第百六十六話:二年生
今回から第六章開始です。
三か月近い春休みが明け、久々に王都へと戻ってきた。
シルヴィアさんとアーシェさんの誘いを受けてニドーレン侯爵領へ行く前はお姉ちゃんと一緒にギルドの依頼を片付けたりしていたのだが、王都にも雪が降るようになってきた頃合いで急いで出発した。
音楽の町と言われるだけはあり、オーケストラによる大迫力の演奏まで見せてもらえてだいぶ楽しかった。
雪によってしんと静まり返る中、室内で優雅に音楽を楽しむなんて凄い贅沢をしている気分になる。
ニドーレン侯爵にも気に入られ、次の休みにも是非遊びに来てほしいと言われてしまった。
すっかり王都在住みたいになっているが、まだ家は持ってないんだよね。
その気になれば家くらい買えると思うけど、どうしようかな。
冒険者だから不意に遠出することもあるし、留守にする機会も多そうなんだよね。
それでも気軽に休める場所があるのは何かと便利だし、外縁部の空き家に住まわせてもらうのもいいかもしれない。
なんだかんだで王都は拠点になっているし。
私は学園の寮に住まわせてもらっているから今は不要だけど、お姉ちゃんのために買ってもいいかもしれない。
後で不動産屋にでも相談してみようかな。
さて、それはそれとして、今日から二年生となる。
二年生になると基礎ばかりだった一年と比べて実践的なことも増えて来るため、それぞれの属性に合わせた魔法を学べるように授業を選ぶことが出来る。
魔法は必修科目だけど、それ以外にも商業科とか騎士科とかいうものもあり、将来の就職先に合わせて様々な分野を学ぶことが出来る。
私はサリアと同じく闇魔法の授業を取る予定だ。基本的にはサリアに合わせるつもりだけど、サリアって何を取るんだろうね?
一応、春休みのうちに決めておくことが推奨されているけど、最初の一週間がお試し期間となっていて好きな授業を体験することが出来る。だから、ある程度の候補を絞っておいて、お試し期間でそれを受けて見て気に入ったものを取るというやり方もあるようだ。
それから、この最初の一週間は研究会の勧誘の期間でもあるらしい。
多くの研究会は新入生に勧誘をかけるためにビラを配ったり直接勧誘したりしている。学園に申請すれば新入生達が集まる中でパフォーマンスを行うこともできる。
尤も、この申請には限りがあり、大体は主要研究会の面々が独占してしまうため私の所属する魔法薬研究会にはあまり関係のない話だが。
そもそも、魔法薬研究会は本当に魔法薬に興味のある人しか必要としていないみたいで、過度な宣伝とかはしていないらしい。
あまり人数が増えすぎても研究室が狭いから入りきらないし、問題も起こるだろうからね。
ヴィクトール先輩もミスティアさんも現状に満足してる感があるから今回は宣伝すらしないんじゃないだろうか?
