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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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第六百七十一話:傲慢な考え

 ひとまず、当初の予定通り、泉の捜索をすることにする。

 眷属化によって、化け物の巣窟と化してしまった村に関しては、ソフィーさんに連絡しておくけれど、多分、刺激しなければ、いきなり化け物になることはないと思っている。

 あの時、隠密魔法をかけていたにもかかわらず、なぜばれてしまったのかと思ったんだけど、恐らく、私が原因だろう。

 後天的とはいえ、仮にも神様の眷属となった化け物は、神様の気配を感じ取ることができるのかもしれない。

 だから、私の神力に反応して襲い掛かってきたんだと思う。

 そうでもなければ、普通の村人が私の隠密魔法を見破れるとは思えないし、仮に見破れたとしても、いきなり化け物になる必要はないだろう。

 あれは完全に、理性がなくなった者の行動だ。

 だから、私が近寄らなければ、すぐさま化け物が出現するということはないなず。

 まあ、逆に言えば、私が行ったら化け物になる可能性があるってことだから、そこらへんは注意する必要があるけど、弱点もわかったし、数体程度だったら、対処はできるはず。

 だから、そちらはその時考えるとして、まずは泉の捜索をすべきだと判断したわけだ。


「リク、ちなみに聞きますが、あの化け物の弱点とか知っていましたか?」


『詳しいことは知らないよ。あいつは元々一つの場所から動くことは少ないし、戦うこともなかったから。まあ、居座られた場所にいた神は堪ったもんじゃないだろうけどね」


 ふと、気になったので聞いてみたが、リクも弱点らしいものは知らない様子。

 グラス自身が、移動をあまりしない神様であるらしいので、関わろうとしなければ、あちらも襲い掛かってくることは稀だったようだ。

 まあ、たまにクイーンにそそのかされて、戦うことになった神様はいるらしいけどね。

 神様の攻撃は、どれも普通に効いていたらしいけど、もしかして、神力が籠っていれば、属性問わずに効いたんだろうか?

 いや、私の魔法は、すでに神力が主体だし、その理論だと初めから攻撃が効いてないとおかしいか。

 それとも、効いてあれだったんだろうか?

 一応、皮膚の表面を軽く裂く程度はできていたから、神力がなければ、それすらできなかった可能性もある。

 思い返してみると、確かにエルの攻撃はあまり効いていなかったように見えた。

 逆に、私がエンチャントを施した後のお兄ちゃん達の攻撃は、微々たるものとはいえちゃんと効いていたようだし、攻撃の際には、神力が必須になるのかもしれない。

 いよいよもって、私以外対処できる人がいなさそう。


「眷属であれとなると、本体はどれだけ強いのか……」


 一応、弱点らしい弱点があっただけましという見方もできるけど、倒せる気は全くしなかった。

 まあ、きちんと竜神モードになっていれば、あるいは倒せたかもしれないけど、普通の人が相手をしたら、何もできずに殺されるのが落ちな気がする。

 あんなものが、もしかしたら他の村や町にもいるかもしれないと思うと、不安でしょうがない。

 あの村だけとは思えないし、今後、眷属化を解除しようと動くなら、必ずどこかでぶち当たることになるだろう。

 その時に、きちんと倒せるのか。そして、人々を守れるのか。

 ただでさえ、重すぎる役割を背負わされているのに……。


『そんなに気負う必要はないよ。ハクはただ、目の前の敵を倒すことにだけ集中すればいい』


「そんなこと言われても、人々を巻き込むわけにはいかないじゃないですか」


『それは仕方ないことでしょ。仮に、戦いに巻き込まれて人が死のうが、それは必要経費って奴さ。ハクが悪いわけじゃないし、気にすることないと思うんだけど』


「そう言うわけにはいかないんですよ。助けられたかもしれない命を、助けられなかったという事実が、私には我慢ならないんです」


 最適な方法があったはずなのに、それに気づけなかったり、遅れてしまったせいで、誰かが死ぬというのは、後味が悪いものだ。

 仮に、それが私に何の関係もない人だったとしても、手の届く範囲にいたのに、救えなかったという事実は、私の心を暗くさせる。

 もちろん、仕方ないと諦められる時もあるけど、そう言う時ばかりではないし、特に、今回の場合は、私がうまくやれば、人々の犠牲は最小限で済ませることができるはずだ。

 眷属化が進み、化け物になってしまった人達はともかく、まだ眷属化してから間もない人々であれば、助けることができる。

 そう言った人達を、関係ないから死んでもいいやなんて思うことは、私にはできない。


『ハク、気づいてないかもしれないけど、その考えは人のそれとは違うよ』


「え?」


『すべてを救えるなんて考えるのは、万能の力を持った神のやることだ。ハクは、自分を神ではないと言っているけど、そう考えること自体が、人としては傲慢なことだと思うよ』


「……」


 リクに言われて、思わず押し黙る。

 確かに、こんな風に考えるようになったのは、こうして転生してからだ。

 前世の時だったら、そんなことは考えなかったはずだし、考えたとしても、せいぜい救えるのは一人や二人の個人レベルで考えていただろう。

 でも今は、国を救おうと考えている。いや、もしかしたら、世界を救おうとすら考えているかもしれない。

 私は、転生してから力を得た。竜の力、精霊の力、神様の力。

 人には到底扱いきれないような強力な力を、私は得ることができた。

 力があれば、それだけ人を助けることができる。以前はできなかったことでも、今ならできる。

 だからこそ、こんな考えをしてしまうのかもしれない。

 もちろん、救える命を、あえて救わないということはしたくはないけど、救いたいと思うがあまり、一番大切なものを守れないようでは、本末転倒だ。

 それは、一夜ひよなを攫われている今、とてもよく当てはまると思う。

 リクの考えがずれていると思っていたけど、ずれていたのは私の方だったのかもしれないね。


「……それでも、最善は尽くしたいと思います」


『まあ、僕らとしては、ハクがどんな考えをしようがどうでもいいけど、思い詰めて、大切なことを忘れないようにね』


「はい。ありがとうございます、リク」


『ただ思ったことを言っただけだよ』


 私は傲慢なのかもしれない。けど、救いたいと思うことを、悪だとは思わない。

 私はただ、自分の気に入らないことを排除するために、奮闘しているだけ。

 それが、周りに迷惑をかけているのだとしても、今更考えを改めることはできない。

 せめて、熱中するあまり、周りに愛想をつかされないように注意しよう。

 周りに目を向けすぎて、近くにある大切なものを見落とすというのは、あまりに本末転倒なのだから。

 そんなことを考えながら、泉の捜索に力を入れた。

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