう。

 むしろ、同じAクラスでも魔法をほぼ完璧に放てる王子とかがおかしいのだ。

 多分、小さい頃から英才教育とかを受けていたせいだと思うけどね。それでも凄いけど。


「炎よ! ……くっ、炎よ!」


 しかし、エリートとは言ってもまだ新米。中には中々魔法が発動できずに苛立っている生徒もいた。

 見たところ、詠唱が間違っているように思える。

 魔法はイメージさえしっかりできていれば発動するから多少詠唱が間違っていても発動するけど、流石に何のイメージもなしに間違った詠唱句を唱えても発動しない。

 「炎よ」というのは間違ってはいない。火球を形成するための魔法だから炎に関する言葉が入っていれば多少形はぶれていても発動はするだろう。でも、それだけではさすがに無理だ。

 せめて形をイメージできる単語でも挟まればもしかしたらがあるかもしれないんだけどね。


「これじゃダメなのか? なら……」


 その男の子は詠唱が間違っていることに気が付いたのか、別の言葉を詠唱し始めた。

 力んでいるのかその言葉にはかなり力が籠っている。

 魔力は移動しやすいからあんなに力んでいたら魔力が入りすぎちゃう気もするけど、まあ、詠唱する魔法は決まった魔法を放つだけだからそこまで心配はないかな?

 そう思って傍観していたが、何度か唱えているうちにとんでもないことを口走り始めた。


「炎よ……火よ……爆炎よ……業火よ……」


 だんだん不穏な言葉になっていく。

 そこは魔法の根幹の部分だから変えてしまうと別の魔法になってしまうと思う。

 しかも、何度か唱えているうちに偶然にも形になってしまったのか、魔法が発揮されようとしている。

 その詠唱句で魔法を発動されるのは少しまずい。


「よし、これだ! 地獄の業火よ……」


「その辺にしてね」


 ばしゃっと男の子に掛けられた水の塊によって発動しかかっていた魔法がキャンセルされる。

 私が放った水球だ。

 何が起こったのかわからないのか、その男の子は目をぱちくりとさせて呆けている。しかし、私が手を翳しているのを見て私がやったことに気が付いたのか、火が付いたように怒りに顔を歪ませて怒鳴り込んできた。


「何をする! やっと発動しようとしていたのに!」


「だから止めたんだよ」


「なっ!? 貴様、この俺の邪魔をする気か!」


「邪魔というか、あのまま発動していたら大惨事だったと思うよ」


 あの詠唱句ではここら一帯を焦土に変えていた可能性がある。

 まあ、この子にそんな魔力があるとは思えないけど、少なくとも生徒に被害が出ていたはずだ。


「そんなはずは……いてっ!」


「馬鹿者、その子の言う通りだ」


 クラウス先生が男の子の頭を軽く叩く。

 軽くと言っても、クラウス先生の体格だとそれでも結構痛そうだ。

 呆然としている男の子に他の教師がうんうんと頷いている。


「さっきの詠唱句は上級魔法のインフェルノの一節じゃ。詠唱も間違っていたし、暴発していたら大変なところじゃったぞ」


「危なっかしかったのでファイアウォールの準備はしていましたが、今の様子だと間に合ったかどうか。そこの子、ありがとうね」


 口々に危険性を伝えられ、男の子は悔しそうに顔を歪める。

 まあ、せっかくAクラスに上がれたのに初っ端から失敗していたら危機感は覚えるよね。

 まあ、被害が出る前でよかったと思って次から頑張ってもらいたい。

 Aクラスに入れるほどの成績があるなら優秀ではあるんだろうしね。


「くっ……!」


 男の子がきっと私を睨みつける。

 確かにずぶ濡れにしたのは悪かったと思ってるけど、他に手っ取り早く止める方法もなかったし許して欲しい。

 軽く頭を下げると、男の子はずかずかと歩いてその場を去っていってしまった。

 まだ授業の途中なのに。まあ、お試し期間中は途中で授業を抜けたところで責められることはないけどさ。

 そんな後姿を見送りつつ、微妙な空気になった授業は再開された。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 火の魔法を暴走させようとした生徒についてですが、おそらく不発だったと思います。 なぜなら上級魔法を使えるだけの魔力が無いから。
[良い点] 「炎よ……火よ……爆炎よ……業火よ……」 (´Д` )不穏な言葉っていうより、徐々に厨ニ度が上がってるように感じ(実はラノベ好きな転生者じゃねーだろうなぁ)とか内心で思っていた読者です。 …
[一言] 一悶着の予感がする( ˘ω˘ )
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