第百四十六話:歓迎会
「歓迎会、ですか?」
朝起きて食堂で朝食を食べ、教室へ向かい授業を受ける。編入から数日が経ち、そんな生活にも段々慣れ始めた頃。いつものようにお昼を食堂で食べながら歓談していると、ふとそんな話が出てきた。
「ええ。せっかくこうして編入されてきたんですもの。同じクラスメイトとして歓迎するのは当然のことですわ」
「それに私達はもうお友達ですもの、色々と話したいこともありますし」
シルヴィアさんとアーシェさんが主導となり、他の女性陣も頷いている。
なるほど、歓迎会。もちろん開いてくれるなら嬉しいことだし、断る理由もない。
それよりも、この短期間でそこまでしてくれる友達ができたことが驚きだ。
確かに友達なんていつの間にかなっているものだけど、こういう感じだっただろうか? 前世の記憶でも学生時代は同じ部活の連中とつるんでたくらいでそこまで交友があったわけではないからよくわからない。
「それは嬉しいですが、よろしいのですか? ご迷惑になるんじゃ」
「そんなこと言わないでくださいませ。私達はもっとあなた方と仲良くなりたいのです」
「まあ、そう言うことでしたら異論はありませんが……」
目を輝かせて迫る二人に少し動揺する。
うん、まあ、別に悪い誘いじゃないしいいんじゃないかな? サリアが良ければだけど。
「サリアはどう思う?」
「ハクが行くなら行くぞ!」
「そっか……。なら、お言葉に甘えさせていただきます」
「決まりですわね。聞きましたわねみんな? 盛大なものに致しますわよ!」
「「「おおー!」」」
なんか気合の入り方が違う。別にちょっとお部屋にお邪魔しておしゃべりするようなそんな小さなものでいいんだけど……まあ、張り切ってるならいいか。
準備が出来たら追って連絡するということになり、話はお開きとなった。
それから数日後。ようやく歓迎会の準備が整ったということで、放課後になってから私とサリアは旧校舎と呼ばれる場所へと足を踏み入れていた。
本来なら寮の食堂で行おうということになっていたのだが、話を聞いた男子生徒も参加したいと言ってきたため、急遽学園側に許可を取り、旧校舎の空き教室を使うことになったのだとか。
案内役の女子生徒の先導の下廊下を進み、とある教室の前で立ち止まる。
「それでは皆さん、楽しんでくださいね」
女子生徒が扉を開けると、中には多くの生徒が集まっていた。
ざっと見るだけで40人くらいはいるだろうか? 歓迎会の話が出た時はせいぜい5、6人程度だったのに結構話が膨らんだものだ。
中には先生の姿もあり、入学テストの時に会った四人も参加しているようだ。そして、一番目を引く人物が窓際に立っている。
「おお、ハク、それにサリア。よく来てくれた」
切れ長の目に綺麗な金髪、美男子と言える容姿を持ったその男性は制服こそ着ているもののよく顔を合わせている人物だった。
「王子……あなたも来ていたんですね」
「もちろん。ハクの歓迎会と聞いて行かないわけにはいかない」
どうやら何かの拍子に王子にも話が伝わってしまったらしい。
まあ、別に来られて困るというわけでもないから別にいいけど、ほんとどこにでも現れるなぁ。
ちなみに王子のクラスはAクラス。エリートだ。
「ハクさん、待っていましてよ。どうぞこちらへ」
教室の中央部付近でシルヴィアさんが手招きをしていたので中に入る。
空き教室と言っても意外に広く、備品である机などは片づけられていて代わりに丸テーブルがいくつか置かれている。テーブルの上には数々の料理が並び、まるで立食会のような様相だ。
私達が近づくと隣に立っていたアーシェさんがグラスを渡してくる。中には少し濁った白い液体が注がれていた。
なんだろうこれ。匂い的には葡萄っぽいけど。
「ハクさん、アルト王子とどのような関係ですの?」
「まさかアルト王子が来るとは思いませんでしたわ。ハクさん、知り合いでしたのね」
