第六百六十六話:事情説明
「……つまり、信仰を正常な状態に戻せば、問題はないと?」
「はい。彼らも、心変わりして異端の神様を信仰したわけではないですから、それで罰してしまうのは、流石に可哀そうだと思います」
眷属化を解くことができれば、彼らもきちんと創造神様のことを信仰してくれるだろう。
創造神様からしても、信仰が減りすぎるのはよくないと思うし、きちんと元に戻るのなら、殺すべきではない。
「……事情はわかりました。ですが、仮に、卑劣な手段によって信仰を塗り替えられてしまったのだとしても、枢機卿らは納得しないでしょう。そうして信仰を塗り替えられてしまうのは、信仰心が足りないからだと」
基本的に、この国の人達は、創造神様を信仰していれば、どんなことでも乗り越えることができると信じているらしい。
もし、何か失敗するようなら、それは信仰心が足りないからであり、きちんと信仰していれば、そう言った失敗をすることはなかったと、そう判断するようである。
でも、世の中そんな根性論でどうにかなるものではない。
例えば、病気に苦しんでいる人がいたとして、懸命に祈ったところで、病気はよくならない。
もちろん、悪いものを取り除くという意味では、浄化魔法をかけることによって、ある程度は改善するかもしれないけど、根本的な解決にはならないだろう。
そう言った人達に、病気が治らないのは信仰心が足りないからだ、なんて言ったところで無駄なことである。
信仰することは大事だけど、だからと言って、信仰していればどんなことでもうまく行くというわけではないのだから。
でも、この国では、そんな考えが一般的で、国の上層部も、そう言った考えで固まっている。
仮に、眷属化を解くことができたとしても、全く罰を与えずに済ますというのは難しいようだ。
「どうにかならないんですか?」
「こればかりはどうにも。私も巫女の立場ですから、その考えに反対することはできません」
随分と融通が利かないと思うけど、これもお国柄という奴なのだろうか。
でも、ソフィーさんも納得していないようには見える。
何とか、処刑される以外の方法で処分を下すことはできないだろうか?
「もっとも簡単な対処は、国外追放することです。創造神様を信仰している、けれど、異端の神によって穢れてしまった。であれば、国を出て、禊を行い、真に創造神様の信徒として認められるような行いを繰り返せば、納得してくれるでしょう」
「それでも厳しいような気はしますけど……」
「これが精いっぱいだと思います。国としても、いつまた穢されるかわからない種を、残しておくわけにもいかないでしょうから」
できることなら、処罰は軽くしてほしいと思っていたけど、この様子じゃこれ以上を引き出すのは無理そうだ。
まあ、創造神様の分体神としての威光を轟かせれば、何とか出来る可能性もあるけど、それは流石にやりたくない。
ただでさえ、創造神様の姿を借りると言うだけでも緊張するのに、その上で創造神様の顔をして命令なんて、したくない。
神託を下して、そう言う風に取り計らってもらうようにするのがせいぜいだろうか。
私にはできないけど、創造神様に頼めばできるかもしれないし。
「……わかりました。眷属化を解いた人達に関しては、それで考えていきましょう」
「申し訳ありません。こちらの我儘で……」
「いえ、国としては間違っていない判断だと思いますから」
眷属化を解除した後の人達に関しては、後でどうにかするしかない。
一応、国外追放なだけで、殺されるわけではないから、まだ何とかなりそうではあるけどね。
少なくとも、いきなり崖から飛び降りろと言われるよりはましだと思う。
「では、眷属化を解除する方法なのですが……」
私は、次に眷属化を解除する方法を話す。
眷属化を解除するためには、私が創造神様の姿を借りて人前に姿を現し、自らを創造神だと名乗ることで、本来の信仰を思い出させることによって解除する。
まあ、これで解除できるのは、眷属化して間もない人達だけで、すでに何回も黒き聖水を飲んでしまっている人に対しては効果が薄いかもしれないけど、それに関しても、浄化魔法を何重にもかければ、解くことは可能だ。
これを、各地の教会で行い、人々の信仰を取り戻すのが、今回の作戦の肝である。
「なるほど、確かに、分体なれど、創造神様の威光を目の当たりにすれば、異端の神への信仰など吹き飛ぶでしょう。ですが、大丈夫なのですか? 真の姿を現すのは、負担がかかるのでは?」
「それに関しては問題ありません。しかし、一度に多くの人々の眷属化を解除しようとするなら、大勢が集まっていることが前提となりますから、教会の協力が必要になりますし、眷属化が解けた後の人々の対応もしてもらう必要があります。そのあたりは、大丈夫そうですか?」
「他でもない、創造神様の頼みとあらば、教会も快く場所を明け渡してくれるでしょう。問題は、人々の対処ですね」
ソフィーさんは、口元に手を当てながら、少し悩むような仕草を見せる。
先程の話からして、そうして無事に元に信仰を取り戻した人々も、最終的には国外追放になることになる。
いや、もしかしたら、それすら認められず、事情を知らない異端審問官によって罰せられたり、そうでなくとも、良心の呵責から、自ら命を絶とうとする人もいるかもしれない。
そう言った人々に、どう対処すべきか。
「通達を出すことはできますが、すべての町に周知させるのは時間がかかるでしょうし、一般に知られてはいけないことでもあります。連絡は内密に行う必要があるでしょうから、余計に時間がかかる」
「通信魔道具は使えないのですか?」
「大きな町には置いていますが、流石に末端の村までは……それに、自殺志願者が出る可能性もあると考えると、抑え込む人員も必要ですね。彼らの処分が決まるまでの間、収容しておく場所も必要です」
私が創造神様の力を借りて眷属化を解いたとしても、一朝一夕でどうにかなることでもない。
すでに、黒き聖水の影響はかなり深刻な領域に達しているようだし、すべての町を見て回るには、それ相応の時間が必要になるだろう。
最終的に、国外追放になるのだとしても、その処分が下されるまでの間収容しておく場所は必要だし、万が一のために、暴れ出さないようにする工夫も必要。
犠牲を出さないことを前提に考えると、かなり面倒な手順を踏む必要があるわけだ。
でも、だからと言って、好き放題罰したり自殺されたりしたら堪ったものではないので、絶対にやる必要がある。
差し当たって、場所の確保は必要か。どこかいい場所はないだろうか?
「人々を集めるなら、やはり教会でしょうか。旅人用の部屋もありますし、各地には必ず教会がありますから」
「では、場所はそこで。万が一の時のために、抑え込む人員は出せますか?」
「それは相談して見ないことには何とも」
まあ、そもそも国外追放の案に賛成してくれるかどうかすらわからないわけだしね。
いくらソフィーさんが教皇の娘という凄い立場でも、限度はあるか。
まあ、最悪、睡眠魔法で眠らせておくという対処はできるだろうし、戦いが激化しなければ多分何とかなると思う。
あるいは、お兄ちゃん達に抑え役をやってもらうかってところだね。
案外、問題が多いなと思いながら、さらに計画を詰めていくのだった。
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