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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十三章:思考する結晶編
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幕間:冷静になって

 異世界の神様、ルディの視点です。

 クイーンに後れを取り、契約者を攫われた。

 なんともふがいない結果に、我は冷静でいられなかった。

 この世界では、未だに信仰はなく、場所も悪かったため、本気の姿になれなかったという言い訳はできる。

 しかし、仮に本気で戦えたとしても、あの時のクイーンには勝てなかったのではないかと、思ってしまった。

 それだけ、クイーンの力は強力である。

 元から、信仰というものを持たない奴らにとって、この世界は都合のいい遊び場である。

 簡単に召喚されてしまったのも、力の差を証明していると言ってもいいだろう。

 憤りは感じるが、かといって、所かまわず当たり散らすわけにもいかない。

 故に、我は情報を集めることにした。

 クイーンの前、豊穣の神を打倒しようにも、奴がどれくらい信仰を蓄えているかもわからない。

 黒き乳、この世界では黒き聖水などと呼ばれているようだが、あれの性質をもってすれば、信者を増やすことなどたやすいだろう。

 信仰が増えれば、その分力も増す。あまりに力を増しすぎれば、この世界では無信仰の我らに勝ち目はない。

 可能性があるとすれば、他の神もかき集めて、全員でかかることくらいだろうか。

 それでも、クイーンには及ばなそうだが。


『クィス、再生はできたか?』


『識別名ルディ、増殖は順調、すでに以前の七十パーセントほどは回復できた。人も来ないので、邪魔をされる心配も少ない』


『そうか。なら、少し聞きたいことがある。豊穣の神、グラスについてだ』


『ログを参照。個体名ヒヨナが攫われたことに関連することと推察する。情報を開示する』


 我は、一度クィスの下を訪れた。

 クィスは、高い演算能力を持っているため、情報を得るということに関しては、かなり優れている。

 この世界に関しては、来たばかりでまだわからないことも多いだろうが、元の世界にもいた豊穣の神に関してなら、ある程度の情報を持っているだろう。

 そうして開示された情報を確認する。


『……ふむ。現在の状況はわかるか?』


『検索中。数件ヒット。とある国において、黒き聖水なる液体が販売されている。健康飲料として販売されており、国内の町の大半は眷属化している模様』


『少なくとも町がいくつかは乗っ取られてるわけか』


 奴が豊穣の神たる所以は、その乳にある。

 人々には、どんな万病も治すことができるとされているものだが、どちらかと言えば、性質はクィスの構造の入れ替えに近い。

 病気を治しているのではなく、病気が効かない体にしていると言えばいいだろうか。要は、それを飲んだ人物は、厳密には人ではなくなるわけだ。

 まあ、最初は姿は変わらないし、見た目には本当に病気が治っているように見えるだろうから、人々は喜んで飲むだろうが、そうして飲み続ければ最後、完全に眷属化して、真に人の姿を失うことになる。

 本体を叩くだけでも大変なのに、その上で眷属が襲い掛かってくると考えれば、かなり骨だ。

 いくらハクが強化されているとはいっても、それだけでは突破するのは不可能だろう。


『眷属どもを黙らせる方法は?』


『武力に訴えるのが最も効率的。下手な説得は意味を成さない』


『戦力の程度は?』


『まだ広がって間もないため、大半は戦力外と推察できる。ただし、町に潜入しての情報収集などは意味を成さない。何らかの方法で黒き聖水を使われれば、不利になる可能性が高い』


『町ごと潰した方が早そうだな』


『それには同意するが、個体名ハクが反対する可能性が高い』


『それが問題だな……』


 眷属化した奴らを元に戻す方法は、ないわけではないが、手間がかかる。

 それが町規模となれば、全員を治療するのはかなりの時間がかかるし、そんなことをしている間に、襲われたら堪ったものではない。

 一息に殺してしまった方が楽ではあると思うが、あの底抜けのお人好しはそれを良しとしないだろう。

 と言っても、それは我が契約者とて同じことを言うはずだ。

 できることなら、その意思は汲んでやりたい。しかし、それは契約者の救出が遅れるということでもある。

 さて、どうしたものか。


『それよりも、個体名ヒヨナを救い出す算段をつける方が重要と判断する』


『それは確かだな。どこに連れていかれたかはわからんが、追えるか?』


『置換の呪文により、瞬時に移動したため、追跡は困難。しかし、有効範囲やクイーンの性質からして、ある程度の予測は立てられる』


『ならさっさと吐け。悠長にしている時間はない』


『あくまで予測であるため、外れる可能性もある。まずは冷静になるべき』


『我は冷静だ』


 冷静、であるつもりではある。

 攫われた直後こそ、激高して周りが見えていなかったが、今はきちんと周りを見ることができている。

 だからこそ、クィスの下に情報収集に来たのだしな。

 ただ、焦りの感情があるのも確かだ。

 いくらクイーンが直接的な殺しはしないとはいえ、興味が失せれば普通に殺すだろうし、気は抜けない。

 契約者がすぐに興味を失われるほど、つまらない存在ではないとわかっていても、不安はある。

 だからこそ、早いところ助け出さなければと考えているのだが、こいつは全く動揺していないんだろうか?

 仮にも、お気に入りの一人だろうに。


『仮に、夢幻の世界に連れ去られたとするなら、識別名ルディが教えた呪文、個体名ハクが教えた魔法、そして、クィスが授けた結晶化の能力をもってすれば、生き抜くことは容易であると判断する』


『ならば、奴の手下の月の獣が相手だったらどうだ?』


『その場合でも、生き残れる可能性は高い。クィスは、個体名ヒヨナの可能性を信じている』


『そうか。だからそんなに冷静なのか』


 とことん物事を合理的に考える奴である。

 まあ、それが本当だとして、契約者はしばらくの間は生き延びられる。仮に敵性体が近くにいるような状態でも、問題はないだろう。

 問題があるとすれば、どこかに囚われている可能性か。

 我らが教えた技術も、使えなければ意味がない。閉じ込められて、その上で拷問などされたら、契約者の心が持たない。

 クィスもその程度の可能性は考えているはずだが、あえて言わないのか、それとも。


『クィスができることは、情報を集めることだけ。識別名ルディには、直接的な働きを期待している』


『言われるまでもない』


 とりあえず、情報はある程度集まった。

 これをどう生かすかは契約者の兄次第だが、最悪、我一人だけでも、何とかして見せよう。

 決意を新たに、一度情報を共有するため、家に戻るのだった。

 感想ありがとうございます。

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