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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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第六百八十四話:子竜の名付け

『ハク兄、大丈夫だよ。この体もそう悪いものじゃないから』


一夜ひよな、でも……〉


『私は、こうしてまたハク兄と会えたこと、ハク兄が無事なことが、何より嬉しいんだよ』


 意外にも、一夜ひよなは冷静だった。

 人間とはかけ離れた姿になって、絶望しているだろうと思っていたのに、むしろこの姿を楽しんでいるかのような余裕がある。

 攫われている間に、慣れてしまったんだろうか?

 確かに、一夜ひよなが攫われてから、それなりに時間が経ってしまったし、すでに絶望するフェイズは終えてしまったのかもしれない。

 それはそれで、一夜ひよなの苦しみを分かち合えなかったことに悲しみを覚えるけど、でも、発狂しているよりはましなのかもしれない。

 少なくとも、一夜ひよな一夜ひよなである事実は変わらないし、精神崩壊して廃人になったとかよりは全然いい。

 だからと言って、クイーンを許せるかと言ったらそんなことはないけど。


「しばらく時間を上げる。グラスちゃんの力も取り込んだのなら、少しは歯ごたえのある戦闘もできるようになっているでしょう。私と直接戦うことになるその時まで、ちゃんと鍛えて強くなってね」


 そう言い残し、クイーンは姿を消した。

 神剣の一振りでもしてやろうかと思ったけど、恐らく意にも介さないだろうし、逃げられたのは仕方ない。

 残されたグラスは、少し呆れたようにため息をつき、そうしてこちらに話しかけてきた。


『クイーンは相変わらずね。でも、これで約束は果たしたわよ?』


〈まあ、そうですね。こんな姿でなければ完璧だったんですけどね〉


『それは私に言われても困るわ。なんにせよ、今後はしばらくあなたのことを観察させてもらうわね。面白いことになるのを期待しているわ』


 そう言って、グラスは闇に溶けるように黒くなっていき、やがて姿を消した。

 クイーンといい、グラスといい、神様は瞬間移動がデフォルトなんだろうか?

 まあ、私も転移魔法があるから、同じようなことはできるけども。

 敵がいなくなり、静寂が訪れる。

 結果だけを見るなら、グラスを追い払い、一夜ひよなを取り返せたという文句ない結果だけど、状況が状況だけに、素直に喜べない。

 とりあえず、後始末をしなければ。


一夜ひよな、後で話を聞かせてもらうからね〉


『うん、話したいことたくさんあるよ』


 一夜ひよなは自力で飛べるようなので、ひとまずエル達と合流することにする。

 グラスとの戦闘は、遠目からしっかり見ていたようだけど、私が出産を始めた時は、目を疑っていたようだ。

 この子竜に関しても、どうにかしないといけないよね……。

 地形の問題や、ソフィーさんへの説明など、やることは山積みだし、これから少し忙しくなるかもしれない。


「ハク、ひとまずお疲れ様」


「神同士の戦いって言うのは、迫力があるもんだな。あれは俺達じゃ太刀打ちできない」


 とりあえず、元の姿へと戻り、エルの背に乗る。

 しばらく竜神モードでいたせいか、少しふわふわした感覚があるけど、体に異常はないと思う。

 念のため、【鑑定】でも調べてみたけど、特に何もなかったしね。

 まあ、子竜に関する称号が少し増えていたのが少し気になるけど。

 竜の親ってみんな称号持ってるの? そんなの聞いたことないけど。


「その子、どうするの?」


「うーん……」


 元の姿に戻っても、子竜は消えずに残ったままだ。

 力の一端とは言っても、一度外に出したからなのか、姿が形成されており、維持もできるようである。

 まあ、いざとなれば、隠密魔法で隠せるからいいけれど、子供とはいえ、竜を連れ歩くとなったら、ちょっと問題になりそうだ。


〈ママ―?〉


「ふふ、子供なんて見込めないと思ってたけど、一応私達の子になるのかな?」


「ちょっと違う気もするけど……」


 ユーリは、子竜のことを撫でながら、そんなことを言っている。

 確かに、私は精霊だから子供は産めないはずだったし、ユーリも半分精霊になったから同じだったんだけど、今回のイレギュラーで、意図せず子供ができてしまったわけだからね。

 直接交わったわけではないとはいえ、一応私達の子供ということになるのか?

 なんだかんだ、子竜もユーリの気を許しているみたいだし、親に近い存在とは思ってそう。


『ハク兄の子供? ついにそこまで来たんだね……』


「いや、あれは想定外だから! 私が望んだわけじゃないから!」


 一夜ひよなも生暖かい目でこちらを見ているような気がするし、踏んだり蹴ったりである。


「あ、そうだ。名前を付けないとね」


「名前……まあ、必要ではあるのかな」


 確かに、いつまでも子竜と呼ぶわけにはいかないし、名前を付ける必要がある。

 名付けは苦手なんだけどなぁ……。

 ひとまず、姿から考えてみる。

 子竜の姿は、白銀の鱗が美しい竜の姿だ。

 瞳の色も、翼膜や尻尾の形も、私にとことん近くなっているような気がする。

 このまま大きくしたら、私の竜姿と同じ感じになるだろう。

 そうなってくると、やはり銀にちなんだ名前がいいだろうか。


「銀……シルバとか?」


「私はいいと思うよ」


「投げやりなのやめて……」


 ユーリも、何ならお兄ちゃんやお姉ちゃん、一夜ひよなに至るまで、うんうんと適当に頷いていた。

 肯定してくれるのは嬉しいけど、本当にそれでいいのか? 安直すぎないか?


「き、君はどう思う?」


『シルバ! シルバ!』


「気に入ってるみたいだよ?」


「いいのかなぁ……」


 まあ、本人が気に入っているならそれでいいけど、なんか釈然としない。

 でも、どうせ私のネーミングセンスじゃ、まともな名前は付けられないだろうし、ユーリも私に丸投げな以上は、これで納得するしかないか。

 別に、そこまで悪い名前というわけではないと思うしね、うん。

 ということで、子竜の名前はシルバに決まった。


「これからよろしくね、シルバ」


『よろしく!』


 子竜の誕生、グラスの注目、そして、一夜ひよなの本化。

 色々なことが起こりすぎて目が回りそうだけど、ひとまず、一段落はついたはずだ。

 課題も見えたし、今後、クイーンと戦うこともあるなら、それに向けての準備もしないといけないし、時間も貰ったから、まずはそこらへんに手を付けるべきだと思う。

 私は、これからやるべきことを頭に思い浮かべながら、束の間の休息を噛みしめた。

 感想ありがとうございます。


 今回で第二部第二十四章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第二十五章に続きます。

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