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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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第六百八十三話:待望の再会

〈グラス、さっきの言葉に嘘がないなら、さっそく一夜ひよなを帰すように頼んでくれませんか?〉


『ええ。と言っても、言わなくてもすでにあちらは把握していると思うけどね』


 そうでしょう? と言ってグラスはあらぬ方を見つめる。

 それにつられて、目線を向けると、そこには赤いドレスを纏った、妖艶な女性が浮かんでいた。

 さっきまで気配すら感じなかったのに、本当に神出鬼没な奴だ。


「グラスちゃん、もう飽きちゃったのかしら?」


『何を言ってるのよ。むしろとても興味が沸いたわ。流石、あなたが認めただけはあるわね、クイーン』


「ええ、そうでしょう? ハクはとっても面白い子なの。まさか、戦闘中に子供を産むなんて、考えもしなかったわ」


 クイーンは、すっと宙をすべるように移動すると、グラスの頭の上に乗る。

 この対格差なのに、クイーンは全く物怖じした様子がないし、グラスはグラスで対等のような話し方をしている。

 グラスは創造神様と並ぶレベルの神様らしいけど、それと対等って、クイーンは本当に何者なんだろうか。


「でも、ちゃんと戦ってくれないと、ハクの脅威にはふさわしくないんじゃない?」


『普通に戦ったら、どうあがいても私には勝てないでしょう。それとも、私が手加減に手加減を重ねて、それで倒された方がよかったかしら?』


「うーん、倒されてくれる方がありがたいけれど、流石に手加減しすぎも問題ね。それに、本当に倒されちゃうと、ホウンちゃんに何を言われるかわかったものじゃないし、それならこのくらいで妥協した方がいいのかしらね」


 今のグラスは、レーザーによって体中が焼け焦げているし、記憶はないけど、やたら滅多ら振り回した神剣によって、結構なダメージを受けているように見える。

 それでも、私ではどうあがいても勝てないと断言する当たり、かなり手加減していたのは間違いないようだ。

 あれだけ異世界の神様の力を取り込んで、あれだけ修業したにもかかわらず、これだけ余裕を見せられると、変な笑いが出てくる。

 私は、本当にクイーン達を追い出すことができるんだろうか。


「まあ、今回はいいでしょう。面白いものも見せてもらったし、それでチャラってことにしてあげるわ」


『ありがとう。ああ、そうそう、今度ホウンちゃんのところに遊びに行きたいから、予定を聞いておいてくれる?』


「ええ、もちろん。ホウンちゃんも喜ぶことでしょう」


 こんな状況でなければ、友達同士の軽い会話のように聞こえるけど、私としては気が抜けない。

 なにせ、ここで一夜ひよなが帰ってくるかどうかが決まるのだから。


『待ちきれないようだから言うけれど、ヒヨナちゃん? は今どこにいるのかしら?』


「ああ、ヒヨナちゃんなら、ホウンちゃんに任せているわ。きっと、色々なことを教えてくれているでしょう」


〈早く帰してください!〉


「そんなに焦らないで。今呼んであげるから」


 そう言って、クイーンは空に向かって手を伸ばす。

 すると、一瞬手の先が光り輝き、次の瞬間には、その手には一冊の本が握られていた。

 図鑑のような厚さがある、重厚な本。

 片手で持つには少し重そうだけど、あれを使って呼ぶんだろうか?


「はい、どうぞ」


〈……なんのつもりですか?〉


「ヒヨナちゃんに会いたかったのでしょう? だから、返してあげると言ってるの」


 こいつは一体何を言っているんだろうか。

 確かに、一夜ひよなを帰してほしい気持ちはあるけど、だからと言って、こんな本が欲しいわけじゃない。

 それとも、この本に載っている呪文か何かを唱えれば、帰ってくるということなんだろうか?

