第六百八十八話:その手の専門家
翌日。私は、お兄ちゃん達に頼んで、冒険の活躍を書いてもらうことにした。
まあ、一夜に書かれている知識は、冒険譚よりも、どちらかというと図鑑に近く、魔物の種類なんかを書く方が適しているのかもしれないけど、私も魔法理論で埋めたし、今更だろう。
別に、ちゃんとした知識であるなら、その埋め方はなんでも問題ないわけだし、冒険譚でも、十分すぎるものだと思う。
ただ一つ問題があるとすれば、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、文字を書くのはそこまで得意ではなかったということだろう。
「うーん、うまくまとめるのが難しいな」
「全部箇条書きになっちゃうわね」
別に、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、文字が書けないというわけではない。
冒険者の中には、文字が書けない人もたくさんいるし、そう言う意味では、二人とも優秀と言えるだろう。
ただ、要点をまとめるというか、読み手に伝わりやすいように書くというのが苦手らしく、ただ事実を書き連ねているだけの内容になっているということだ。
別に、これでも最低限の情報は読み取れるし、知識としては成立しそうではあるけど、一夜としても、やはり本である以上は、読んでくれる人にわかりやすい内容を望んでいるようだ。
やっぱり本に精神が寄っているような気がしないでもないけど、おかげでお兄ちゃん達の知識は、ほとんどページ埋めには役に立たなかった。
「すまん、ハク、ヒヨナ、役に立てそうにない」
「ごめんね?」
「ううん、手伝ってくれただけでも嬉しいよ」
さて、これからどうしようか。
知識として成立するものは、世の中にはごまんとあるだろう。
料理のレシピや魔物の種類、薬に使える薬草や魔石の性質など、書こうと思えばいくらでも書くものがあると思う。
ただ、いざ書こうと思うと、案外それらのことについて知らないんだなと思い至る。
例えば、私は魔石の変換が得意だけど、魔石の性質を詳しく理解しているわけじゃない。
一応、魔石の属性とか、どのように変換されるかの工程くらいは知っているけど、昨日書いた魔法理論のように、論文を書けるほどは知らないのだ。
別に、論文レベルの知識を書けと言うわけではないと思うけど、一夜の知識とするからには、やはりまともなものにしてあげたいという気持ちもある。
書いたことをすべて理解できるということは、逆に言えば、書いたことが間違っていても、それを本当のことだと思ってしまうってことだ。
元に戻った後も、その知識が残り続けるのだとしたら、後から正すのは難しそうだし、あまりに不正確な情報は、後々一夜を苦しめる可能性がある。
だから、書くとしたら正確に書かなければならないのだ。
「とはいえ、全部一から調べるのは時間がかかりすぎるよね……」
私が知らないことはないと言えるくらいの知識を誇っているのは、魔法に関することくらい。その他に関しては、知ってはいるけど、それは一般的な知識に留まる。
調べようと思えば調べることはできるかもしれないけど、いちいち論文レベルまで仕上げていては、時間もかかるし、それでは早く一夜を元に戻すという目標が遠のくことになる。
「それなら、詳しい人に話を聞けばいいんじゃない?」
「詳しい人か、確かに、一から調べるよりはましかもね」
自分が知らないのなら、その分野の専門家に話を聞けばいい。
至極単純な話だけど、思い至らなかったな。
その分野の専門家、となると、誰がいいだろうか?
魔法に関することなら、以前学会発表で訪れたロードレスがいいかなと思うけど、魔法に関しては私の今の知識でもどうにでもなると思うし、それ以外がいい。
ぱっと思いつくのだと……。
「……セレフィーネさんかな?」
セレフィーネさんは、ドワーフの国であるゴーフェン帝国の魔道具の発明家である。
その天才ぶりは、以前魔導船を作った際にいかんなく発揮されているし、魔道具の発明に置いて、右に出る者はいないだろう。
その兄であるエルバートさんも、魔道具の扱いに関してはトップクラスだし、専門家と言って差し支えない。
まず話を聞く相手としては、十分すぎるだろう。
『ドワーフの国? 本物のドワーフが見れる?』
「まあ、そう言うことになるのかな」
『やったー! 実は見て見たかったんだよね!』
そういえば、一夜はドワーフを見たことはなかったんだっけ?
まあ、もしかしたら、王都に住むドワーフくらいは見たことあるかもしれないけど、ちゃんとドワーフだって教えたことはないかもしれない。
一夜の知らない知識という意味では、ドワーフがいる国というだけでも、いい刺激になるかもしれないね。
「じゃあ、さっそく行ってくるよ」
「護衛はいらないか?」
「大丈夫。そんなに長居する気はないし」
ゴーフェン帝国までは、転移で簡単に行けるし、ゴーフェン帝国自体も、かなり治安はいい方なので、護衛はいらないだろう。
そもそも、エルがいれば事足りるしね。
お兄ちゃん達には悪いけど、ここはお留守番していてもらおう。
一夜とエルを伴って、転移で飛ぶ。
ゴーフェンに来たのはいつぶりだろうか。相変わらず、鉄の焼ける匂いがする。
せっかくなら皇帝にも挨拶をした方がいいかなと思ったけど、今回は私的な用事だし、別にいいか。
そう思って、セレフィーネさんの別荘に向かう。
しかし、どうやら留守のようで、扉を叩いたら、メイドさんが出てきて、今はドックの方に顔を出しているだろうと話していた。
ドック、となると、魔導船関連か。
空飛ぶ船という、夢のような設計物。
このファンタジー世界でも、空飛ぶ船というものはなく、おとぎ話の中でしか見られないものだった。
それを、どうにか魔導船という形にできたのは、セレフィーネさんがいたからこそである。
オルフェス王国も、未だに支援を続けているし、計画は順調に進んでいそうだ。
すでに飛行可能な状態まで持って行っているし、後は改良を重ねるだけだろうしね。
どんなものになっているのか、少し見てみたい気もする。
『魔導船って、空飛ぶ船ってこと?』
「そうだよ。私も、ちょっと協力したことがある」
『相変わらず凄いところに首を突っ込んでるね。ファンタジー世界の空飛ぶ船とか、絶対かっこいいじゃん!』
一夜も、魔導船には興味津々な様子だった。
魔導船に関しての知識も書き込むべきだろうか? いや、あれは確かにすでに一般公開されたとはいえ、まだ秘匿されている部分も多いし、流石にだめか。
ウキウキとした様子の一夜を隠密魔法で隠しつつ、ドックへと向かう。
さて、元気にしているだろうか?




