第六百七十八話:本気の一撃
〈はあっ!〉
まず、私は弱点を探すことにした。
相手は山のように巨大であり、一見して眷属の瘤のような弱点は見当たらない。
木が本体というのなら、いくつかあるけど、どれも巨大すぎて、どれが本体なのかもわからない。
だからまずは、とにかく攻撃して見て、弱点を探す。
そう思って、接近攻撃を仕掛けることにした。
『それがあなたの剣? いいわね、小さな体で大きな武器を振るうのは、背伸びをしているようで好きよ』
グラスは、なおも殺気を感じさせずに触手で攻撃を仕掛けてくる。
殺気を感じないってことは、殺す気はないんだろうか?
でも、先ほどの威力を考えると、普通の人間が食らったら一瞬で粉みじんである。
遊んでいるって言う方が正しいだろうか。
舐められているようでちょっと癪だけど、今はその方が都合がいい。
〈攻撃が重い……!〉
触手の密度は眷属の比ではなく、避けるのも難しい。
一応、そこまで硬くはないのか、神剣であれば切り裂くことは可能みたいだけど、すぐに再生するものだから、全然前に進めない。
闇雲に接近攻撃を仕掛けるのは難しそうだ。
〈だったら、魔法なら!〉
私はとっさに飛びあがり、炎の柱を出現させる。
本来、範囲魔法は、大量の敵を相手に使用するものだけど、今回は相手が巨大すぎるため、そのすべてがヒットする。
恐らく、収束系魔法を使うよりも、こちらの方がまんべんなくダメージが入るだろう。
そのどれか一つでも、弱点に当たってくれたら、多少は意味があると言える。
『火は嫌いよ。火は破壊の権化。人が利用しようだなんておこがましいもの。あなたに、それを使う資格はあるかしら?』
〈何を意味の分からないことを!〉
『ふふ、わからなくてもいいわ。破壊と創造は表裏一体。それを理解してこそ、真に価値のある攻撃になる』
炎の柱を食らってなお、燃えることもなく、余裕の表情だ。
それどころか、その巨体を持ちあげて、踏みつけようとしてくる。
あんなの、食らったら一瞬でぺちゃんこだ。当然ながら、回避するけど、その風圧だけでも、バランスを崩しそうになる。
『服に着られているという言葉があるけれど、あなたはまさにそれね。その剣も、魔術も、あなたに合っていない。破壊しかできない道具を持ち、それでいて破壊を望まない心を持っている。それが攻撃に現れているわ』
〈ぐっ!〉
触手の一つが、私の翼を掠める。
一応、結界や防御魔法で守ってはいるものの、一撃一撃が重すぎて、あまり意味を成していない。
いや、致命傷を防げるだけましだけど、まともに食らったらおしまいなのに違いはないから、全然気が抜けない。
それにしても、こいつは何を言っているんだろうか。
確かに、この剣は元々別の神様が持っていたものだし、私に合っていないというのは間違いではないと思うけど、言っている意味がよくわからない。
そりゃ、破壊を楽しみたいわけではないけど、必要とあらば、破壊の力を使う覚悟がある。
それこそ、今の状況は、まさに使い時だと感じている。
合っていようが合っていまいが、それは変わらない。
それとも、私が無意識のうちに手加減してしまっているとでもいうんだろうか? だから、その攻撃は届かないと煽っているんだろうか?
だとしたら、ちょっとむかつく。
『惜しいわね。お人形に仕立て上げられて、それに気づかないだけならまだしも、役割にそぐわないことをさせられている。いっそ、狂気に身をゆだねてしまえば、楽になるのに、それを自制してしまっている。まあ、だからこそ、クイーンが気に入ったんでしょうけど』
〈時間稼ぎのつもりですか?〉
『時間稼ぎ? まあ、それもいいわね。すぐに終わってしまっては、私もクイーンも興ざめだもの。せめて、お人形らしく踊ってくれなければ面白くないわ』
さっきから、グラスの言葉は掴みどころがない。
私のことを言っているのはわかるけど、よく理解できない。
私を惑わせるために、あえて難しいことを言っているのか? それとも、神様特有の視点があるのだろうか。
いずれにしても、私はまだ、敵としてすら見られていない。
殺気を感じさせない攻撃が、その証拠だ。
いっそのこと、殺気マシマシの方が、まだ避けやすいというのに。
『その動き、多分入れ知恵したのは旧い神かしら? 人の味方をするあまり、衰退していった哀れな神。そんな軟弱者に教えられたのであれば、その太刀筋も頷けるわね』
〈ノームさん達を悪く言わないでください!〉
『あら、気に障った? それならごめんなさい。事実を言っただけなのだけど、人は時には事実を言われることが嫌な時もあるものね』
〈こいつ……〉
口調はとても大人しいけれど、いちいち神経を逆なでしてくる。
別に、私もあえてそれに乗るつもりはないけど、全力で戦っている以上、他にかまけていられないから、いつもよりは影響を受けやすい。
ノームさん達は、私が人を傷つけないように、色々と便宜を図ってくれた神様だ。
それを悪く言われることは、いい気はしない。
でも、だからこそ冷静にならなければならない。相手のペースに乗せられるな。
『こりゃ完全に遊ばれてるね。できうる限りのパワーアップはしてきたつもりだけど、ちょっと甘かったかな?』
〈リク、ちょっと黙っててください〉
『ああ、ごめんごめん、そんな余裕もないか。まあ、一つアドバイスをするなら、周りのこととか考えずに、全力で攻撃することだね。今のハクは、手加減が抜けてない』
〈全力で攻撃してるつもりなんですけどね……〉
相手は巨大だし、流れ弾の心配もそんなにしているつもりはないのだけど、それでも手加減しているように見えるのは、エル達がいるからだろうか。
いくらルーシーさんが守っているとはいえ、流れ弾が飛んでいかないとも限らない。
みんななら、大丈夫だとはわかっていても、万が一誤射するようなことがあれば、大惨事だ。
だからこそ、当てないように気を付けている。それが、手加減に繋がっている。
狂気に身をゆだねたら楽だというのは、そう言う意味もあるんだろうか?
私は、まだまだ甘いのかもしれない。
〈……ふぅ、わかりました。全力でやりますよ〉
私はさらに空高く飛びあがった。
ここなら、触手もおいそれとは近づけない。
そして、即座に魔法陣を展開し、魔法の発動に備えた。
上級魔法は、基本的に範囲魔法が多く、それ故に局所的に見ると、中級魔法よりも威力が低くなる場合もある。
もちろん、面制圧が基本なので、それで問題ないのだけど、ピンポイントで狙うなら、中級魔法の方がいい場合もある。
けれど、中級魔法では、どうあがいても威力に限界がある。
だったらどうするか。上級魔法で、ピンポイントで狙うようにすればいい。
私が収束系と名付けたこの魔法は、範囲魔法を圧縮し、一か所に放つもの。
その威力は、圧縮している分かなり上昇し、人に向けようものなら、一瞬で塵と化す程の威力になる。
まあ、大抵の場合、複重魔法陣が必要になるので、普通の人には扱えないと思うけど、今こそその威力を発揮する時だろう。
属性は火。辺り一帯が森だから、延焼の可能性もあるけど、今はそのことは考えないようにする。
なったらなったでその時だ。
まさに全力の一撃。これでも、手加減してるって言えるか?
私は、グラスとリクに返すように、極太のレーザーを放った。