 クイーンの意図は読めないけど、ひとまず受け取って見ることにする。

 黒く、少しざらざらとした感触の本。表紙には何も書かれておらず、どんな本なのかはわからないけど、異質な魔力を感じるし、魔導書の類かもしれない。

 恐る恐る、ページをめくってみると、次の瞬間、予想外のことが起きた。


『ハク兄?』


〈えっ、一夜ひよな?〉


 不意に聞こえた、一夜ひよなの声。

 とっさに辺りを見回してみるけど、その姿はどこにもない。

 探知魔法で見てみても、特にそれらしい反応はないし、姿を消しているというわけでもないだろう。

 では、この声は一体どこから?


『ハク兄だよね? ちょっといびつになってるけど、この感触、間違いない』


一夜ひよな、どこにいるの!?〉


 声はすれども姿は見えず。

 一夜ひよなの声を聞けたという安心感はあるにしろ、姿見えないのであれば、完全に安心することはできない。

 私は必死に一夜ひよなの姿を探した。


『ここだよ。ほら』


〈わっ……!〉


 その瞬間、手にした本が浮かび上がる。

 本のページを開き、それを翼のようにパタパタとさせながら宙に浮かぶそれは、ポルターガイストのような不気味さがあった。

 一夜ひよなの声、そして、動き出した本。

 もしかして、そういうことなのか?


〈……一夜ひよななの?〉


『うん。会いたかったよ、ハク兄』


 声は本から聞こえる。

 間違いない。どうやら一夜ひよなは、本の姿にされてしまっているようだった。


「感動の再会と言ったところかしら? 無事に会えてよかったわね」


〈無事なものですか! なんですかこれは!?〉


 状況を理解した途端、クイーンに対して怒りが沸いてきた。

 勝手に試練を用意して、勝手に一夜ひよなを攫って、ようやく取り返せたと思ったら、その姿は本になっていましたって? 馬鹿にするのもいい加減にして欲しい。

 一体どういう過程でこんな姿になったのかは知らないけど、明らかに異常な姿だし、攫った先で、何かあったのは間違いないだろう。

 先程の話に出ていた、ホウンちゃんとやらが何かした線が濃厚か?

 どちらにしても、クイーンの勝手な行動で、一夜ひよなはこんな姿にされた。

 これで黙っていられようはずがない。

 私の怒りに呼応してか、子竜がクイーンに向かって睨みを利かせている。

 迫力はないけど、私の感情の万分の一でもぶつけられるなら、それに越したことはなかった。


「ちゃんと無事でしょう? 別に洗脳したりはしていないし、体もちゃんとある。まあ、ちょっと変わってしまってはいるけど、そう大差はないでしょう?」


一夜ひよなは人間です! こんな姿で納得できるわけがないでしょう!〉


「それなら、戻してあげればいいじゃない。より一層神に近づいたその体なら、できるんじゃない?」


〈戻せって言ったって……〉


 一応、変身魔法などで、一時的に元の姿に戻すことはできるだろう。

 しかし、それには魔力が必要であり、それを使い切ってしまえば、また戻ってしまう。

 ぱっと思いつく限りでは、【擬人化】のスキルを使えば、消費もなく人間の姿を維持できそうではあるけど、その姿だって、完全に元の姿とは言い難い。

 というか、魔法などに頼ってしまう時点で、一夜ひよなはもう普通の生活には戻れない。

 普通の人間としての一夜ひよなは、死んでしまったと言っても過言ではない状況であり、私はそれが許せないのだ。

 いくら、呪文を教えてもらったり、魔法が使えたり、神様と交流を持とうとも、人間であることが、一夜ひよなを守る最後の砦だったのに……。

 私は、怒りと無力感を感じながら、宙に浮かぶ本を見た。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ここまでずっと読んできて、この話を読んで本当に悲しくてすごく腹が立った。妹ちゃん、本当にやりすぎだと思う。 お兄ちゃんが全部を懸けて頑張ったのに、妹は本にされてしまって、今回お兄ちゃんが彼女のために…
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