第六百八十九話:魔導船と一夜の体
ドックへ赴くと、さっそくセレフィーネさんの姿を見つけた。
兄のエルバートさんと共に、設計図とにらめっこしている様子である。
私は、なるべく邪魔をしないように、そっと声をかけた。
「セレフィーネさん、エルバートさん、お久しぶりです」
「むっ、貴様は……!」
「おや、ハクさん、お久しぶりです」
警戒した様子のエルバートさんとは裏腹に、セレフィーネさんは柔らかな口調で返す。
エルバートさんが警戒しているのは、以前にエルバートさんの企みを邪魔したからだと思うけど、いい加減許してもらえないだろうか。
一応、謝罪はしたし、魔石なども譲ったから、表向きには許してくれていると思うんだけど、どうにも態度が硬い。
まあ、元々こういう性格かもしれないけどね。
「なにしに来た? 今忙しいのだが」
「なにをしているんですか?」
「魔導船の問題点の洗い直しだ」
そう言って、テーブルの上に置かれてる設計図に視線を落とす。
魔導船に関しては、私が関わっていた時に、すでに完成しており、テスト飛行も成功していた。
しかし、あれから改良を重ねるうちに、色々と問題点も見えてきたようで、その対策に追われているらしい。
まあ、前人未到の発明だし、問題点の一つや二つは出てくるよね。
「今のところ量産する気はないらしいが、将来的にそうなった時、コアとなる魔石の調達がどうしても不可能になっている。それを、どうにか現実的なレベルまで落とし込むには、越えなければならない壁が大量にあるのだ」
「まあ、あれだけの大きさの魔石ですからねぇ」
魔導船のコアとなっているのは、私が以前に討伐したギガントゴーレムの本体である。
魔力溜まりから発生したゴーレムだけあって、その体は魔力の塊であり、魔石として利用することができた。
その大きさもかなりもので、採掘などで掘り出そうとしても、相当な労力がかかることだろう。
そもそも、そんな魔石が見つからない気がするしね。
他に作らないというのなら、まだ見つからなくてもいいかもしれないが、今後新たに魔導船を作る時に、コアとなる魔石が見つからないでは意味がない。
それに、仮に新たに作らないとしても、魔導船のコアが何らかの理由で傷ついたなどした場合の保険は必要になるだろうし、巨大な魔石は必要になる。
しかし、現実的には不可能だから、どうにかして必要な魔石の大きさを減らせないかと考えているわけだ。
この辺に関しては、私にもどうにもできない。
流石に、魔道具の設計までは手を出せないからね。セレフィーネさんの発想力に期待するしかないだろう。
「ところで、ハクさんはどうしてこちらに?」
「あ、それがですね……」
それはそうと、セレフィーネさんがこちらの用件を聞いてくる。
私は、バッグに入れていた一夜を取り出し、事情を説明することにした。
「呪いによって本に変えられてしまった妹さんを戻すために、知識が必要ですか。これはまた……」
「空飛ぶ魔導書など見たことがないな。だが、なるほど、これは案外面白そうだ」
実際に、一夜が飛ぶ姿を見せると、二人とも興味津々な様子で見つめていた。
二人からすると、今の一夜は、魔道具の一種と捉えられるらしい。
セレフィーネさんも、自動で追従する道具というのは一度は考えたことがあるようで、それを形にしたら、こんな風になるのではないかと少し嬉しそうだった。
厳密には、一夜は姿を本に変えられただけで、道具ではないと思うんだけど、確かにそう言う見方もできるのかもしれない。
『初めましてー、一夜と言います。私、ドワーフは初めて見るんですよ! 実際に見れて嬉しいです!』
「あら、ご丁寧にどうも。ふふ、ドワーフを見たことがないなんて、今どき珍しいですね。いったい今までどこに住んでいたのかしら?」
「それは色々あるんですよ……」
流石に、異世界からやってきましたと言うことを説明するわけにもいかないので、一夜には適当なタイミングで口をつぐんでもらう。
一夜を元に戻すには、知識でページを埋める必要があると説明すると、二人ともここに来た理由を察したようだ。
「つまり、私の魔道具の知識を書いてほしいと?」
「はい。どうでしょうか?」
「うーん、どうしましょう、兄様?」
「すでに世に出ている魔道具についてなら構わんだろう。だが、タダでというのもな」
「対価が必要なら、相応の料金を払うつもりではあります」
「金など要らん。それよりも、ヒヨナとやらの体を調べさせてもらえないか? 非常に興味がある」
そう言って、じろりと一夜の方を見るエルバートさん。
知識を書き込んでもらう以上、対価は必要になるとは思っていたけど、まさかそんな要求をされるとは。
私は、ちらりと一夜の方を見る。一夜は、特に問題ないと言わんばかりに、エルバートさんの下へ近づいていった。
『好きなだけ調べてくれていいですよ。ただし、破ったりしないでくださいね?』
「ふっ、話が分かる奴は嫌いではない。よし、契約成立だ」
結局、その条件を飲むことになった。
確かに、一夜の体については私でもよくわかっていないし、専門家が調べることによって、何かしらわかるかもしれないというのなら、調べてもらう価値はあるのかもしれないけど、何となく不安だ。
特に、二人は魔道具に関しては目がないし、調べると言って年単位で借りられたら堪ったものではない。
そこらへんは、セレフィーネさんにしっかり釘を刺しておかなくては。セレフィーネさんさえ押さえれば、エルバートさんは勝手に言うことを聞いてくれるはずだし。
「よし、一度屋敷に戻るぞ」
「魔導船についてはどうします?」
「そんなものは後回しだ。魔導船はいつでも取り掛かれるが、この本は今しか見れないだろうしな」
「ふふ、そうですね。少し席を外すと言っておきます」
慌ただしくドックを去っていくエルバートさんを、セレフィーネさんが優しく微笑みながら追う。
私達も、その後を追うことにした。
そうして、屋敷へと戻ってくる。
出迎えてくれるメイドさん達には目もくれず、エルバートさんはずかずかと進んでいき、やがてとある部屋へと辿り着いた。
どうやら、工房のようで、様々な機材が置いてあるようだ。
エルバートさん自身は、魔道具を作るよりも、使う方が得意だと認識しているけど、この様子を見る限り、実際に作ることもあるんだろうか?
確かに、魔石とかたくさん持って行ったし、発明だけして作らないってことはないか。
「さて、まずはこっちへ来い。調べるから」
『はーい』
エルバートさんは、眼鏡のようなものを取り出しながら、椅子に座る。
セレフィーネさんも、それを見てどこからか機材を持ってきているし、本格的に調べるようだ。
果たして、何か秘密が隠されているのか、私も少し気になる。
一夜に乱暴されないことだけを心配しながら、その様子を見守るのだった。
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