まあ、私は増えても増えなくてもどっちでもいいけどね。問題が起こらなければ。
さて、始業式も終わり、教室に移動することになった。
どのクラスに配属されるかは大講堂に張り出されている。私のクラスはどうやらBクラスのようだ。
テストの結果が功を奏したのかはわからないが、無事に昇格できたらしい。
他のクラスメイトを見てみれば、シルヴィアさんやアーシェさんの名前もあった。
無事に同じクラスになれたようで何より。
「あ、ハクさん、サリアさん。同じクラスになれましたわね」
「ほっとしましたわ。これからもよろしくお願いしますわね」
ちょうどクラス内容を見に来ていた二人と合流できた。
BクラスはAクラスほどではないが優秀と言われている。学力も平均以上を求められ、今までCクラスで優秀と言われていた生徒でも慣れることが出来ずに降格する者が多いらしい。
Aクラスになれるのはほんの一握りで、全教科満点とかそんなレベルなのだとか。
そう考えると、Aクラスにいる王子って凄いんだね。
ちなみに二年生になっても王子はAクラスのままだ。流石だね。
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくなー」
二人を連れ立って教室へと向かう。
今日は始業式と連絡事項を伝えられるだけで授業はない。
教室に入ると、すでに多くの生徒が席に座っていた。
ちなみに、席順に関してはあらかじめ決められている。私とサリアは相変わらず隣同士だけどね。
「よーし、みんな席に着けー」
しばらく雑談していると先生が入ってきた。
魔法使いというよりは戦士と言われた方が信用できそうな筋肉質な体。高身長ということもあり、腰に差したロッドがとても小さく見える。
誰かと思えばクラウス先生じゃないですか。
クラウス先生は入学テストの時もお世話になった人で、担当は火魔法と言っていたかな。
一年の時は体育の授業の時に会った気がする。見た目通り、指導は熱血な感じだった。
「よし、みんな席に着いたな。知ってる奴もいると思うが、俺はクラウス。このクラスの担任を務めることになった。よろしくな」
相変わらずよく響く声で自己紹介をしてくる。
ちなみに生徒の方はシルヴィアさん達を除くとあまり知り合いがいない。
やはり昇格というのは難しいようで、大多数はそのままCクラスに残ってしまったらしい。シュリさんもCクラスのままのようだ。
知り合いが少ないのは少し残念だけど、一番の友達が一緒のクラスだっただけましだろう。
生徒達の軽く自己紹介タイムとなり、その後連絡事項となった。
大まかにはお試し期間に受けられる授業についてが大半だった。
それぞれの属性の魔法を始め、一年でも習った歴史や経営術、新しく加わった剣術や計算など多岐にわたる。
黒板もなくただ口頭で伝えられるだけなので種類を覚えるだけでも一苦労だ。
一応、後で大講堂や教室の入口に張り出されるらしいから特に覚える必要はないけど、なんとなく癖で覚えようとしてしまった。
「受ける授業が決まったら俺に言いに来い。それじゃ、今日は解散だ」
そう言ってクラウス先生は去っていった。
さて、何を受けたものかね。
「ハクさん、サリアさん、どの授業を受けますの?」
「私達はひとまず火属性魔法の授業を受けるつもりですわ」
先生もいなくなって自由になったのでシルヴィアさん達がやってきた。
彼女達の得意属性は火属性なので当然と言えば当然だが、残念ながら一緒の授業を受けることはできなさそうだ。
一応、その属性の適性がなくても授業を受けることはできるが、実際に使える属性の授業と使えない属性の授業だったら使える属性を取るのが当たりまえだ。
私は火属性魔法も使えるから受けてもいいけど、サリアと離れ離れになってしまうのがちょっと心配。
まあ、サリアの噂も払拭された今なら多少離れても大丈夫だとは思うけどね。
「私はサリアと同じ授業を受けるつもりです」
「まあ、相変わらず仲がよろしいのね」
「でも、サリアさんは確か闇属性でしたわよね? 特殊属性ですけど、ハクさんは使えるんですの?」
私の得意属性は一応水属性ということにしてある。
普通の人は大体一つから二つの適性を持っている。私みたいに全属性が使えるなんて言うのはかなり稀だ。
特に火、水、風、土の基本属性以外の属性は特殊属性と呼ばれ、適性を持つ者が少ない。
光と闇はまだ特殊属性の中でも珍しくない方だけど、それでも特殊属性だ。
そう考えると、全属性って大概チートだよね。
「ええ、一応。あまり使いませんが」
「水と闇に適性があるってことですの?」
「いえ、他にも適性がありますよ」
「まあ、何の属性ですの?」
「全部です」
「えっ?」
「全部です」
「えっ……」
隠すほどのことでもないので正直に話したら口をぽかんと開けて呆然とされてしまった。
まあ、気持ちはわかる。言うと大体驚かれるから。
それでもまったくいないわけじゃないと思うんだけどな。
やがて呆れたような視線を送ってくる二人に軽く疑問を覚えつつ、授業について話し合った。
感想、誤字報告ありがとうございます。