第十九話:ポーションの買取価格
いつも通りに森の泉に向かうと、案の定道中で魔物に襲われた。
今回はゴブリンのようだ。討伐依頼の目標でもあるから報酬も乗る。早速狩ってしまおう。
とはいえ、毎回水の刃で倒すのも何だし、たまには別の魔法も試してみようかな。
そう思い、手を地面につけて魔法陣を起動させる。すると、ゴブリン達の足元が途端に柔らかくなり、その足を飲み込んだ。
「ギッギッ!」
必死に抜け出そうと頑張っているが、すでに元の硬さに戻っている地面からはなかなか足を抜くことができない。
さて、脚止めはばっちり。次はちょっと大技を……。
いつもよりも集中して魔法陣をイメージすると、ゴブリン達の足元に巨大な魔法陣が出現する。それは、ゴブリンの群れを覆いつくすほどの大きさ。
発動の合図かの様に腕を振り下ろす。その瞬間、魔法陣から夥しい量の風の刃が巻き起こり、ゴブリンの身体をずたずたに引き裂いた。
範囲魔法と言って、広範囲を殲滅するための魔法の一つ。普通の魔法と違って魔力の消費は大きいけど、周囲を一気に薙ぎ払えるため敵が多い状況下では重宝する。
だけど、今回の場合は失敗だったかなぁ。
血まみれで倒れるゴブリンの群れを見てちょっと引いた。これじゃあ高く買い取ってもらえないじゃないか。
範囲魔法はかっこいいけど、素材として売るならやっぱり水の刃でいいな、うん。
変な気を起こして素材をダメにしてしまったことにちょっと落ち込みつつ、泉へと到着した。
てきぱきと【ストレージ】からすり鉢を取り出し、ポーション作りの準備にかかる。
とりあえず、今日は今できているポーションの量産だ。同じものがたくさん作れなければ完全にポーション作りをマスターしたとは言えない。
中位ポーションの研究もしたいところだけど、現物買ってからでいいかなぁ。
今回も先に小瓶を作ってから、ポーション作りに取り掛かる。
うーん、小瓶に関しては買った方が早いかなぁ。毎回これやるのは正直疲れる。明日にでも街を見て回ろう。
「ねぇねぇ、ハク」
「ん? 何、アリア?」
「なんか来てるよ」
ポーション作りに没頭していると、アリアが話しかけてきた。
なんか来てるって、え、人?
思わず探知魔法を発動させてみるが、反応からしてどうやら人ではないようだった。
形的には兎。どうやらホーンラビットのようだ。
今まで作ってる最中に襲われたことなかったけど、森の中だし来ても何ら不思議ではない。むしろ今まで来なかったのが奇跡か。
私は静かに手を向けると、石の礫を発射する。大きさはそれほどでもないが、魔力によるブーストをかけているので速度は折り紙付きだ。
石の礫はホーンラビットの頭に直撃し、その命を奪う。
なんか、そこそこ数がいたけど、先手が取れれば物の数ではない。
剣の練習用の魔物って言われてるくらいだからね。子供でも武器があればそうそう負けない。一対一ならの話だけど。
死体を【ストレージ】に回収して作業に戻る。
その後は襲撃もなく、何事もなく日が暮れてしまった。
いやぁ、ちょっと没頭しすぎたね。
おかげで小瓶が足りなくなって途中でまた作る羽目になった。でも、これだけあればまとまったお金になるんじゃないかな?
