第十八話:パーティの誘い
宿に戻ると、早々にお風呂に入り、その後食事を済ませて部屋へと戻ってきた。
「はぁ、キレるところだった」
部屋に着くなり、イライラした声で悪態をつくアリア。
よほど先程のやり取りが気に障ったのだろう。ベッドにどっかと座り込んで足をばたつかせていた。
「なんなのあいつ、自分の腕がないのをハクのせいにしちゃってさ。人をいびってる暇があるなら修行でもしてろってんだ」
「まあまあ、酔っ払いの言うことだし」
私より怒ってくれるアリアにちょっと嬉しいと感じつつ宥める。
別に私もムカついてないわけではない。ただ、ギルドで因縁付けられるって本当にあるんだなぁって思ってちょっと感心してるだけだ。ある意味貴重な体験なんじゃないかな? まあ、二度とごめんだけど。
それより、私のポーションがちゃんと認められたことの方が大きい。
この調子で中位ポーションも作れたら回復以外のポーションにも手を出してみたいところだ。スタミナポーションとか気になってるんだよねぇ。
「でもさぁ……」
「はいはい、それより……『こっちの練習しよう?』」
『あー、うん。それもそうだね』
私は会話を【念話】へとシフトする。
【念話】は言葉に出さずに思ったことを相手に伝えるスキルなのだけど、思ったよりも言葉の構築に時間がかかる。いや、伝えたい言葉自体はすぐに浮かぶんだけど、それを相手に届けるためのパイプを作るのが難しいという方が正しいかな。
魔法と同じように打ち出す形を取ればそれも必要ないんだけど、もし誤って間に誰かが割り込めば、知らない人に言葉を伝えることになるし、【念話】の場合はきっちりとパイプを作った方が無難だ。
うーん、二重魔法陣の応用でいけるかなと思ってるんだけど、いかんせん距離が長くて微妙なんだよね。だから、こうして練習を重ねてだんだんと構築速度を高めることにしたのだ。
使ってればそのうち慣れるでしょってこと。何事も日頃の積み重ねは大事だからね。
毎晩寝る前にやるようにしてるんだけど、まだまだ会話ってレベルになるには程遠い。ゆっくりでいいなら話せるんだけどね。
そんなこんなで練習しているうちにアリアの怒りも収まったようで、最後は笑って相手をしてくれた。
やっぱりアリアは笑ってる方が可愛いよ。
翌日。いつものようにギルドに行くと、入った瞬間男共に囲まれた。
え、何? 私何かした?
困惑していると、目の前にいた男性が鬼気迫るといった様子で話しかけてきた。
「あ、あの! 僕達のパーティに入りませんか!?」
「えっ……」
えっと、パーティのお誘い?
冒険者はソロで活動する人も多いが、基本的には何人かのパーティになって行動するものだ。一人だと不測の事態になった時に対処できないし、危機に陥った時に助かる確率も低い。
パーティならそういった危険を減らすことができ、またパーティ内で弱点を補い合えることから複数人で組むというのは珍しいことではない。
パーティになるとメンバーのランクにもよるが、ソロでは受けられないような依頼も受けることができるため、そういった意味でもパーティを組たがる人は多い。
だから、そういった意味ではパーティのお誘いは理解できるのだけど、なんで私? まだ駆け出しのFランク何か誘っても得ないでしょ。
「君、【ストレージ】が使えるんでしょ? 僕達ちょうどオークの討伐に行くところでさ、君がいてくれたらとっても楽になるんだよ!」
「おい、抜け駆けしてんじゃねぇぞ! こいつらEランクの新人だ。それよりCランク目前のDランクの俺達のところに来ないか。男ばっかりでむさ苦しいが、お前が来てくれたら……」
「何言ってんの! あんたらみたいなむさくるしい男共のところに行ったら可哀そうでしょ! ここは私のところにおいで、歓迎するわよ」
「あ、ずりぃぞおめぇら! 俺達が先に目を付けてたのによ! 嬢ちゃん、ポーション作れるんだって? 俺達のパーティに一人怪我人がいてさぁ、ポーション買う金がないんだ、作ってくれねぇかな?」
あ、女の人もいたんだ。ていうか何この状況、普通に怖いんだけど……。
でも、私を必要としている理由は何となくわかった。【ストレージ】目当てってことね。
【ストレージ】はレアスキルで、持ってる人はそうそう見かけない。これの凄いところは、どんなものでも収納できるということだ。
