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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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第六百七十七話:豊穣の神様の降臨

 リクの情報を頼りに、皇都に向けて進むことしばし。目の前に異質な魔力を感じて、思わず肩を震わせた。

 目視で見ても、目の前には何もいない。しかし、探知魔法で見れば、明らかに異質なものが目の前にいるのだと告げている。

 私は思わず、エルに止まるように指示を出してしまった。


〈ここですか?〉


「う、うん。多分、目の前にいる」


「まじか。全然見えんが……」


「でも確かに、なんとなく空気がピリピリしてる?」


 他のみんなは、気配すら感じ取れていない様子。

 かろうじて、冒険者の勘で、空気が違うのを感じ取れたくらいか。

 なんでこんなに巧妙に隠れているのかとも思ったけど、元々この神様も天使の目をかいくぐってきたわけだし、隠れるのがうまくても何ら不思議はない。

 そもそも、クイーンが唆さなければ、自ら動くことも稀な神様みたいだし、あえて姿を晒して移動することもないのだろう。

 でも、ここにきて皇都に向かって移動しているってことは、クイーンに何か言われたってことなんだろうか。

 グラス自身に、皇都に何か用事があるとも思えないし。


「攻撃は、してこないみたいね」


「どうする、こっちから打って出るか?」


「うーん……」


 幸い、皇都からはそれなりに離れてはいる。

 私の視点だと、遠くの方に皇都は見えてしまっているけど、人の移動する距離から考えれば、まだまだ遠い距離だ。

 周りに町も見当たらないし、ここでなら、人の心配をせずに戦うことができるかもしれない。

 ただ、あちらから攻撃の意思がないのは気になる。

 この距離で、気づいていないわけはないし、私達のことを敵と思っていないんだろうか?


「……とりあえず、話しかけてみよう。みんなは、離れてて」


 もしかしたら、会話が可能かもしれないし、まずは話しかけてみてもいいだろう。

 どうせ、不意打ちしたところで、そこまでダメージは与えられないだろうしね。

 私は、竜神モードとなり、エルに離れるように伝える。

 流石に、本物の神様相手には、小手先の技術は通用しないだろうからね。

 戦うにしろそうでないにしろ、私だけで行くのがベストだ。


〈そこ行く神様、どうか話を聞いてください〉


 私は、恐らく正面であろう方向に入り込み、目いっぱい声を上げる。

 すると、探知魔法で確認できる動きが止まった。

 どうやら、こちらの声は聞こえているようである。


〈私はハク。あなたは異世界から来た神様とお見受けしますが、その目的は何でしょうか?〉


『……』


 神様は答えない。

 こちらの言葉を理解していないのか、それとも答える気がないのか。

 私は続けて言葉をかける。


〈別の世界で、信仰を集める行為は、タブーだと考えています。あなたは、そのタブーを犯している。もし何か理由があるならお聞かせください。理由がないなら、今すぐおやめください〉


『……あー』


 粘り強く声をかけていると、ようやく言葉を発した。

 それと同時に、目の前の異質な魔力が強くなる。

 目の前の空間が歪み、そこから巨大な何かが姿を現した。

 竜神モードとなって、かなりの身長を手に入れた私ですら、見上げるほど巨大な体。

 まるで山と見まがうほどに巨大なその体は、あちこちに樹木のような幹が生えており、葉のない枝を揺らしている。

 正面と思われる場所には、山羊のような顔があり、瞳のない目が、こちらを覗き込んでいた。

 そして、姿を現したからなのか、体中から溢れる黒い体液。

 それは、瞬く間に垂れていき、眼下にある森を汚していった。

 先程まで、雪をかぶりながらも、生き生きとしていた森の木々が、どす黒く染まっていく。

 その悍ましい光景に、思わず息を飲んだ。


『あー、あー、うん。これで聞こえるかしら?』


 声を整えるように、何度か言葉を発した後、聞こえてきたのは、女性の声だった。

 見るからに悍ましい化け物から聞こえる、女性の声。

 その乖離した光景に、脳がバグりそうになる。


『あなたが、クイーンが言っていたハクかしら? 確かに可愛らしい姿をしているわね』


 そう言って、じろじろとこちらを眺めてくる。

 とっさに逃げようとしたけれど、その威圧感にあまり身体が動かなかった。

 落ち着け、私も今は、創造神様の姿を借りている状態だ。

 格としては、同じくらいのはず。

 まあ、別に創造神様になったというわけではないけど、気持ちだけでも負けないようにしないと。


『自己紹介は必要かしら? 私はグラス。以前の世界では、豊穣の神として君臨させてもらっていたわ』


〈……その豊穣の神様が、なぜこの世界に来たんですか?〉


『さっきごちゃごちゃ言っていた奴ね? 私は、ホウンちゃんに頼まれて協力して上げているだけよ。たまには、異世界に行って羽を伸ばしてくるのもいいんじゃないと言ってくれたしね』


〈羽を伸ばす……〉


 ホウンちゃんというのが誰かは知らないけど、その人物からの頼みで、クイーンに協力しているようだ。

 元々、侵略者という立場だからかもしれないけど、異世界で羽を伸ばそうとか、どう考えても迷惑でしかない。

 さっさと帰って欲しいところだ。


『信仰云々に関してはよくわからないけれど、私がいるところでは、なぜかみんな眷属になってしまうから、そのことかしら? ごめんなさいね、私もその気はないのだけど、勝手に増えるものだから』


〈その自覚があるなら、さっさと帰ってくれませんか?〉


『そうねぇ。別に帰ってもいいのだけど、約束もしちゃったしね。特に、あなたのことは、個人的にも気になるし、タダで帰るって言うのも面白くないでしょうね』


 まるで友達にでも話すかのような気さくな口調。

 一瞬、もしかしたら分かり合えるのでは、と思ってしまうけれど、クイーンに協力している時点で、碌な神様ではない。

 思ったよりは話は通じそうだけど、やっぱり不意打ちした方がよかっただろうか。


〈……何が望みですか〉


『ふふ、簡単なことよ。あなたの力を見せて?』


 その瞬間、周囲で揺れていた枝のような触手が襲い掛かってきた。

 殺気も感じさせないほどの完全な不意打ち。

 私はとっさに、結界で身を守ったが、その一撃は重く、勢いよく地面に叩きつけられてしまった。


「ハク様、ご無事ですか!?」


〈だ、大丈夫です。わかっていたことですけど、やるしかないみたいですね!〉


 いつの間にかそばにいたルーシーさんが気遣ってくれるが、幸いにも、結界のおかげでダメージは少ない。

 まあ、結界越しでこれだけの勢いで叩きつけられるとは思わなかったけど、まだ戦いはこれからだ。


〈ルーシーさんは、エル達に攻撃が行かないように防御をお願いします〉


「承知しました。ご武運を」


 即座に行動を起こすルーシーさんを見送りつつ、私も空へと飛びあがる。

 さて、幸先は悪いが、話し合いができなくなった以上、戦うしかない。

 【ストレージ】から神剣を取り出し、構える。

 さて、どこまで戦えるか。

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