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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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幕間:生命の神秘

 豊穣の神様、グラスの視点です。

 出産というのは、人の数少ない興味深い現象である。

 今まで、幾人もの人々を見て来たけれど、そのほとんどは、取るに足らないものだった。

 近づけば、私の乳を飲んで勝手に眷属化し、信者となって、小さな子と化す。

 本来、私の乳にそんな効能はないはずだけど、人にとっては、そう言う風に作用してしまうんだろう。

 別に、眷属が欲しいわけではないし、信仰も別にいらないけど、嫌われているよりは、好かれている方がいいのは事実。

 だから、多少愛でるくらいはするけれど、それだけの存在だった。

 しかし、遠目で見てみると、人は子を産むという面白い現象を引き起こすことがある。

 私にとって、子供とは眷属のことであり、眷属は勝手に増えるものだから、あれだけのリスクを払ってでも子を産むというのは、あまり理解できなかった。

 しかし、見ていると、母親の子を見る目線や、泣きじゃくる子供の姿は、なんとなく、愛おしいものだと思うようになった。

 どうしてこんな風に感じてしまうのかはわからないけど、その一点を持っては、人に興味があると言っても過言ではない。


『ホウンちゃんも、こんな気持ちだったのかしらね』


 私は、昔から人に興味を持っている友達のことを思い出す。

 私達が生きる上で、人の存在はそこまで重要ではない。

 いや、多くの神にとって、信仰は大事だし、あれば便利というのは確かかもしれないけど、別になくてもどうにでもなる。

 必要ならば、眷属を生み出し、それに信仰させることでもいいわけだしね。

 しかし、ホウンちゃんは、そんな人に興味を持ち、人の文化に触れ、人を理解しようとしていた。

 私は、そんなホウンちゃんを不思議な目で見ていたけど、恐らく、こういう気持ちだったのだろう。

 人は何をしでかすかわからない。

 同じ発狂するでも、奇声を上げて暴れ散らしたり、気絶してしまったり、時には自ら命を絶ったりする。

 そう言った反応を楽しむ神も一定数おり、今回私を誘ってきたクイーンも、同じ気持ちだったのだろう。

 確かに、人は面白いものかもしれない。


『今までは、遠目から確認するしかできなかったけど、まさか目の前で拝めるなんて思わなかったわ』


 私の性質上、近づけば人々は眷属化してしまう可能性が高く、私の興味を満たすには、遠目で確認するしかなかった。

 しかし今回、それを間近で見る機会が訪れた。

 事の発端は、クイーンからの相談である。

 どうやら、クイーンはこの世界で、とある少女に目をつけたらしく、その少女の成長を楽しみにしていたらしい。

 クイーンがこういうことを言うのはいつものことで、特に注目している人間が、どんな最期を遂げるのかを見るのが趣味と言っていい。

 ただ、今回はかなり特別なようで、色々な要素が混ざっているようだった。

 その少女、ハクは、人間でありながら、精霊であり、竜であり、神でもあるのだという。

 初めて聞いた時は、頭にはてなが浮かんだけど、それだけ属性が多いのなら、クイーンの目に触れてもおかしくはない。

 クイーンは、そんなハクと戦って、できれば負けてほしいと言ってきた。

 最近、ハクの成長があまり進んでいないらしく、このままでは、我慢できそうにないから、手っ取り早く試練を用意して、強くなってもらいたいと考えたらしい。

 まあ、いくら属性が過多とはいえ、ただの人間がクイーンに勝つなんて夢のまた夢でしょうしね。

 裏ボスの前のラスボスのように立ちはだかり、ハクの成長を手助けして欲しいとのことだった。

 私も、そこまで注目しているならと興味が沸いたし、どうなることやらと思っていたけど、実際に戦ってみたら、不思議なことが起こった。

 私の乳を飲んだハクは、その力を自らの力に変換し、子供という形で外へと放出した。

 そう、目の前で出産を始めたのである。

 私は舞い上がりそうになった。

 なにせ、今までは遠くでしか見られなかったものを、間近で見られるのだから。

 元々、殺す気はなかったとはいえ、ラスボスらしく振舞うことも忘れ、私はハクの出産に立ち会った。

 生まれたのは人間ではなく竜だったけど、生命の神秘というのは、格も美しいものかと感動したものだ。


『ふふ、今はどうしているかしらね』


 結局、出産直後の子連れを攻撃するわけにもいかず、なし崩し的に戦闘は終わり、クイーンも説得して事なきを得たけれど、私はすっかりハクの虜になってしまった。

 こんなに面白い子は今まで見たことがない。絶対に、また面白いことをやらかしてくれるはず。

 私は、ハクのことをしばらく観察することに決めた。

 と言っても、ただ観察するだけでは面白くない。遠目で観察するだけだったら、今までにも何度かやって来たけれど、目の前で見たあの感動は、やはり生で見ることでしか味わうことができない。

 となれば、できる限り近くに身を置く必要がある。

 しかし、近くに行けば、私の乳によって周囲は眷属化してしまい、ハクが迷惑することになる。

 ハクの目的は、私達をこの世界から追い出すことらしいし、それでは私に対する風当たりも強いだろう。

 どうにか眷属化させずに近づくことはできないだろうか。


『こういうことは、ホウンちゃんが詳しいかしらね』


 ホウンちゃんは、人に対してとても興味を示していた。

 今までも、数多くのエピソードを聞かせてくれたし、その中には、近くにいなければ到底わからないようなことも含まれていた。

 元々、人の姿になることには慣れているようだし、力を抑える方法も知っているかもしれない。

 どうせ、後でお茶会をする予定だったし、クイーンも、いつでも来ていいと言っていたと言っていた。

 なら、今こそ行くべきだろう。


「なるほど、それでこうしてきたと」


『ええ。迷惑だったかしら?』


「迷惑なわけないじゃないか。いつでも歓迎するよ、グラス」


 そうして、ホウンちゃんの下に行くと、そう言って歓迎してくれた。

 私も、一応小さな姿になることはできる。だから、小屋の中に入ることは容易だ。

 ただ、力を抑えるのが難しくて、なかなか人の営みを見る機会がないと言うだけで。

 この問題を、ホウンちゃんは解決できるだろうか?


「人は繊細な生き物だからね。力を制御して、極限まで抑えない限りは、新鮮な反応は見込めないよ」


『力を抑えるって、どうやればいいのかしら?』


「なに、簡単なことさ。よければ、あたしが呪文をかけてあげようか?」


『え、いいの? やってやって!』


「わかった。それにしても、グラスが人間に興味を持つなんて、珍しいこともあるもんだね」


『わかってるでしょ。ハクは特別なのよ』


「あたしはハクの方はよく知らないんだが、まあ、ヒヨナの兄だというなら、わかる気もする」


 そうして、ホウンちゃんは私に力を抑える呪文をかけてくれた。

 なるほど、これなら眷属化もしないだろうか?

 後は、どのようにして潜り込むかである。

 私は、これからのことを楽しみにしながら、考えを巡らせた。

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