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幕間:入れ替わりの薬(前編)

 魔法薬研究会の仲間ミスティアの視点です。

 オルフェス魔法学園には数多くの研究会が存在する。

 五十名以上の会員がいるものからたった二人しかいないものまで様々だ。

 私達魔法薬研究会もそんな超少数研究会のうちの一つだった。

 ポーションや魔石が主流の今、わざわざ魔法薬を使おうとする人は少ない。でも、だからこそ魔法薬にしか出せない魅力があると思うの。

 よく魔法薬は魔法の劣化だというけれど、作れさえすれば魔法が使えない人でも使えるし、効果時間を調整したり効果を微妙に変えたりもできる。決して魔法の完全劣化というわけではない。

 まあ、それは今回はさておこう。

 私が今興味があるのは最近入会してきたハクという少女のことだ。

 こんなマイナー研究会に入ってくるというだけでも変わり者だけど、その調合テクニックはまるでその道のプロとでもいうかのような手さばきだった。

 代々魔法薬を受け継いできた私ですら修得に三年ほどかけたというのに、この子はそれに加えて多彩な魔法を操り、私が苦労して作り上げた魔法薬をほとんど再現してみせた。

 私にも意地がある。普段は平静を装って表情には出さないけど、魔法薬の分野において私が負けるわけにはいかない。

 私は知る必要がある。ハクという少女のことを。

 そのためには、この魔法薬が一番だろう。


「こんにちは。あれ、今日はヴィクトール先輩はいないんですね」


 件の少女が研究室に入ってくる。

 ヴィクトール先輩には退出してもらった。万が一にも私の魔法薬が誤爆したら困るし、なるべく知る人は少ない方がいい。

 いつもハクと一緒にいるサリアという少女に関しては特に対策しなくてもいいだろう。ハクをきっちり説得すればそれで納得するはずだ。


「いらっしゃいー、お茶をどうぞ―」


「あ、ありがとうございます」


 私は何気ない風を装ってお茶を出す。

 もちろん、私特製の魔法薬入りだ。

 何の疑いもなくハクがお茶を啜る。そのタイミングを見計らって私も準備していた魔法薬を口に含んだ。

 ばちっと一瞬視界が真っ暗になる。痛みはないけど、この感覚にはちょっと慣れない。

 やがて視界が回復すると、普段より数段低い視界が広がった。


「は……え? ええっ?」


 私の目の前には慌てふためく私の姿。

 普段はそういった仕草をしたことがないから、客観的にみると少し可愛いかも?

 まあそれはどうでもいい。ちゃんと魔法薬の効果が発揮されたことを確認し、自分の身体を見てみる。

 白く華奢な手、ぺったんこな胸、視界の端にちらつく銀髪。

 そう、今の私はミスティアではない。ハクなのだ。


「み、ミスティアさん! これは一体……」


「間違えてー、入れ替わりの魔法薬がー、混ざっちゃったみたいだねー」


 いくら少数研究会とは言っても魔法薬は厳重に管理されている。意図的に混入させない限りは魔法薬がお茶に混ざることなんて絶対にないのだが、慌てているせいかハクはそれを信じたようだ。

 普段は大人っぽい雰囲気なのに慌てた姿はやはり子供っぽい。

 まあ、私の身体なんだけどね。細かいことは気にしない。


「これ、いつ戻るんですか?」


「大体ー、丸一日くらいー?」


「そんな!」


 普通は二、三時間程度で戻るものだが、今回は気合を入れて効果時間を伸ばした。

 ハクの普段の生活を観察し、何か秘密がないかを探る。そうでなくても、ハクの普段の生活には興味があるからね。これに乗じて一日だけお互いの生活を交換してみようという奴だ。


「ばれたら怒られるからー、一日私のふりをしてー?」


「そんなこと言われましても……」


「お願いー。私もー、ハクのふり頑張るからー」


「うぅ……」


 ハクは意外と押しに弱い。ちょっと上目遣いでお願いしてやればころっと落ちる。

 ただ、この体は表情筋が死んでいるのか表情が作りにくい。キャラ付けなのかと思ってたけど、ほんとに表情が動かないんだね。

 対して、私の身体になったハクの表情は多彩だ。泣きそうな顔になっているのが新鮮な気がする。

 この子も感情がないわけじゃないことがわかってちょっと一安心した。


 その後、一日お互いのふりをするということで話が付き、それぞれの寮へと帰ることになった。

 まあ、それぞれのと言っても同じ女子寮だから部屋が変わるだけだけど。

 この日のために部屋はある程度整理しておいたし、見られたまずいものもない。

 さて、ハクは普段どんな生活をしているのかしらね。


「ここがハクと僕の部屋だぞ」


 先導してくれるサリアに従って部屋に入る。

 サリアは目論見通り私の味方になってくれたので入れ替わりには賛成している。普段はハクにお世話されていることが多いから、私の世話を焼けるのが嬉しいのだろう。

 内装は、普通だ。まあ、寮の部屋だからあまり華美な装飾はご法度だけど、小物を置いたりカーテンの色を変えたりはすると思うのだが、そう言ったものもないようだ。

 本棚を見てみると、図書室から借りたのか魔法関連の書籍が数冊並んでいる。

 いや待って、これ一年生で読むようなものじゃないんだけど。

 魔法が得意というのは知っているけど、六年生どころか大人の魔術師が読むようなものじゃないこれ?

 なるほど、魔法に関しては相当造詣が深いと。

 魔法薬と魔法は切っても切れない関係があるから、魔法が使えるといろんな魔法薬を作るのに便利だ。

 まあ、普通はそんなに魔法が使えるならそもそも魔法薬なんかに頼らないんだけど。

 私達は人が少ないから自分で魔法をかけているけど、本来なら専用の魔術師を雇って共同で作り上げるものだ。

 なんでわざわざ魔法薬に手を出してきたんだろう。その辺も気になるわね。


「ハクは普段部屋で何をしているの?」


「うーん、魔法の研究? ぽいことしてるぞ。後ポーション作りとか」


「へぇ、ポーション作りね」


 前に多少の経験があると言っていたけど、ポーションのことだったのか。

 確かポーションって今では錬金術によって簡単に作れるようになったから人の手で一から作るポーションて貴重なんじゃなかったっけ?

 ポーション作りのやり方は基本的に秘匿されているから薬師とかに弟子入りしない限り作り方なんてわからないと思うんだけど……いったいどこで習ったのかしら。

 それに魔法の研究だっておかしい。

 今でこそ魔法を使える人はかなりの数がいるけど、その構造まで理解している人は少ない。

 魔法の研究なんて、王城の宮廷魔術師とか魔法研究家が長い時間をかけて行うもので、とてもじゃないけど子供がやる内容ではない。

 この身体、11歳のはずだけど、魔力だって尋常じゃないし。ありすぎて怖いくらいだ。

 一体どんな修行をしたらこんな風になるのか小一時間問い詰めたい。

 サリアにも聞いてみたが、それはサリアも知らないようだった。


「あ、そうだ。寝る前に翼を出しておくんだぞ」


「へ? 翼?」


「おう。それやらないと調子が悪くなるんだって」


 いや、意味がわからない。

 翼を出すって、飛行魔法でもやれって言うの?

 いや、飛行魔法でも翼なんて出さないと思うんだけど。そもそもあんな上級魔法出来ないし。

 いや、この体ならできるのかな? これだけ魔力が大量にあるならできてもおかしくない気がする。


「ど、どうやるの?」


「こう、翼でろーって感じ? あ、先に服は脱いでおいてな」


 そんなので翼が出てきたら大惨事だ。

 いつも服を脱いでそんな謎の儀式をやっているのだろうか。だとしたら謎すぎる。

 それが魔法薬が簡単に作れる理由? いやいや、そんなわけないでしょ。

 ほんとに翼が出るとは思ってないが、今の私はハクだし、ハクが普段やっているというならやるべきだろう。

 裸を見られるのは少し恥ずかしいが、別に私の身体というわけでもないし。


「翼を出してどうするの?」


「魔力を発散させる? って言ってた気がする」


 魔力の発散? 魔力が多いからちょくちょく使わないといけないってこと?

 別に魔力が多かったところで体調に変化はないと思うんだけど。

 まあいいや、ええと、翼でろーって感じだっけ?


「ひゃっ!?」


 何気なく考えた時、背中からにゅるりと何かが飛び出す感覚がした。

 恐る恐る振り返ってみると、そこには銀色の鱗と灰色の斑点が目立つ赤黒い翼膜が目に映った。

 え、ええ、ええ!?


「きゃぁぁあああ!?」


 未知の恐怖に思わず悲鳴を上げた。

 感想ありがとうございます。


 100万PVを突破しました。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔力量は身体側に依存しているとは、結構貴重な情報ですよね。 [一言] ハクさんが以前恐れたミスティア嬢の視線は恋愛絡みの嫉妬の視線ではなく対象を観察する視線だったのか(´Д` )しかし…
[一言] そんなこんなで意図せずに先輩にバレたわけか( ˘ω˘ )
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