幕間:ドキドキお泊り会(前編)
主人公の友人シルヴィアの視点です。
オルフェス魔法学園は由緒正しき名門中の名門。多くの優秀な魔術師を輩出し、古来では勇者と共に魔王を討つのに協力したという歴史もある。
ここを卒業できれば魔術師として色々な場所から引く手数多になり、将来は約束されたようなものだ。だからこそ、この学園に入ろうとする者は多い。
私もそんな憧れを持ったうちの一人だった。
実家の方から箔付けの意味を込めて入学させられたというのもあるけれど、私も妹のアーシェも魔法には深く興味を持っていたし、オルフェス魔法学園に入れることになったのは渡りに船だった。
しかし、実際に入ってみて思ったことは、物足りないということだった。
いや、Cクラスの授業でも一年から魔法の扱い方については懇切丁寧に説明されたし、研究会だって主要研究会ともいえる火属性魔法研究会に入ることが出来た。
友達にも恵まれ、使用人を連れてきているから寮生活にも不自由はない。
だけど、何かが足りない。
それが何なのかはわからないけど、何か物足りなかった。
アーシェも同じことを感じているようで、しばらく悶々としながら生活していた。
その正体がわかったのは秋の事。中途半端な時期に来た編入生を見てからだった。
片や白銀の髪が美しい儚げな少女、片や大人っぽい雰囲気のピンク髪の少女。
雰囲気が全然違ったから姉妹ということはないのだろうけど、その二人は非常に仲睦まじかった。
刺激が足りていなかったこともあり、早々に近づいていったが、まず気が付いたのは受けた印象と中身は全く逆だということ。
儚げな少女、ハクさんの方は学園に入ってきたということは少なくとも11歳ということなのだろうけど、とてもそうは見えないほど華奢で小さい。だが、非常に丁寧な言葉遣いで誰に対しても優しく、とても親しみやすい人だった。
もう片方、サリアさんの方はすでに成人しているということだったけど、言動も仕草も非常に子供っぽく、ハクさんにとても甘えていた。
姉妹が逆転した仲睦まじい友人、最初はそんな印象だったけど、付き合っているうちにそれがもっと尊い何かだということに気が付いた。
例えばハクさんはサリアさんのことになるととても饒舌になる。
サリアさんはとても優しいだとかちょっと子供っぽいけどとてもいい子なのだとか、サリアさんをよく見せようと話を振っていた。
姉が不出来な妹を庇って必死に言いつくろっているように見えてとても可愛い。
対して、サリアさんはいつもハクさんの隣にいて甘えている。ハクさんはそんなサリアさんを嫌がることもなく、時に頭を撫でたり、時にはご飯を食べさせてあげたり、まるで恋人にでも接するようなことを平然とやってのける。
しかも、それが普通と思っているのか、特に恥ずかしがる様子もない。
学園内でも恋愛している生徒はそこそこいるが、下手なカップルよりよっぽどカップルに見えるのがこの二人だ。
しかもこの二人、平民と貴族というアンバランスな組み合わせでもある。
普通、貴族の子女は家の力を強くするために良家との縁談を持ち込まれるため、恋愛結婚というものがほとんどない。
そんな中、女同士とはいえ貴族と平民という身分差を乗り越えてここまで熱い関係になれるというのは異例なことだ。
しかもサリアさんは最近まで引きこもっていたらしく、ハクさんと出会える確率は相当低かったはず。
まさに奇跡の組み合わせと言ってもいいだろう。
極めつけはハクさんはCクラスどころかAクラスにも入れる実力を持ちながら、サリアさんのためにあえてCクラスに入ったという。
最近起こった騒動ではほとんどの人が敵に回る中、それでもサリアさんを守るために抱きしめたという出来事もあった。
もうここまでくれば二人の絆は疑いようもない。
この二人を見ていると全く飽きない。今までつまらないと思っていた学園生活も一気に色を持ったような気がした。
私が求めていたのは、こういった物語であると気が付いたのだった。
気が付けば尊い二人の姿を追いかける毎日。
編入初日に近づいた私の判断は間違っていなかったとあの頃の自分を賞賛したい。
友達として間近で見られる二人の掛け合いは私の心を満たしてくれた。
「アーシェ、準備はよろしくて?」
「もちろんですわ姉様。すべて抜かりなく準備いたしましたわ」
そして今、とうとう私は二人を実家であるニドーレン領へと招待することに成功した。
ホームグラウンドであるここならより間近で、より濃厚な絡みを見せてくれるに違いない。食事会に音楽鑑賞を始め、一緒にお風呂に入ったりお買い物したり同じ部屋で寝たりとイベントは盛りだくさん用意してある。
そしてあわよくばサリアさんに向けられているような寵愛を私やアーシェにも……ふふふ。
おっと、涎が。仮にも侯爵令嬢ですもの、このような醜態は見せないようにしなくては。
馬車が到着したという連絡が入った。
お父様やお母様と一緒にエントランスで待ち受ける。
執事が扉を開くと、ハクさん達の姿があった。
「ようこそニドーレン家へ。歓迎しますわ」
「お友達の方もよくいらっしゃいました。ゆっくりしていってくださいね」
連れてきたのはどうやら二人らしい。
一人はサフィさん。どうやらハクさんの姉らしい。何とAランク冒険者だというから驚きだ。背が高く、とてもスタイルがいい人だ。
もう一人はアリシアさん。王都に住む騎士爵のご令嬢らしいのだけど、残念ながら見たことはなかった。
まあ、私が王都に来たのは去年のことだから知らなくても無理はないとは思うけど。
ハクさんとはまた違った感じの銀髪で、ハクさんほどではないが少し幼い感じ。
お父様やお母様の反応はまずまずといったところ。我が家は身分で差別するようなことをあまりしないからハクさんのこともそこまで気にはされなかった。
荷物をメイド達に運ばせ、部屋へと案内する。
この日のために部屋の内装も少し変更した。
ベッドはキングサイズに、明りは少し暗めに、姿見も大きいものに変えた。一緒に寝るのが理想だけど、そうならなかった時の備えもある。完璧な仕上がりだ。
「お疲れでしょう。まずは体の疲れを癒してくださいな」
「紅茶をご用意しましたわ。一緒に飲みましょう」
本来なら客人のお世話はメイドの仕事だけど、断固として私達がやるといった。
ハクさんやサリアさんのお世話ができるなんて夢のような機会を逃すわけにはいかない。実家に呼んだ理由の八割くらいはこれが目的だ。
寮ではなかなかそういったことはできませんからね。
「ありがとうございます。シルヴィアさん、アーシェさん」
「いえいえ、これくらい当然ですわ」
少し遠慮がちにしながらもハクさんが紅茶を楽しむ。
紅茶を飲む姿一つとっても絵になるから不思議だ。
「あちっ!」
「あ、ほら、大丈夫?」
「ちょっとびっくりしたけど、平気だぞ」
淹れたての紅茶が熱かったのかサリアさんが紅茶を少し零してしまう。
するとすぐさまハクさんがハンカチで拭いてあげるのだ。
表情こそ変わらないものの心底心配しているような仕草、そして気にしない風を装いながらも少し恥ずかしそうに顔を赤らめているサリアさんのお顔。ああ、尊い……。
これだけでも脳内領域に永久保存決定のシーンだけど、お泊り会はまだ始まったばかりだ。
これからもっと尊いシチュエーションを用意してますからね、楽しみにしていてください、ふふふ。
感想ありがとうございます。