第六百九十二話:探していた者
一度、王都に戻って、次なる専門家を考えてみたが、あまり思いつかなかった。
一応、聖教勇者連盟とか、ローリスさんのいるヒノモト帝国とか、色々候補はあるけど、あそこらへんはどちらかというと転生者達の知識である。
つまり、一夜にとってはすでに知っている情報が多いだろうし、知識としてはあまり意味がないのではないかと思ったのだ。
後は、私の使う魔法ではない、一般的な魔法。すなわち、詠唱を必要とする魔法もありなんじゃないかと思ったけど、あれも元を正せば同じものだし、詠唱のフレーズが追加されるくらいで、そこまでページ数には貢献しない気がする。
もちろん、塵も積もれば山となる理論で、とりあえず書いておくのもいいかもしれないけど、ここまで来たなら専門的な知識で埋めたい気持ちもある。
それでいて、クイーン側に伝わってもいいものと考えると、ちょっとすぐには思いつかなかった。
もし、一夜が魂を消費して動いているのだとすれば、こんなことで迷っている場合ではないのはわかっているけど、誰かいい人材はいないだろうか。
『ねぇ、そう言えばルディはどうしたの?』
「え? ああ、そう言えば帰ってきてないな」
ふと、一夜に言われて存在を思い出す。
ルディは、捕らわれた一夜を探すために、世界を超えて捜索に出かけていた。
結構前から、通信は途切れていて、今どこにいるのかすらわかっていない。
こうして、無事とは言えないまでも、一夜が帰ってきた以上、ルディも帰ってきてくれてもいいんだけど、一体どこまで探しに行ったんだろうか。
「リク、まだ連絡は取れないんですか?」
『ダメだね、全然繋がらない』
「そうですか……」
別に、ルディがいなくなる分にはどうでもいいけど、一応は一夜に加護を与えている神様でもあるし、無事を知らせるくらいはしてあげたい。
どうにかして知らせる方法はないんだろうか?
『ヒヨナが直接呼びかければ来るんじゃない?』
『そうなの?』
『多分ね』
世界を超えていたとしても、愛し子である一夜の呼びかけでなら、もしかしたら反応してくれるかもしれないとのこと。
まあ、あまりに離れすぎていて、物理的に来れないという可能性はあるらしいけど、最悪、長距離を移動することができる門の魔術などもあるらしいので、聞こえているなら来る可能性はある。
『やってみるね』
一夜は、さっそくルディに呼びかけを始めた。
しばらく待っていると、なにやら部屋がガタガタと揺れ始める。辺りに黒い霧が充満し始め、死臭が漂い始めた。
この気配、間違いなくルディのものである。
『ヒヨナ!』
「わっ、びっくりした」
一瞬、静寂が訪れたかと思と、轟音と共に部屋に巨体が出現した。
多くを黒い靄で覆われた不定形の存在。
その溢れ出る瘴気は、触れただけでも自殺を考えるほど濃い死の香りを纏っているが、今はその中に、別の感情が混ざっているように感じた。
まあ、今はそれよりも、急に巨体が現れたことによって部屋が破壊されたことの方が問題な気がするけどね。
いつもは小さな姿になっていたから問題なかったけど、まさかこんな形で破壊されるとは思わなかった。
『今、我が愛し子の声が聞こえたぞ! どこだ!?』
「ルディ、落ち着いて。一夜はちゃんと見つかりましたから」
『貴様は、契約者の兄か。言え、どこにいる!』
『ここだよー』
すっかり狭くなった部屋の中で、一夜が浮かび上がる。
目の前に浮かぶ本を見て、ルディは一瞬目を丸くした後、震えた手つきで一夜を抱きしめた。
『ああ、我が契約者よ。こんな姿にされてさぞ苦しかっただろう。会いに行くのが遅れてすまなかった』
『ううん、ずっと探してくれているって言うのは聞いていたから。この通り、私は無事だから、安心して』
『う、うむ……しかし、無事とは言い難いその姿。あの魔女め、一体どうしてくれようか……』
『落ち着いて。私は大丈夫だから』
「とりあえず、小さくなってくれません? 部屋が大変なことになってますから」
特に大事なものは置いていないとはいえ、流石にあんまり破壊されたくはない。
本の姿とはいえ、一応一夜の姿を見て安心したのか、ルディは素直に言うことを聞き、小さな姿となった。
やれやれ、この部屋どうしようかな。壁は直せると思うけど、家具とかは買い直しかなぁ。
「それにしてもルディ、一体どこまで探しに行ってたんですか?」
『契約者の痕跡を追い、夢の世界まで辿り着けたまではよかったが、そこにいた魔女に、契約者は本の姿となり、過去や未来に飛ばされたと聞いてな。どうにか割り込めないかと、思考錯誤していたのだ』
一応、一夜が攫われた場所を特定はできたけど、そこからさらに別の場所に、しかも時間を超えての移動となってしまったため、追うのに苦労していたらしい。
流石に、ルディでも時間を超えることはできないようだ。
そう考えると、気軽に本の姿に変えた挙句、時間や空間を軽々移動させてきたそのホウンという神様は一体どれだけ凄いのだろう。
聞くところによると、クイーンの妻らしいし、クイーンの強さを考えるなら、それくらいできてもおかしくはないけど、ちょっと理不尽である。
『結局、入り込むことはできず、それどころか時空の狭間に飛ばされ、かなり時間を浪費した。契約者の呼びかけがなければ、今もあの空間に囚われていたことだろう』
「大変でしたね」
『うむ。だが、こうして再会することができてほっとしている。まあ、できれば人間の姿で会いたかったが……』
『私のこの姿は嫌い?』
『嫌いではない。だが、あの魔女にいいように扱われた果ての姿と思うと、少しイラッとするだけだ』
ルディとしては、本の姿自体は別にいいけれど、それをやったのがホウンだから気に入らないらしい。
それってつまり、自分で本に変えたならいいってことだよね?
本当にできるかは知らないけど、もしやったなら私はルディを許さないと思う。
『それで、元に戻るためには、ページを埋める必要があるという話だったな』
「うん。ああ、ルディは何かそれっぽい知識とかないですか?」
『我の知る呪文はすでに大半を教えてしまったからな。その他となると、思い出話くらいしかない』
「使えな……いえ、仕方ないですね」
厳密には本には書かれていないが、すでに一夜が知っている知識では、本に残るかどうか怪しい。
それでも書いてみる価値はあるかもしれないけど、そもそも呪文をそんなに覚えてほしくもないし、どちらにしてもルディに頼るのはあまりやりたくはないか。
とりあえず、帰ってきてくれたのはいいけれど、結局進展はしなさそうである。
さて、どうしたものか。
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