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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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第六百七十二話:偽りの神様の降臨

 しばらく、探知魔法を注視しながら飛んでいると、ようやくそれらしい場所を見つけることができた。

 山の裾野に広がる小さな森の中にポツンとある黒い泉。

 万が一にも、グラス本体が出てこられたらまずいので、遠巻きに見る程度だったけど、遠くから見ても真っ黒なその泉は、その異質な魔力も相まって、確実に目的の泉だと判断できた。

 思ったより早く見つかったな。運がよかった。


「あんなところにある泉、誰が取っていくんだろう」


「そんなに大きな森じゃないし、入った人が偶然見つけたとかじゃないかな」


 泉自体は、例の村からもそれなりに離れた場所にある。

 徒歩で来たわけではなさそうだけど、狩りでもしていたんだろうか?

 あるいは、クイーンがそう仕向けたのかもしれない。

 種を蒔いていた以上は、きっかけとなる者を作ったのは間違いないだろうし、誘導した可能性は高いよね。

 いずれにしても、ここから広まったとみて間違いなさそうだ。


「今は確認するだけだったよな?」


「うん。今はまだ、戦うのは早い」


 まあ、泉に近づいたからと言って、グラス本体が出てくるかはわからないけど、その可能性がある以上は、準備を整える必要がある。

 まずは、一度戻って、ソフィーさんへの報告をしつつ、信仰を取り戻す準備を進めるとしよう。

 そう言うわけで、一度皇都へと引き返す。

 教皇庁へ入ると、すぐにソフィーさんが駆けつけてくれた。


「お帰りなさいませ、ハク様。首尾はいかがでしょう?」


「ひとまず、例の泉は発見できました。小さな森の中にあったので、森を封鎖してしまえば、問題はなさそうですね」


「おお、流石仕事がお早い」


 本来なら、辺境の町までは、馬車で結構な日数がかかるところを、まだ二日しか経っていないわけだから、ソフィーさんからしたら、どうやってそんなに早く移動しているのかってところだろう。

 ただ、それを疑問には思わないのは、私が分体神ということになっているからだろうか。

 まあ、実際、ここにも誰にも見つからずに来れているわけだしね。多少の矛盾は目をつむってくれるのはありがたい。


「それで、先の報告の化け物に関してですが……」


「はい。あれに関しては、もはや手遅れでしょう」


 泉を捜索している道中、私はソフィーさんに例の村の化け物について報告していたわけだけど、その事実は、ソフィーさんのみならず、ダラス聖国の重鎮達をもう呻らせたようだ。

 まあ、私の攻撃ですら、かすり傷しか負わないような相手だし、攻撃力も相当なもの。まともに戦おうとすれば、命はないだろう。

 そして何より、そんな化け物が、他の町などにも潜んでいるかもしれないというのが、最大の脅威だった。


「ハク様の威光をもってしても、浄化は無理ですか」


「すいません。あそこまで異形化が進んでしまった以上、戻す術はないでしょう。放っておけば、周りに被害が出ることは確実ですし、倒すしかないかと」


「そうですか……。いえ、まだ引き返せる人々がいるだけでも良いことです。まずは、救える者から救っていきましょう」


「もちろんです」


 こうなってしまった以上は、少し急がなくてはならないかもしれない。

 黒き聖水の流通も止めないといけないし、やることは思ったよりも多そうだ。


「連絡の方はどうなっていますか?」


「すでに周辺の町を経由して、行き渡らせつつあります。一部の地域はすでに制圧部隊も用意できたので、まずはそちらに向かっていただいた方がいいかと」


「わかりました。さっそく向かいましょう」


 普段はあまり使わない通信魔道具も、今回は大活躍のようである。

 私は、さっそく連絡が済んだという町へと向かうことにした。

 それらの町や村に関しては、皇都からは結構離れているようで、どちらかというと、先ほどまでいた村からの方が近い位置にある。

 こんなことなら、戻らない方がよかったかな? 通信魔道具もあったことだし。

 いやでも、どのみち待つ必要はあっただろうし、そこまでのロスはないはずである。

 そのわずかなロスで、助からない人がいないとも限らないけど、どうかそんなことにはならないでほしいものだ。

 とんぼ返りするように、再びエルの背に乗って皇都を発つ。

 教えられた場所は、ここから半日ほどの距離にあるらしいので、着くのは夜になりそうだ。

 祈りの時間は一日に数回あるが、基本的には午前中が多い。

 これは、明日の朝が勝負時かな。


「いよいよだね」


「そうだね……」


 私の緊張を察してか、ユーリが話しかけてくる。

 教会に人々が集まる時間、私は創造神様の姿を借りて、人々の前に姿を現すことになる。

 姿だけなら、リクの力も借りて、ほぼ本物に近づけることはできるけど、中身までは変えることができない。

 私が話す言葉は、私が考えなくてはならないし、それが創造神様にどれだけ近づけるかどうか。

 そもそも、創造神様とは、一度会ったっきりで、そこまで頻繁に接していたというわけでもない。だから、どんな話し方をするのかというのも、完全に感覚になる。

 果たして、うまく話せるのか。とても不安だ。


「大丈夫、ハクならできるよ」


「う、うん……」


「不安なら、私が取ってあげようか?」


「……いや、いいよ」


 ユーリなら、不安という漠然とした症状も移し替えることができるけど、精神的な不安はそう簡単に取り除けるものじゃない。

 ちょっとした不安程度なら、すぐに忘れることができるかもしれないけど、流石にこのレベルはすぐに新たな不安が生まれるだけだろう。

 それに、これは私の使命でもある。この不安がある状態こそが、その使命を全うするのに必要なことだと考えると、安易に消していいものでもない。

 大丈夫、多少失敗したとしても、問題はないはずだ。

 私は、ドキドキする胸を抑えながら、そう言い聞かせた。


 そうして翌日。夜のうちに町に辿り着いた私達は、秘密裏に教会へと足を運んだ。

 ぱっと探知魔法で見る限り、ここはそんなに異質な魔力は感じられない。

 多分、まだ黒き聖水が伝わってから、そこまで時間が経っていないんだろう。そんなに眷属化している人はいなさそうだ。

 それでも、念のためにやらねばならない。

 しばらくして日が登ってくると、次々に人々が集まり、祈りを捧げていく。

 今回の件は、神官には伝えられていないため、完全に不意打ちとなるけれど、どうかうまく行きますように。


「あ、あれはなんだ?」


 隠密魔法で隠れた状態で人々の前まで行き、竜神モードの姿を現す。

 透明な鱗から発せられるまばゆい光は、目を閉じて祈りを捧げていた人々の意識を悉く惹きつけた。

 創造神様を祭る教会で、その姿が降臨する。あまりに現実離れした光景に、人々は皆、ぽかんと口を開けていた。


『私はこの世界の創造神である』


「そ、創造神様……!?」


 私の言葉を聞いた一人が跪くと、それにつられて他に人々も次々に跪く。

 私は、その光景に少し罪悪感を覚えながらも、創造神様の代理として、人々を祝福した。

 これで、うまく行ってくれるといいのだけど。

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