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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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幕間:攫われた先で3

「ま、ずっとこの場所にいても私からの知識しか増えないだろうから、まずはあんたを別の場所に送る必要があるね」


『別の場所?』


「そう。過去から未来、異世界の様々場所にあんたを送る。そうして、その場所の人々の手に渡り、その知識を書き込んでもらう。それを続けて、知識を蓄えていくんだ」


 ホウンさんの手にかかれば、物理的に遠くに送ることのみならず、過去や未来といった、時間を超えて送ることも可能らしい。

 なんてめちゃくちゃなと思うけど、時間や空間に干渉できる神様に知り合いがいるらしく、そこから魔術を研究し、編み出したようだった。

 別に、そんなことをしなくても、ここにある本をすべて読むだけでもかなりの知識を得られそうな気がするんだけど、中には危険な本も混ざっているらしく、迂闊に読むのは推奨されないらしい。

 それに何より、ホウンさんもいつまでも私にかかずらっているわけにはいかないようだ。

 暇人と言って置いて、忙しいとはどいうことなんだろうね。

 そう言うわけで、私はどことも知れぬ異世界に飛ばされてしまうらしい。


『ちゃんと帰ってこられるんですか……?』


「大丈夫。あたしが手元に戻ってくるように念じれば、すぐに戻ってこれる。夫も、そんな長い間監禁しているつもりはないだろうし、大して時間はかからないさ」


 それってつまり、自力では戻ってこれないってことだよね。

 単純に、場所を移動させられるだけなら、ワンチャン自力で飛んで戻ってくるということもできたかもしれないけど、時間を超えるとなると、完全に戻るのは不可能だ。

 でも、ハク兄だって、そう長い間手をこまねいているわけでもないと思うし、今も私のことは探してくれているはず。

 クイーンがハク兄に何をさせる気かは知らないけど、ある程度の結果が得られれば、帰ってこられる可能性は高いだろう。

 どのみち、私に拒否権はない。

 仮に、ここから逃げ出したとして、ハク兄の下に帰れる保証はないし、そもそも、ここがハク兄のいる世界かどうかすらわからないわけだしね。

 細い糸でも、ないよりはましである。

 せいぜい、早めに知識でいっぱいになるように立ちまわるくらいしかないだろう。


「さて、それじゃあしばらくの間お別れだ。頑張っておいで」


 その言葉と共に、目の前が真っ白になる。

 そして、気が付いた時には、全く見知らぬ場所にいた。

 暗く、狭い石造りの部屋のようである。

 とても本がありそうな場所には見えないけど、こんなところで知識が得られるんだろうか?


『大丈夫かなぁ……』


 ちゃんと元の世界に戻れるのかという不安もあるけど、ハク兄が無事かという心配もある。

 クイーンは約束してくれたとはいえ、かなり曖昧な約束だったし、下手したら殺されてもおかしくはない。

 人の心配している場合ではないとわかっていても、やっぱりそれが一番気になる。

 せめて、ハク兄を安心させるためにも、早いところ人の姿に戻らねば。

 私は、とにかく人のいるところに行こうと、ページを広げて空に飛び立つのだった。


 それから、かなりの時間が経過した。

 どうやら、私はある程度知識が書き込まれると、また別の場所に移動する仕組みになっているらしい。

 まあ、一か所にずっと留まっていたら、知識の蓄積も遅いだろうから、それはありがたい。

 出会った人々からは、様々な反応をされた。

 空飛ぶ本だと驚かれたことは数知れず、時には魔物扱いされて攻撃されたり、時には聖なる書だと崇められたり、本当にいろんな出来事があった。

 呼び名も、叡智の書やら太陽の書やら、様々な呼び名をされ、その知識は、人々を助けもしたし、傷つけもした。

 途中から、一体どれくらいの時間が経ったのかすら忘れてしまったけど、少なくとも、数十年くらいは経ってしまったんじゃないだろうか?

 一か所に留まる時間も、平気で一年以上を超える時があったし、どう考えても、ちょっと監禁するだけという年月ではない気がする。

 もしかしたら、クイーンは私のことを忘れてしまったのかもしれない。

 このまま元の世界に戻れず、ただありがたがられる本として人々に使われるだけになるのではないか。

 そう考えると怖かったけど、ハク兄なら、きっと助けに来てくれると、じっと耐えた。

 そうして、時の流れをじっくりと体験しながら待つことしばし、ようやく転機がやってきた。

 気が付くと、別の場所にいるというのはいつものことだったが、そこは、見覚えのある場所だった。

 そう、最初にホウンさんと出会った、あの小屋である。

 懐かしい雰囲気に、私は思わずため息をついた。


「お帰り。知識の旅はどうだった?」


『ホウンさん、全然変わりませんね』


「そりゃあたしは神だもの。外見は変わらないさ」


 ホウンさんは、成果を確認したいとばかりに、私のページを開く。

 この数十年で、私のページもだいぶ埋まっては来たが、元が分厚いこともあって、すべては埋まっていない。

 それでも、かなり埋まっているのは確かだから、知識はだいぶ増えた。

 確かに、これなら異世界について誰よりも知っている人間になれるのも頷ける。

 まあ、本当に人間に戻れればの話だが。


「全部は埋まってないか。でも、もう時間切れだ。夫から、返せと連絡が来たからね」


『私、もう戻れないんですか?』


「いいや? 最初に言った通り、そのページがすべて埋まれば、人間に戻れる。残りを誰かが埋めてくれたら、ちゃんと戻れるさ」


『それなら、よかったです』


 まあ、最悪元に戻れなくても、ハク兄に会えるならもうどうでもいい。

 クイーンがうっかり殺していなければいいけれど、ハク兄ならきっと大丈夫のはず。


「短い間だったけど、あんたの話は楽しかった。また機会があれば、話を聞かせておくれ」


『ハク兄を助けてくれるなら、喜んで聞かせてあげますよ』


「おや、条件を付けてくるとは、少しは大人になったかな? まあ、考えておこう」


 そう言って、ホウンさんは私を手に取り、別れを告げる。

 次の瞬間には、私はクイーンの手に握られていた。

 どうやら、戻ってこれたらしい。

 目の前には、なにやら神々しいドラゴンがいる。もしかして、あれがハク兄なんだろうか?

 これまでの経験で、魔力の読み方というか、気配の察し方もだいぶわかるようになってきた。

 ようやく、ようやく会えた。

 私は、はやる気持ちを抑えながら、ハク兄の手に渡る。

 もう二度と、離れたくない。

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そんなに精神と時の部屋レベルの時間がたってたんかい
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