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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十四章:一夜奪還編
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第六百六十五話:創造神様の計らい

「まずは謝罪を。異端者と間違えるような真似をして申し訳ありませんでした」


「い、いえ、誤解は解けたようなので、大丈夫ですよ」


 深々と頭を下げるソフィーさんに、慌てて返す。

 確かに、いきなり異端者扱いされて、崖から飛び降りろと言われた時はどうしようかと思ったが、いつもあんな感じなんだろうか?

 もしそうなら、ほんとにちょっとしたことで頻繁に処刑が行われているってことになると思うんだけど。


「普段はあそこまで言いがかりに近いことはやりません。ですが、今は状況が状況でして……」


「信仰の変化について、ですね?」


「はい。今、ダラス聖国では、謎の異端の神を信仰する宗派ができつつあります。それを処罰するために、敏感になっているんですよ」


 いくら厳しいとは言っても、流石にいきなり崖から飛び降りろと言われることは少ないらしい。

 仮に、異端者疑惑をかけられたとしても、信頼できる協力者からの異議申し立てがあれば、その疑惑を晴らすことができるし、そうでなくても、決闘によって自らの罪を晴らすこともできるという。

 まあ、どちらも一筋縄ではいかないけど、一応、解決の方法はあるわけだ。

 崖から飛び降りろと言われることは、それがほぼ異端者だと確定しているような状況であり、いきなりされることはない。

 つまり、あの門番は、相当過剰に反応したわけだね。


「ですが、ハク様がやってきてくださったことで、希望の光が見えました。心より、お礼申し上げます」


「ええと、私のことをご存知なのですか?」


 一応、今回はオルフェス王国の使節団という形で来たから、正式な訪問ではあるんだけど、オルフェス王国からダラス聖国の方に、いついつに訪問しますよ、などという連絡は行っていない。

 本来なら、道中で先触れを出して、準備してもらうところなんだろうけど、私達は直接皇都に乗り付けちゃったからね。

 だから、あちらが私達が来ることを知る術はなかったはずである。

 私のことを知っているのもおかしな話だし、一体どこで聞いたんだろうか?


「もちろん。冒険者、ハク・フォン・アルジェイラとしてのハク様も聞き及んではおりますが、それはあくまで仮の姿。実際は、創造神様より遣わされた、分体神であるということは、わかっております」


「分体神……?」


 なんか、いきなりとんでもないことを言われた気がする。

 確かに、私には神様の力が宿っているし、本物とは言えなくとも、神様と呼べなくもない存在ではある。

 でも、私は私であり、どこかの神様の分体というわけではない。

 というか、そんな話、私はもちろん、誰一人としてしていないと思うんだけど、どこからそんな話になったんだろうか?


「先日、創造神様より神託がありました。今、ダラス聖国に渦巻く闇を払うべく、分体としてハクという少女を派遣したと。そして、その少女と協力し、正しき信仰を取り戻せと、そうお告げがあったのです」


「なるほど……」


 私は、ちらりと後ろにいるであろうルーシーさんの方を見る。

 神様からのお告げという形で届いたということは、少なからず関係しているはずだからね。

 私の視線を受けてからか、かすかに頷く気配を感じたので、多分そう言うことで合っているっぽい。

 ここは話を合わせておくか。


「確かに、創造神様も、今回の事態は収拾すべきことだと判断しているようです。その解決の手伝いをさせていただけるなら、喜んで手を貸しましょう」


「なにを、手伝いをさせていただくのはこちらの方です。どうか、この国を救ってくださいませ」


 深々と頭を下げるソフィーさん。

 まさか、創造神様自ら手を貸してくれるとは思っていなかったが、これで話し合いはスムーズに進むだろう。

 仮にも、信仰している神様からの神託だからね。無碍にすることは絶対にできない。


「それでは、詳しい話をさせていただいてもよろしいですか?」


「はい。よろしくお願いします」


 ソフィーさんから、改めてこの国の問題について語られる。

 少し前から、異端の神様を祭る宗派が生まれ始めた。

 この国では、創造神様を祭っており、他の名のある神様を同時に信仰することは黙認こそされているが、下手に口に出せば罰せられるほどの厳しさである。

 そんな中でも、異端の神様、つまり、この世界でも認知されていない無名の神様を信仰することは、禁忌とされていて、見つかれば即処分の対象である。

 本来なら、国の人々は皆敬虔な信徒であり、他の神様を信仰することなどほとんどないのだけど、どうにも、新たに生まれたその宗派は、根強い人気があるらしく、少しずつその人口を増やしていった。

 最初は、ごく少数しか住まない村が始まりだったようだけど、やがて、町へと侵食していき、今では末端の町はほとんどが異端の神様を信仰するようになってしまった。

 これはまずいと、すぐに異端審問官を派遣し、事態の収拾に走ったが、処罰対象が多すぎて、このままでは町として機能しなくなる上、異端審問官の身の危険もあるということで、対処に困っているという。


「敬虔な信徒である人々が、なぜいきなり心変わりしたのか。ハク様は、詳しい理由をご存知ですか?」


「はい。それには、黒き聖水というものが関わっています」


 私は、黒き聖水こと、豊穣の神の黒き乳について話す。

 これを飲んだ者は、万病が治るという破格の効果を持っているが、飲んだら最後、眷属化して、無意識のうちに信仰が変化していってしまう。

 最初の内は、その自覚がなくても、状態を見れば、確実にかかっているものであり、知らずに飲み続ければ、人としての肉体も失って、化け物になってしまう。

 今回の事件の元凶は、これを用いて信仰の変化を促しているのだ。


「そんなものが……でも確かに、どんな病気もたちまち治ると評判の飲料水が、一部地域で売られている、という話は聞いたことがありますね」


「恐らくそれですね。飲んだ者は、眷属化し、無意識に信仰をすり替えられてしまう。だから、正常に戻すためには、浄化する必要があるのです」


「なるほど……。となると、今まで異端者として罰してきた者達の中にも、そうして無意識に信仰を塗り替えられた人がいたかもしれませんね」


 黒き聖水、その名の通り、黒い液体ではあるから、見た目には少し忌避感を感じてもおかしくはないけど、病気などにかかり、藁にも縋る思いで飲んだ人達もたくさんいるだろう。

 そんな彼らが、処刑されてしまったかもしれないという事実は残念だが、こればっかりはどうしようもない。

 過去は変えられないのだから、せめて今生きる人達を助けなければ。

 私は、浄化の手はずと、その後の人々の対応について、話すことにした。

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