第六百七十四話:潜む眷属
そうして、やばいと思われる町へとやってくる。
ここ数日と同じように、教会へと入り込み、創造神様降臨の準備を進めているわけだけど、探知魔法で見る限り、確かにこの町はやばそうだ。
例の村で感じた異質な魔力が、ところどころに感じられる。
そこまで大量にいるってわけではなさそうだけど、それでも、複数体いるのは間違いないだろう。
いつからそうなっていたのかはわからないが、化け物が出た、というような報告は上がってきていないので、大人しくはしているんだと思う。
でも、私が出れば、確実にその姿を現すだろう。
「みんな、準備はいい?」
「ああ」
「いつでもいいわ」
教会で戦闘になった時に備えて、ある程度の準備はした。
先の戦闘で、私がエンチャントを施した攻撃は効いていたことから、お兄ちゃん達は攻撃の手段があるということになる。
それでも、通常の武器では、かすり傷程度しか与えられないのだけど、今回は少し工夫を凝らした。
それが、以前私が上げた、アダマンタイト製の武器を使うことである。
元々、アダマンタイトは、神金属と呼ばれる、神界にしかない素材であり、神剣などの材料となるものである。
言うなれば、神様が使う武器であり、その性質上、神力が籠っているから、ただ振るうだけでも、効果がある可能性は高い。
そうでなくても、ミスリルよりもよっぽど硬くて鋭いし、攻撃力的に見ても、こちらの方がいいだろう。
まあ、その分重くて、取り回しが悪かったり、刻印魔法が刻めなかったりと、色々弱点もあるけど、今回使う武器としては、十分すぎるものである。
本来なら、エンチャントも効きが薄いのだけど、少しごり押しして、表面に結界を薄く張り、それに纏わせることによって、無理矢理エンチャント魔法を施した。
リクから、火の他にも電気が弱点だという情報があったから、それを中心にね。
これなら、多少なりともダメージは通るはず。
「それじゃあ、行くよ」
祈りの時間、人々が集まってきたのを見計らって、創造神様の姿を現す。
今までの町と同じように、人々は跪き、むせび泣き、叫び声をあげる。
そうして、こちらが言葉をかければ、一瞬にして静まり返り、祈り始める。
ともすれば、このまま何事もなく終わるんじゃないかと思ったけど、流石にそうはいかないようだった。
「あががが……!」
人々の中の一人が、うめき声をあげると、頭がはじけ飛び、中から黒い物体が姿を現す。
それを見て、人々は悲鳴を上げ、逃げまどい始めた。
「皆さん、私達には創造神様がついています!」
「落ち着いて、こちらに避難してください!」
そうして声を張り上げたのは、ユーリとエルだ。
今回、二人は攻撃手段に乏しいということで、避難役を任せることにした。
いや、本来なら、お兄ちゃんをもしのぐくらいには攻撃力は高いのだけど、神力を得ていないと攻撃を受け付けないという性質を考えると、魔法が主体の二人は少し分が悪い。
一応、武器が使えないこともないけれど、私の【ストレージ】にある、ちょっとユニークな武器では使いこなせないだろうし、だったら裏方に回ってもらうことにしたわけである。
なんだか、いつもと逆なような気がするけど、今はこれが最適だと信じたい。
「そ、そうだ、私達には創造神様がついてる!」
「祈りを捧げろ! そうすれば助かる!」
創造神様がついているという言葉が効いたのか、人々は素直に誘導に従い、端っこの方に集まってくれた。
本当は、教会の外に出てほしくはあるけど、まあ、一か所に固まってくれるだけでもありがたい。
私は、人々の周りに結界を張り、攻撃の流れ弾を防ぐ。
「創造神様と一緒に戦うって言うのは、名誉なことなんだろうな」
「こういう役割ってなんて言うのかしら。やっぱり天使?」
『何でもいいけど、気を付けてね』
戦いには、お兄ちゃんとお姉ちゃんも参戦する。
と言っても、基本的には牽制で、止めを刺すのは私の仕事だ。
一応、例の村の時と比べて、今は竜神モードになっているし、弱点もわかっている今、そう簡単に負けるつもりはない。
むしろ、あまりに強く攻撃しすぎて、結界ごと人々を吹き飛ばしてしまう方が問題だ。
だから、力加減は注意する必要がある。
こういう時のために、ノームさんから力加減の調整の方法を教わったのだ。間違っても、人々を傷つけるような真似はしない。
「行くぞ!」
お兄ちゃん達が飛び出し、伸ばされる触手をかいくぐりながら、攻撃を仕掛けていく。
予想した通り、アダマンタイト製の武器ならば、結構なダメージが入るようだ。
お姉ちゃんからしたら、扱いにくい武器みたいだけど、それでも多少速度を落とせば、やってやれないことはない。
迫りくる触手も、すぱすぱと切り落とし、瘤に向かって攻撃を仕掛ける。
「ぎゃぁぁあああ!」
攻撃を受けた化け物達は、悲鳴を上げて後ずさっている。
まさか、ただの人間の攻撃でここまで食らうとは思っていなかったのだろう、一気に警戒した行動になった。
しかし、そうして警戒して動きを遅くすれば、私が逃がさない。
私は、軽く手をかざし、雷の矢を放つ。
矢はすさまじい速度で飛んでいき、化け物の瘤に突き刺さった。
「ぐぎゃぁぁあああ!」
矢を受けた化け物は、盛大に悲鳴を上げると、その場に倒れ伏し、動かなくなった。
先の村での戦闘が嘘のように、こちらのペースで進んでいる。
流石に、この姿なら、眷属相手には負けることはなさそうだ。
もちろん、お兄ちゃん達が牽制してくれたおかげもあるけどね。
「これならやれる! この調子で行くぞ!」
「ええ!」
そうして、次々に化け物を切り伏せ、その隙を私が狩り取ることによって倒していくこと数分。教会内の化け物は、すべて倒すことができた。
しんと静まり返る教会内。しかし、お兄ちゃん達が武器を収めると、その瞬間、歓声が上がった。
「創造神様が化け物を討ち果たしたぞ!」
「ああ、神よ、この場に居合わせたことを誇りに思います……!」
「御使い様もとんでもなくつえぇ」
「神の祝福だ!」
結界を解除すると、人々は次々にそばに寄って来て、跪いたり、手を合わせて崇めたり、こちらが恥ずかしくなるほど感謝してくれた。
まあ、創造神様が、悪しき化け物をやっつけたって絵面だろうしね。いくら眷属化しているとはいっても、信仰がこちらにある以上は、悪なのはあちら側である。
とにかく、無事に倒せてよかった。
残った死体の処理とか、やるべきこともあるけど、ひとまずは、無事に対処できたことを喜ぶとしよう。
一気に騒がしくなった教会内で、私は次なる場所のことを考えていた。




