第六百五十九話:見せかけの姿
どくん、と胸に埋まった竜珠が輝き、体を包み込んでいく。
銀の鱗は白く染まっていき、やがて透明に近い色に。体が発光し、目を開けていられないほどに眩しくなっていく。
あまりの眩しさに、一瞬目を細めたけど、すぐにそれも落ち着いて行って、普通に見えるようになってきた。
『ほう、人々の想像する神に近くなったか?』
「体の大きさは少し違いますが、これなら問題はなさそうですね」
〈これが、私……〉
鏡があるわけではないのでよくわからないが、一つ言えることは、全身が発光しているという点だろう。
透明に近くなった鱗は、その光を反射して、全身が発光体のようになっている。
これだと、見ている人からしたら、シルエットくらいしかわからないだろう。
私が見た創造神様も、大体そんな感じだったので、確かに再現できていると言えばできているのかもしれない。
ただ、かなり輝いてしまっているので、相当目立つ。
後ろからこっそり近づいて、とかはできなさそうだね。
『ま、こんなもんでしょ。あえて身体の形はあまりいじらなかったけど、こっちの方が戦いやすいでしょ?』
〈まあ、元の姿に近い方が楽ではありますね〉
『一応、もっと神々しい感じにもできるけど、今はこれで妥協しておくよ。ハクで遊ぶのは、これが終わった後だ』
〈いや、遊ばないでくださいね?〉
全く、油断も隙もない。
けれど、これなら、いつもの調子で戦うことができる。
なんとなく、手にした神剣も喜んでいるような気がするし、とりあえずは感謝しておいてもいいだろう。
『さて、姿はそれでいいだろう。で、剣の方だが、かなり大味な性能のようだな』
〈わかるんですか?〉
『多少はな。ハクの性格を考えると、武器を振るうごとに人や町がめちゃくちゃになるのは好まないだろうから、このままでは少し扱いづらいのではないか?』
〈そう、ですね。おかげでほとんど振るったためしがないです……〉
この神剣を振り回した時なんて、神界で戦った時か、タクワと戦った時くらいじゃないだろうか。
ベルを脅すのに使ったこともあったけど、実際に振ってたら町がとんでもないことになっていそうだし、振るうことはなかった。
こう、ちょっと出力を抑えることができたら、楽でいいんだけどね。
『恐らく、それは剣自体がそう望んで作られている。言うなれば剣の特性であり、出力を抑えることはできても、なくすことは難しいだろうな』
〈でも、これがないと、まともに戦えないんですよね〉
『だろうな。そなたの呪文は素晴らしかったが、それだけでは勝ち目はない。神秘の力が宿った武器がなければ、傷をつけることは難しいだろう』
私のメインウェポンは魔法だし、神力が増量されたことによって、その威力もかなり上げることができる。
恐らく、いつも使っている水の刃でも、出力を上げれば、それだけで町を真っ二つに両断するくらいはできるだろう。
それだけの威力があるなら、神剣など使わなくても、勝てるのではないかと思うけど、そう単純なことでもないらしい。
弱点というわけではないが、やはり、神剣という武器には意味があるんだとか。
「グラスを倒せたとて、それで町がめちゃくちゃになっていたら意味がありません。出力の調整に関しては、最低限出来るようになっていた方がいいでしょうね」
『そんな悠長なこと言ってる場合かなぁ。ハクが本気になっても勝てない可能性が高いのに、手加減してる場合?』
「言ったはずです、倒せても後に続かなければ意味がないと。何のために人々を救おうとしているのか、理解できないんですか?」
『まあ、ハクの性格ならそうだろうけど、そんなことさせてくれる相手かなぁ』
ノームさんもウルさんも、どちらかと言えば、町に被害を出さないことを前提に考えてくれているようだけど、リクはそうではないようだ。
まあ、確かに、ぶっちゃけ知らない国だし、私には関係ないという見方もできると言えばできる。
最大の脅威を排除するから、後は自分達で復興してと丸投げすれば、それでいいって考えね。
でも、それはあまりにも無責任すぎる気もする。
そりゃもちろん、私一人にできることなどたかが知れているし、復興を手伝おうにもできないということはある。
神様を倒すための致し方ない犠牲であり、それは私の責任ではないという見方もできる。
でも、やっぱり、戦い方次第で壊さずに済むなら、そっちの方がいいに越したことはない。
甘いと言われるかもしれないけど、最初っから諦めるよりは、可能性を突き詰めた方がいいんじゃないかと思う。
〈ちなみに、そのグラスという神様は、どれくらい強いんですか?〉
『かなり強い部類だね。どこぞの世界を創造したとか言う逸話もあるらしいし、下手したら、この世界の創造神に並ぶかも』
〈そ、そこまでですか?〉
創造神様と並ぶとか、急に勝てる気がしなくなってきた。
というか、そんな相手をお友達とか言って軽く接しているクイーンは、どれほど強いんだという話になるし、私はとんでもないものを相手にしているのかもしれない。
倒さなければならない相手とはいえ、不安になって来たな。
『まあ、あいつの強さは、あくまで人がいるところの話ね。信仰を簡単に増やせるから、それ込みで強いって話。信仰がない状態なら、十分勝ち目はあるよ』
〈なら、いいんですけど……〉
逆に言えば、信仰がある状態では、ほぼ勝ち目はないってことだよね。
やはり、眷属化した人々の信仰を塗り替える必要はありそうだ。
果たして、どこまでできるかはわからないけど、やらなければダラス聖国は崩壊するし、一夜も帰ってこない。
何が何でも、やるしかないね。
『では、まずはその剣の出力の制御を教えるとしよう。不安ではあるだろうが、力を使いこなせないことには、可能性はゼロのままだ。まずは、できることからやっていくといい』
〈は、はい〉
そう言って、ノームさんによる力の制御のレクチャーが始まった。
勝てるかはわからない。でも、勝たなければならない。
今まで、何度も理不尽な恐怖に晒されてきたけど、今回はその度合いが違う。
勝てなければ一夜を失うと考えると、胸が張り裂けそうな気分になるし、このままクイーンが世界を滅ぼしたらどうしようという不安もある。
でも、だからこそ、私は強くならなければならない。
私は、ぎゅっと拳を握り締め、自らを奮い立たせた。
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