顔を寄せてひそひそと話しかけてくる。
うん、まあ、知り合いというか、求婚されましたね。断ったけど。
それを言ってもいいけど、王子は人気が高そうだし、そんなことを言ったら恨まれそうだから止めておく。
軽く笑いながら曖昧に返すが、納得できないのか二人の顔は不満そうだ。
「……まあいいですわ。ここは歓迎の場ですもの。今は聞かないでおいてあげますわ」
「その代わり、後でちゃんと話してもらいますからね」
「まあ、はい、その内話しますよ」
言っても大丈夫かな。余計な敵を作ったりしない? 今はただでさえ不安分子があるから敵は増やしたくないんだけど。
「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございますわ。主役も来たようですし、これより歓迎会を始めますわよ。では、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
シルヴィアさんが宣言すると、周囲が合わせるようにグラスを高く上げる。
慌てて私もグラスを掲げ、乾杯の言葉と共にグラスを口に運んだ。
深い甘みが喉を通り抜けていく。どうやら果実水のようだ、とても飲みやすい。
「ぷはぁ! うまいなこれ!」
サリアは豪快に飲み干し、袖で口元を拭っている。
貴族としてあるまじき行為だが、周りはそんなサリアを微笑まし気に見守っていた。
サリアは16歳だということを明かしているが、扱いは完全に同級生か子供相手のそれだ。
まあ、元々子供っぽいから仕方ないのかもしれない。怒られないならそれでいいよ。
「さて、アルト王子に関して聞きたいことは色々ありますが、本人もいることですしそれは止めておきましょう」
「ですが、他の話なら構いませんわよね?」
「はい、答えられることならば」
歓迎会という名の立食パーティは和気あいあいとした雰囲気で進んだ。
シルヴィアさんやアーシェさんを始め、他のクラスの生徒もちらほらと話に参加してきていろんな話をした。
今はまだ私の口からサリアの事情を話すわけにはいかないけど、皆サリアに好意的でこれなら大丈夫なのではと思わせるものがある。
途中、雰囲気に酔っていたのか頬を上気させた男子生徒が私に告白してきた時は一時騒然となった。
王子が乱入し、男子生徒が赤かった顔を真っ青にしながら土下座したり、私がそれをなだめようと割って入り、男子生徒の肩を持ってあげたり。王子は複雑な表情をしていたけど、いくら身分差がない学園内とはいえ王子相手にすごまれたら大抵の人間は委縮してしまうだろう。その辺りの配慮が王子にはまだ足りていないと思う。
その後王子が再び私に求婚してきてそれを断ったことでさらに一悶着あったが、最後はみんな笑い合っていたので楽しい歓迎会になったと思う。
サリアもよく笑い、友人と言える親しい人達も何人かできた。
最初は王子もいてどうなることかと思ったが、有意義な結果に終わってよかったと思う。
あっという間に時間は過ぎ、歓迎会はお開きとなった。
後片付けを手伝おうとも思ったが、主役は気を使わなくていいとシルヴィアさんやアーシェさんに言われてしまったので大人しく引き下がることにする。
「楽しかったな、ハク!」
「そうだね。サリアも楽しめたようで何より」
寮に戻り、お風呂に入ってから部屋へと戻る。
すでに寝間着に着替え、寝る準備は万全だが、先程の歓迎会の興奮で体に熱が溜まっており、すぐには寝られそうになかった。
「僕、学園に来れてよかったって思うよ」
「よかった。これからも頑張ろうね」
「おう!」
しばらくサリアと二人でおしゃべりし、夜も更けてきたところでお互いにベッドに入る。明日も学校だし、寝坊するわけにはいかないからね。
できればこんな平和な生活がずっと続いてくれるといいなと願いながら、私は眠りについた。
感想ありがとうございます。