第六百五十六話:眷属化の対策
ひとまず、方針は決まった。
ダラス聖国の町に赴き、眷属化を治療しつつ、豊穣の神様を見つけ、叩く。ルディにはその間に一夜の捜索をしてもらい、あわよくば助け出してもらう。
正直、私一人で豊穣の神様に勝てるのかという疑問はあるけど、共に戦えないというだけで、協力者はたくさんいる。
特に、ウルさんとノームさんはかなり協力的だ。きっと、力になってくれるだろう。
「私は、これからウルさんのところへ行ってきます。後はよろしくお願いしますね」
『承知した』
確認を終え、私はウルさんの下へ向かうために、一度カムイのところへ赴くことにした。
ウルさんの存在は、すでにクイーンにばれてしまっている。
クイーンに対抗しうる切り札的な存在であるウルさんの存在がばれてしまったことで、猫の捜索網にも多少の影響が出ているわけだけど、だからと言って、今更どうにもできない。
せめて、下手にクイーンの目に触れることがないように、大事なことは夢の世界で行うことくらいだ。
直接家で寝ても連れて行ってくれるとは思うけど、今は一夜のことで不安で眠れそうにない。
だから、気軽に夢の世界に連れて行ってくれる、アンナちゃんを頼ろうと、こうして足を運んだわけだ。
「カムイ、いますか?」
「うん、準備してるよ。入って」
夢の館に辿り着くと、すぐさま中へと案内される。
今回の件だけど、私は多くの人に協力をしてもらうことになった。
カムイも、その一人である。
本当は、こんな罠感満載のものに手を出してほしくはなかったけど、私一人では、絶対に勝てないのも事実。
特に、クイーンは人々に寄生して、成り替わることもできるらしいから、ノームさんから貰ったお守りによって、その心配がないカムイは、信頼できる協力者として重宝できる。
もちろん、直接戦ってもらいたいわけではないけれど、最悪、聖教勇者連盟の力を借りて、人々を抑えてもらうくらいはしてもらうかもしれない。
そう言う意味では、結構重要な立ち位置である。
『待っていたのだわ、待っていたのだわ。夢の世界にご招待、猫もわくわくお待ちかねよ』
「ありがとう、アンナちゃん。お願いするね」
夢の妖精であるアンナちゃんの力を借り、夢の世界へと旅立つ。
もう何度も見た、現代らしい一室。
数多くの猫を抱え、ソファで待っていたのは、少し不機嫌そうなウルさんの姿だった。
「お待ちしていました、ハク。準備はできたようですね」
「はい。その、ごめんなさい、勝手なことをして……」
「それに関してはすでに謝罪を受けましたし、悪いのはそこにいる病原体なので気にしていませんよ」
『自分の案が採用されなかったからって嫉妬はよくないんじゃない?』
「黙りなさい。私はただ、ハクに健やかに過ごしてほしいだけです」
不機嫌の原因であるリクは、全然気にした風もなく、いつもの調子である。
元々、ウルさんは、私が戦うことに関しては消極的だった。
いくら神様の力を手にしているとは言っても、所詮はもどき。本物の神様ではない。
クイーンに目をつけられた以上は、対処しなくてはならないけど、立ち向かうのではなく、逃げることを優先に考えるようにと、いつも言われてきた。
しかし、リクに言われて、世界の危機が迫っていると知って、私も今のままではいけないと考えるようになった。
だからこそ、リクの提案を受け入れたし、戦う覚悟もした。
まあ、未だに覚悟が足りない部分はあるにしろ、私は明確にウルさんの考えを否定する形になってしまった。
だから、そそのかしたリクに対して、憤りを感じているわけである。
私にも責任はあるから、ちょっと申し訳ないね。
「こうなってしまった以上は、私も手をこまねいているわけにはいきません。非常に不本意ではありますが、ハクの戦力増強に協力しましょう」
「ありがとうございます。それで、どのように強化するんですか?」
「私にできることは、相手の力を削ぐことでしょうか。すなわち、眷属化をスムーズに解除する術を教えることです」
そう言って、猫の頭を撫でるウルさん。
確かに、眷属化は浄化魔法で解除できるとは言っても、かなりの時間がかかる。
相手が抵抗しない状態でも、瞬時に浄化しきるのは難しいだろう。
それが、スムーズに行えるようになるのなら、確かに便利だ。
「そもそも、眷属化は、その人間が、神に対して忠誠を誓い、神側もそれを受け入れることで成立します。大抵の神は、恐怖で支配し、強制的に忠誠を誓わせているようですが、それでも、工程は必要です。豊穣の神のように、知らぬ間に一方的に信者に仕立て上げることは、普通はできません」
その時の状態はどうであれ、一応は双方の合意が必要なわけで、眷属化はそう簡単にはできない。
タクワのように、恐怖で発狂させ、強引に眷属化してくるパターンもあるにはあるけど、無意識のうちに眷属化するというケースは稀なようだ。
つまり、豊穣の神の眷属化は少し特殊なものであり、だからこそ、隙もあるという。
「豊穣の神によって眷属化した人間は、心の奥底で無意識のうちに信仰が書き変えられている。つまり、本人にも誰を信仰しているのかわかっていない状態なのです」
「そんなこと、ありうるんですか?」
「もちろん、黒き乳を大量に摂取すれば、体の異形化も進み、信仰も自覚するでしょうが、まだ眷属化して間もない状態であれば、そう言うこともあり得ます」
一応、信仰は塗り替えられてしまうけれど、こんな神様を信仰しているという気持ちはあれど、それがどんな名前なのか、どんな姿なのかを明確に想像できず、信仰も薄い状態なのだという。
この状態でも、豊穣の神様を信仰していることには変わりはないから、力は増してしまうけれど、そのような曖昧な状態であれば、手を加えることも可能だという。
「簡単に言ってしまえば、信仰の書き変えです。その人間が、この世界で言う創造神を信仰しているというのなら、明確に創造神の姿を思い起こさせれば、信仰は戻ってきます」
「なるほど……」
眷属化という状態は解除できなくても、そうして信仰しているのが豊穣の神様ではなく、創造神様だと認識させられれば、創造神様の眷属という形にでき、豊穣の神様への信仰を削ぐことができると。
なんか、とても強引な考えな気もするけど、豊穣の神様の眷属化の方法が特殊だからこそできるものなんだろうね。
しかし、創造神様を思い起こさせると言っても、どうやればいいんだろうか?
大抵の人間は、実際に神様を見たことがあるわけではない。各地に神様の像などもあるけど、それは大抵が想像で作られたものだ。
いや、もしかしたら、神様が地上にいた頃に伝わったものがあるかもしれないけど、いずれにしても、今の人達が創造神様の姿を知っているとは思えない。
そんな調子で、思い起こさせることなんてできるんだろうか?
私は、いい案だと思いつつも、どのように成し遂げるのかが気になっていた。
感想ありがとうございます。




