幕間:ドキドキお泊り会(後編)
主人公の友人シルヴィアの視点です。
やはり出来る人というのは何をやらせても凄いらしい。
夕食の席では平民というのが信じられないくらい上品なテーブルマナーを見せつけ、その後開かれた音楽鑑賞会では音楽に聞きほれる姿はまるで絵画のような美しさを放ち、何か芸をと求められた時には11歳とは思えないほどの魔力制御で虹を再現してみせた。
客人に芸をしろなんて言ったお父様には少しむっとしたけれど、こんな綺麗なものを見られたと考えるとよくやったと言わざるを得ない。
どうやったのかを聞いてみたら、水魔法と光魔法、そして火魔法の合わせ技だと言っていた。
あれ、魔法の複合って相当高度な技術だったような……流石は訓練場の壁を破壊しただけのことはある。
その後、お風呂に入ることになったので私は喜々として背中を流しに行った。
流石にお風呂ではサリアさんと一緒ではなかったけれど、それでも問題はない。
サリアさんはアーシェに譲ってあげたからハクさんは私のものだ。
「なっ!? し、シルヴィアさん!?」
普段全く表情を変えないハクさんが珍しく驚いた顔をしてすぐに目を背けてしまった。
どうやら裸同士の付き合いには耐性がないらしい。
何でもそつなくこなす完璧超人と思っていたけど、こんな可愛らしい一面もあるのかと感心した。
「お背中流して差し上げますわ」
「い、いや、一人でできますから!」
耳まで赤くなっている。今正面を見れば真っ赤な顔で恥ずかしがってるハクさんが見れるのでは?
私はハクさんの言葉を無視して洗い始める。触れるたびにびくびくと体を震わせるのがホントに可愛い。
さあ、その顔を私に見せてくださいな。
「あ、あぅ……」
これが本当にあのハクさんかというほど真っ赤な顔でしかも涙目だった。
こ、これは破壊力が強すぎる!
あと少し引くのが遅かったら鼻血を吹き出していただろう。
ハクサリも尊いけど、ハクさん単体でも素敵すぎる!
一緒に入るつもりだったけど、これはダメだ。これ以上は精神が持ちそうにない。
宣言通り背中だけ流してお暇することにした。
はぁ、ちょっとクールダウンしよう。
メイドに頼んで水を持ってきてもらい、一気に飲み干す。
少しは顔の熱さが引いたかしら?
「姉様、ハクさんはどうでした?」
部屋に戻るとアーシェが感想を迫ってくる。
先にはいっていたサリアさんの感想は聞いたけれど、私よりは刺激が少なかったように思える。
天真爛漫なサリアさんも素敵だけど、普段とのギャップが凄いハクさんの方がやばいだろう。
「昇天するかと思いましたわ」
だからそう言っておいた。
多くは語らなくてもアーシェならうまく想像してくれるだろう。
しばらくしてハクさんがお風呂から上がったのを確認すると、飲み物を用意してハクさん達が寝泊まりする部屋で談笑会となった。
ハクさんのお友達を含めて全部で六人。流石にそこまで大人数となると少し手狭に感じるけど、そこまで気にすることでもないだろう。
ハクさんがじろりとこちらを見てくる。
すでにいつものデフォルト表情に戻っているけれど、なんとなくジト目で見られているような気がする。
ちょっとむくれている感じがまた可愛い。つい虐めたくなる。
遠くから眺めるだけというのもいいけれど、直接干渉してみるのもまたいいものだ。
話の話題はテストのことから始まった。
ハクさんはもちろん、サリアさんも結構成績は優秀だ。編入生で勉強が遅れているとは思えないほどに。
きっとこの二人ならすぐに上のクラスに行ってしまうだろう。教室自体は隣同士だから休み時間に会いに行くことは簡単だが、出来ることなら一緒のクラスになりたい。
そうなるべく、私も必死に勉強した。ここまで勉強に集中したのは私もアーシェも初めてだろう。
おかげで結果はそこそこ満足いくものになったと思う。他の生徒の成績にもよるが、Bクラスに上がれる可能性は高いだろう。
これで来年も一緒のクラスになれれば万々歳だ。
「私も再来年には学園に入るつもりだから、その時はよろしくね、ハク」
「うん。色々教えるよ」
そう言ったのはアリシアさんだ。
彼女は騎士志望ということらしいのだが、オルフェス魔法学園にも騎士科はある。魔法に関しても人並み以上にはできるようなので十分入学できるだろう。
それにしても、アリシアさんのハクさんに対する態度。サリアさんほどではないにしろ、この二人も結構仲がいいようだ。
「ハクさんとアリシアさんはどういう関係ですの?」
「ええと、同じ道場の妹弟子、ですかね」
聞けば、ハクさんは学園に入る前に剣術を習うために道場に通っていたことがあるらしい。
ほぼ同時期に入ったらしいのだが、アリシアさんは元々通っていたらしく、今では実質的な師範代ということもあり、よく面倒を見ていたのだとか。
「まあ、それ以外にも色々ありますが……」
深くは語らなかったが、彼女もハクさんを気に入った口だろうか。
それにしても、魔法だけでなく剣術まで習っているとは、ハクさんは一体何を目指しているんだろう。
もっとも、体力がなくて剣を振るうにも苦労しているという話だったからそこまで強くないのかもしれないが、習っているというだけでも凄いことだ。
私も習ってみようかしら? いや、時間がありませんわね……。
「あ、そうだ。聞きそびれていたことがありましたわ」
「えっ?」
「ハクさんとアルト王子の関係ですわ。話してくれるって言ってましたわよね?」
「確か、求婚されてましたわよね。そんなに仲がよろしいんですの?」
アルト王子は学園でも人気でいろんな人から求婚されているけれどみんな断っているらしい。なんでも、すでに想い人がいるからなのだとか。
そんな宣言をしておいてハクさんに告白するって言うことは、ハクさんがその想い人だということに他ならない。
アルト王子は学園での授業が終わるたびに外出しては誰かと会っているという噂がありましたが、もしかしてハクさんと会っていたのかしら?
「一目惚れされたらしいよ」
「ちょ、お姉ちゃん!」
さらっと言ったのはサフィさん。
地味にハクさんがお姉ちゃん呼びしているのが可愛い。
なんでも、ハクさんは王都に迫る災厄を退けた功績を称えられて王城に行ったことがあるらしい。そこでアルト王子と出会い、そのまま求婚されたのだとか。
ハクさんがそんなことをしていたというのにも驚きだけど、下手な美貌では靡かないアルト王子が一目惚れしたというのもなかなか信じられない。
確かにハクさんはとっても綺麗だけど、どこかアルト王子の琴線に触れるものがあったのかしら?
「でも、断ってましたわよね? せっかくのお誘いですのにどうして?」
「私には恐れ多いです。私みたいな平民では相応しくないでしょうし」
確かに王子が平民と結婚したなんて外聞が悪いですわね。
サフィさんの話では、外縁部の人々の間では英雄ともてはやされているようですが、中央部にはあまり浸透していません。私も知りませんでしたし。
ハクさんとアルト王子の結婚が現実になれば、多くの貴族が反対するでしょうね。
「せ、せっかくここまで来たのですから、シルヴィアさんやアーシェさんについても聞かせてくださいよ」
話を切り替えるようにハクさんが話題を振る。
結局、談笑会は夜遅くまで続いた。
そろそろ寝ようということになり、当然私は一緒に寝ようと進言したが、あえなく却下された。
まあいい、手はある。
目論見通りサリアさんはハクさんと一緒に寝たがったので一緒の部屋だ。私の部屋は隣。壁に耳を当てれば会話が聞こえてくる。
「おお、このベッドふかふかだなぁ!」
「さすが侯爵家のベッドだね。いい夢が見られそう」
耳を澄ませば衣擦れの音も聞こえてくる。
私は満を持してこっそりと開けた穴から隣の部屋の様子を見る。
もちろん、ばっちりベッドが見える位置だ。二人は少し距離を取ってベッドに寝転んでいる。
「えへへ、ハクぅ」
「わわっ、サリア、あんまりくっつくと寝苦しいよ」
サリアさんがハクさんの背中に抱き着きスリスリしている。
ハクさんは少し顔を赤くして嫌がっているが、無理に引きはがすということはしない。
そうそう、こういうのを待っていたんですよ!
絡み合う二人を見ているだけでパン三斤はいける。
結局、二人が眠りにつくまで私はずっと興奮しながら覗き見を続けていた。
ああ、生きててよかった!
感想ありがとうございます。