第百四十話:実技試験
試験は散々だった。ほとんど文字が読めなかったため、隣で音読してもらったにも拘らずほとんどの問題を空欄で流すことになり、いたたまれなくなった。
これはたとえ読み書きができていたとしても酷い点数になっていたんだろうな。興味のないことだったとはいえ、あまりにできないとちょっと恥ずかしい。
サリアに関しても結構苦戦していたようだ。試験が終わった途端、机に突っ伏していた。まあ、今までこういったことはしたことなかっただろうし、疲れるのも当然か。
「お疲れ様。これで筆記試験は終了よ。少し休憩したら実技試験に入るから、準備しておいてね」
そう言って肩を叩いてくれる。
実技か。筆記でダメダメだった分実技ではいい成績を残しておきたいところ。大丈夫、魔法を撃つだけだったら得意分野だ。そう悪いことにはなるまい。
しばらく休憩した後、校庭へと向かう。
生徒らしき人物が何人か魔法の練習をしているようだったが、それとは別の場所に連れてこられた。
周囲を壁に囲まれた場所。目線の先には的が設置されており、射撃場のような雰囲気を感じさせる。
「ここは試験場よ。壁は魔法耐性が高い素材を使っているから多少のことでは壊れないわ。思いっきりやっちゃって大丈夫よ」
実技試験のルールは簡単。魔法で的に攻撃するだけ。
主に見るのは魔法の構築の速さ、正確さ、威力ということらしい。使う魔法は何でもいいらしく、得意な属性の魔法で打ち込んでくれたらそれでいい。
まずはサリアが前に出る。サリアの魔法の腕はすでに冒険者としてやっていける程度には高い。筆記でストレスが溜まっていたらしく、やる気は十分のようだ。
「ふぅ……シャドウブレイド!」
一呼吸置いた後、サリアの手から闇色の剣が出現し、的に一直線に飛び出していった。的に吸い込まれた剣はそのまま的を貫き、粉々に吹き飛ばす。
「おお、すでに詠唱短縮を使えるのか!」
「威力もなかなか、結構優秀なようね」
教師陣からの評価も上々。サリアは上機嫌な様子で振り返ると、私に手を振ってきた。
「ハク、見てたか!」
「うん。よかったよサリア」
サリアの魔法はすでに何回も拝んでいるが、評価される場でというのは初めてだ。
独学で学んできたであろう才能はすでに一端の魔術師としてやっていけるほどだろう。私もそれは嬉しく思うし、これを機にサリアがもっと外の世界に目を向けてくれたらありがたいことだ。
「次、ハクさんお願いします」
「はい」
サリアに代わり、今度は私が前に出る。
さて、どの魔法を使おうか。属性に関しては一番得意な水魔法でいいとして、何を重視するかで使う魔法が決まる。
構築速度に関しては正直どの魔法も変わりないからいいんだけど、となるとやっぱり威力重視だろうか。
ならば収束魔法の出番だろう。範囲魔法と同じだけの魔力を一点に集中させることによって強力な一撃を生み出す。まだ使ったことはないけれど、理論上は私が使える魔法の中で最大の火力を叩き出すことが出来るはずだ。
上級魔法の改ざんはちょっと難しいんだけど、これまでの研究でそれも実現可能なレベルになってきた。ちょうどいい試し場所があるのだ、ここで使わない手はないだろう。
私はすっと両手を上げて意識を集中させる。イメージは大砲。並み居る敵を打ち払い、一瞬にして命を奪う強力な弾。
手の平を中心に魔法陣が形成され、その中心に水球が集まっていく。どんどん巨大さを増し、両手で抱えきれないほどになった頃、満を持して正面に打ち出した。
ドゴォーン!!
撃ちだされた巨大な水球は渦を巻きながら高速で的に迫り、触れた瞬間内包した強大な魔力を放出させた。その威力はすさまじく、当たった的どころか隣にあった別の的まで跡形もなく消し飛んでいる。それどころか、魔法耐性が高いはずの壁の一部に大穴を開けていた。
「なっ、は……?」
「今のは、上級魔法? にしたって威力がおかしいでしょ……」
「しかも詠唱破棄……。俺だってできないぞ……」
「……面白い」
ちょっとやりすぎたかなと思いながらちらりと先生たちの様子を窺ってみると、皆口をあんぐりと開けて呆然としている様子だった。いや、ルシウス先生だけはほんのりと笑っただけだったけど。
これ、狭い場所で使っちゃだめだな。周りの被害がでかすぎる。
範囲魔法をベースにしただけあって一点狙いでも多少は周りにも攻撃が拡散してしまうようだ。まあ、元の範囲魔法と比べたらこれでも十分縮小化しているけど。
ただ力任せに撃つだけじゃ遅いし、形成するまで若干の時間がかかってしまう。これは改良の余地ありだね。
「えっと……どうでしょうか?」
構築の速さという面ではサリアより遅れてしまったし、正確さと言っても面破壊だったからよくわからない。その分威力は抜群だったろうけど、果たしてそれだけで合格を貰えるかどうか。
「え、ええ、そうね。二人とも素晴らしい魔法の才能の持ち主だわ。ハクさんには色々言いたいことはあるけれど、テストとしては申し分ない結果です」
私の言葉に我に返ったクラン先生が笑顔を見せながら結果を言い渡す。
若干笑顔が引きつっているように見えるのは気のせいだろうか?
ともあれ、結果は良好のようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「詳しい結果は後日言い渡します。今日はお疲れ様でした」
「はい、ありがとうございました」
その後は今後の簡単な打ち合わせをした後解散となった。次に学園に来る時は正式に入学する時。日取りは始業式の日になりそうだ。
さて、どのクラスになるだろうか。クラス分けは筆記と実技両方の結果を加味して行われる。筆記は散々な結果となったが、実技では上々だった。それはサリアも大体同じようで、案外意図しなくても同じクラスになりそうな予感がした。
オルフェス魔法学園ではクラスによって学ぶ内容が異なる。テストの結果を参考にその生徒に合った授業内容を示しているわけだ。もちろん、一年生時はそこまで大差はなく、座学を中心に学んでいくようだけど、より高度な教育を受けたいなら実力の高いクラスに分けられた方がありがたい。
学年が上がるごとにテストの結果を加味してクラス分けも行われるそうで、上級クラスは常に落とされないようにしのぎを削っているらしい。
まあ、私としてはどこでもいい。確かに上級クラスの授業は気になるが、私はあくまでサリアのお目付け役であって学ぶことは二の次だ。サリアが上を目指すというならついていけるように頑張るけど、そうでなくとも何か言ったりすることはないだろう。
サリアにとっては学園生活を送れるというだけで新鮮な体験だろうし、たとえ一番下のクラスであってもオルフェス魔法学園を卒業したと言うだけで箔が付く。学園生活を楽しめさえすればそれでいいと思う。
「サリア、学園生活は楽しみ?」
「おう! すっごく楽しみだ!」
帰りの道中、そんなことを聞いてみたが、サリアは純粋に学園生活を楽しみにしているようだった。
学園には貴族が多いと聞く。恐らく、サリアの事を知っている人も何人かいるだろう。そいつらがどんな行動を起こすのかがわからないけど、もしもの時は私がしっかりと守ってあげないとね。
嬉しそうにはしゃぐサリアを見ながら私は小さく胸の中で誓った。
感想ありがとうございます。