今回作ったのが三十本。で、昨日作った余りの三本を合わせて合計三十三本。そこそこの数だね。
そそくさと後片付けをして森を抜ける。
浅瀬の方で今日もラルス君達が採取をしていたからお裾分けと思って自作のポーションを上げたらなんか怒られてしまった。
そんな気軽に渡す物じゃないだろってさ。別に自作しただけだからいいんだけどなぁ。受け取ってはくれたけど。
そのままギルドへと戻ると、買取所で薬草の納品と素材の受け渡しを行う。
いつも綺麗に首を刎ねてくるのに今回は血みどろスプラッタな惨状を見て、何があったんだよと突っ込まれてしまった。
いやぁ、若気の至りというかなんというか。
思った通り査定額はあまり振るわなかった。まあ、仕方ないね。
ホーンラビットの方はいつも通り高値で買い取ってくれたのが幸いか。
そのままシャーリーさんに依頼の達成の報告をして報酬をもらう。
常時依頼だけあってあんまり値段は高くないけど、ずたずたにして下がった値分くらいは取り戻せたかな? いや、さすがにそこまでないか。
しかし、今日はまだ売るものがあるのだよ。
シャーリーさんにお礼を言うと、その足でバーの方へと向かう。
そういえば、ずっと感じてた視線がちょっと緩くなったような? 前はぎらぎらした獲物を狩る目だったのに、今は何というか、物欲しげな感じ?
うーん、あれかな。パーティを断ったから一歩引いてくれたのかな? あの視線って多分、私が欲しいからそれが現れてたんだと思うし。
でも、そう言った目の人もまだまだいる。【ストレージ】控えた方がいいのかなぁ。
それはさておき、カウンターへと向かう。
いつものように渋いマスターは私の顔を見るなり、短く言葉を投げかけてきた。
「酒か? 薬か?」
「ええと、今回はこれを売りに来ました」
【ストレージ】から取り出した自作ポーションをカウンターに置く。
マスターの眉がピクリと動いたのがわかった。
「自作か?」
「はい。うまくできてると思うんですけど……」
マスターは私のポーションを手に取り、じっくりと眺めるように見ていく。
しばらくしてポーションを置くと、手の平をこちらに向けてきた。
「小銀貨6枚だ。いくつある?」
「えっと、二十個です」
「出せ」
ほんとはもっとあるけど、何かあった時のために残しておきたいからね。
言われた通りに数を出すと、マスターはそのすべてをじっくりと見定めるように見ていった。そして、すべて見終わると、後ろの棚から袋を取り出し、こちらに渡してきた。
「銀貨12枚だ。確認してくれ」
「あ、はい」
袋を開けてみると、確かに銀貨が12枚入っていた。確認を済ませると、マスターに向かって頷く。
マスターはそれに頷きで返すと、カウンターに出したポーションを一つ一つ棚に移していた。
「あ、それと、中位の回復ポーションを一ついただけますか?」
「小金貨1枚だ」
高っか! 低位と中位でそこまで変わるかぁ。
うーん、ちょっともったいないけど、これも研究のための投資だ。致し方あるまい。
せっかくなので先程貰った銀貨から10枚を出して渡す。それを受け取ると、少し形の違う小瓶に入ったポーションを渡してくれた。
低位のものより透明度が高く、魔力の量も多く感じる。使ってる素材にそこまでの変化はないんだけど、やはり決め手は魔力だろうか?
そういえば、ポーション作る時に魔力とか全然意識してなかったんだけど、あれでよかったのかな。なんか普通にできたみたいだけど。
うーん……後でちょっと調べてみようか。
よしよし、思ったよりも高く売れたことだし満足満足。まあ、その儲けは中位ポーションで消し飛んだわけだけどそれは御愛嬌ということで。
同じ量の薬草を売っても半額にもならないだろう。これは次から薬草採取はやめて討伐依頼だけ受けてポーション作って売るとかでもいいかもしれない。
さて、明日は買い物するぞー。
なんだかんだで結局一度も見て回ってないからね。商業都市というだけあって結構いろんなものもあるみたいだし、一度くらいは見て回ってもいいだろう。
何か買いたいものあるかな。ポーションの小瓶の他には……鞄でも買おうかな。
【ストレージ】があるからいらないとはいえ、【ストレージ】を使うと目立つのは何とかしたい。鞄があればそこから出したように装えるしね。
後はぁ……そういえば服も買わなきゃだね。かなりボロボロだし、見た目だけなら孤児院出身のラルス君より酷いもの。
せっかく女の子に生まれ変われたのだから少しくらいお洒落してみよう。ファッションとか全然わからないけど。
そんなものかな? まあ、後は適当に歩きながら考えればいいか。
感想、誤字報告ありがとうございます。とても嬉しいです。