例えば、討伐依頼を受けて対象を討伐したとしよう。その時、死体を持って帰れば素材として換金してくれるため儲かる。だが、小柄な魔物ならともかく、大型の魔物となると運ぶだけでも一苦労だ。そんな時、【ストレージ】持ちがいるとその問題が綺麗さっぱり解決できる。本来なら諦めなければならなかった素材を持ち帰ることができるのだから。
たとえ【ストレージ】以外に取り柄がなかったとしても、それがあるだけでとても役に立つのだから【ストレージ】持ちは重宝されるのだ。
私は毎回買取所で【ストレージ】から獲物を出してたからね。それを見ていたんだろう。
うーん、さてどうしたものか。
パーティに入りたいかと聞かれたら、いやいいって答えるんだよね。
だって、私にはアリアがいるし。パーティを組んだらアリアが出てこれなくなってしまう。それに今はポーション作りが忙しいし、できれば一人の時間が欲しい。
もちろん、パーティに入るメリットもあるんだけどね。今より収入は増えるだろうし、危険も減るだろうし。
でも、こうも鬼気迫る様子で来られるとなぁ……なんか、うん、怖い。
まるで檻の中に入れられて外から猛獣に檻を齧られてるみたいな。
どうせなるならこう、友達感覚で接してくれる人がいいなぁ。
ギャーギャー言い合ってる人達には悪いけど、断らせてもらおう。
「今は、一人がいいので……」
『そんなぁ!?』
がっくりと肩を落とすが、強引に連れて行こうとする人がいないのは好印象だ。昨日の事もあるから自重してるのかもしれないけどね。
あ、最後の人はポーション渡すだけならいいかな。
そう思って余ってた自作ポーションを渡したら泣いて喜んでくれた。
いや、素人が作ったポーションでそんなに喜ばなくても……まあ、喜んでるならいいか。
その後、気が向いたらぜひ話しかけてくれって言ってみんな去っていった。悪い人達ではないと思うんだよね。ただちょっと、欲望が強すぎるだけで。
実際【ストレージ】持ちってこんな扱い受けてるのかな。他に持ってる人見たことないからわからないけど、もしそうならちょっとした災難だ。
まあ、それに見合うだけの魅力があるから五分五分かもしれないね。
さて、びっくりはしたけど今日も依頼を受けましょう。
受付でいつものように採取依頼を受けようとすると、珍しく受付さんが話しかけてきた。
「大人気ですね、ハクさん」
「【ストレージ】のせいだと思いますけどね」
「まあ、確かに。【ストレージ】はレアスキルですからね。でも、ハクさんの場合はそれだけじゃないと思いますよ?」
「えっ?」
きょとんとした目で見れば、にっこりと笑顔で返されてしまった。
そういえば、いつもこの受付さんが処理してくれてるんだよね。受ける時も完了報告する時も。
アリアと同じ若草色の髪色で腰まで届くほどの長髪をポニーテールで纏めている。眼鏡を掛けていて、ちょっとおっとりしたお姉さんという印象だ。
受付はいくつかあるからこの受付さんじゃなければならないというわけではないんだけど、なんとなく同じ場所に通ってしまう。
「そういえば、受付さんの名前は?」
「私はシャーリーと申します。登録の時は失礼しました」
「あ、いえ、別にそんな……」
最初は私の事11歳と扱ってくれなかったもんね。でも、なんだかんだでちゃんと登録してくれたから別に気にしていない。
何回か依頼をこなしているうちにちゃんと11歳扱いしてくれたしね。
「それはそうと、いつも採取依頼を受けていますが、討伐依頼は受けないのですか?」
「えっ?」
「いつも獲物を狩ってきているものですから。討伐依頼も一緒に受けておけばその分の報酬も出ますよ?」
「依頼って一度にいくつも受けていいんですか?」
「はい。期日さえ守っていただければ依頼の重複は可能です。人数が多いパーティなんかはよく複数受けていきますよ」
まあ、言われてみれば確かにそうか。よく考えればラルス君達も他の子達が別の依頼を受けているって言ってたし、同時にこなせるのなら複数受けてもいいわけか。
うーん、だったら受けておこうかな。常時依頼に出てる魔物討伐の依頼はゴブリンとかホーンラビットとかいくら狩ってもきりがないような連中だし、森に行けばすぐに会えるでしょ。というか会った。
「じゃあ、討伐依頼も一緒にお願いします」
「わかりました。では、ギルド証をお願いしますね」
ギルド証を提示するとさらさらと書類に記入していく。手際よく済ませると、すぐにギルド証が返ってきた。
「では、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきますね」