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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第二十三章:思考する結晶編
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第六百五十三話:クイーンの招待

「今回は招待に来たの。ヒヨナちゃん? はそのついででしかないわ」


「招待……?」


 敵意を向けられてもなお、特に焦った様子もなく話し続けるクイーン。

 招待って、一体何に招待する気なんだ。


「そろそろ退屈になって来てね。色々な場所に種を蒔いては見たものの、どうやらどこぞのにゃんこが邪魔をしているらしくて、なかなか実らないの。困ったものよねぇ」


 にゃんこというのは、恐らくウルさんのことだろう。

 猫を介してどこへでも移動できるウルさんは、夢などを通じてこの世界の人々に警告をしていた。

 それが功を奏して、クイーンの企みを潰せているのだと思う。

 しかし、クイーンも、それでは面白くない。退屈しのぎをしようとしているのに、それを潰されては解消ができないから。

 だから、そろそろ限界だったのかもしれない。タイミングが最悪過ぎるけど。


「だから、そろそろ本命に目を向けようと思ってね。ハク、以前の泉を覚えているかしら?」


「泉……例の、黒き聖水のことですか?」


「そう、それ。あれをある場所に設置し直したら、きちんと広がってくれているようでね。お友達も喜んでいたのよ」


 例の泉。以前、悪魔であるニグさんが見つけたという、どんな病気も癒せる聖水が湧き出る泉。

 その正体は、異世界からやってきたという、豊穣の神様が関わっており、それを飲んだ者は、眷属化するという特殊な液体でもある。

 あれが広がっているということは、再び眷属化した人間が増えているということ。

 眷属化に関しては、あまりよくわかっていないけど、以前のタクワの時のことを考えると、信者のような状態になっていると考えていいだろう。

 異世界の神様への強制的な信仰の変化。それが広がれば、まずいことになるのは明白である。

 確かに、除去ではなく、別の場所に移すとは言っていたけれど、とんでもないことをしてくれたものだ。


「眷属もだいぶ増えて、お友達も力を取り戻しつつある。だから、ここらでハクの実力を試しておこうと思って」


「……その神様と戦えってことですか?」


「そうそう。あなた達の目的は、私達を追い出すことでしょう? なら、悪くない条件だと思うんだけど」


 以前からクイーンが言っていた、お友達だという豊穣の神様。

 クィスからの情報では、ほとんどが星の守り手である中、その豊穣の神様は外宇宙からやってきた、侵略者側である。

 ここで、その神様の居場所を教えてくれるというのであれば、明確にクイーンの味方を減らすことができるし、クィス達の世界を救うという意味でも、一歩前進だろう。

 確かに悪い話ではない。

 問題は、勝てるのかどうかって話だけど。


「無事に勝てた暁には、ご褒美も用意しているわ。話に乗る気があるなら、来てくれると嬉しいのだけど」


『そんなことはどうでもいい! それよりも契約者を早く帰せ!』


「もう、今はハクと話をしているの。邪魔をしないでくれる?」


 激高したルディが黒い棘を飛ばすが、クイーンは何か障壁のようなものを張ってそれを防いでいる。

 ルディの攻撃を防ぐって、結構難しいと思うんだけど、やっぱりこいつはただ者ではない、


「大丈夫、ヒヨナちゃんは丁重にお相手させていただくわ」


『貴様の言うことなど信じられるか!』


「信じなくてもいいけど、今のあなた如きが私に勝てると思う?」


『くっ……!』


 クイーンの言葉に、ルディは悔しそうに身を引く。

 流石に、本来の姿を現していない状況では対処は厳しいのか。

 だったら本気になれば、と思ったけど、この部屋では無理があるか。

 それを見越して、クイーンも入ってきたのかもしれないね。


『大丈夫、ヒヨナは無事だよ』


『リク、本当ですか?』


『うん。クイーンは一息に人を殺すようなことはしない。少なくとも、今は無事なはずだよ』


 私も、ルディと気持ちは一緒だから、掴みかかりたいのを我慢していたけど、リクの言葉で少し落ち着いた。

 しかし、それは裏を返せば、いずれは死ぬ可能性もあるということである。

 早いところ助けないと、まずいかもしれない。

 でも、どこにいるかもわからないし、どうしようもできない。

 今、クイーンに逆らうのは、やめた方がいいかもね。


「そんなにヒヨナちゃんのことが心配なら、もう一つご褒美を上げましょう。お友達を倒せた暁には、ヒヨナちゃんを帰すと約束する。それでどう?」


「……ちゃんと命の保証はできてるんでしょうね」


「それはあなた次第よ、ハク。あまりに失望させてくれるようなら、どうなるかはわからないかもね」


「くっ……!」


 つまり、言われた通りに豊穣の神様を倒すしかないってことか。

 居場所がわかれば、何とか助け出すこともできるかもしれないけど、今は頷いておくしかない。

 たとえ、絶望的に信頼できない相手でも、それしか道がないのだから。


「それじゃあ、私はこの辺で。楽しみにしてるわね」


 そう言い残すと、瞬きの間にいなくなってしまった。

 相変わらず、神出鬼没である。

 一応、念のために探知魔法で辺りを探ってみたが、一夜ひよなの反応はない。少なくとも、この部屋にも、この町にさえいないのは確かなようだ。

 油断した、と言えば簡単だけど、あれだけ警戒していたのに、結局は攫われてしまったと考えると、やるせない気分になる。

 一夜ひよなの意見を聞かずに、さっさと帰していれば、それどころか、そもそも連れてこなければ、と後悔の念が浮かんでくるけど、今更である。

 とにかく、今はその豊穣の神様を倒す算段をつけなければ。


「……ルディ、例の豊穣の神様について、何か知っていますか?」


『詳しいことは知らん。そう言うことは、クィスがよく知っているだろう』


「そうですか、……はぁ」


『その……すまない。我も油断していた。まさか、堂々と攫って行くとは思わなかった』


「あ、いえ、そう言う意味でため息をついたわけではないですから」


 珍しく、ルディが消極的である。

 まあ、その気持ちもないわけじゃない。少なくとも、命だけは助けると豪語しておきながら、簡単に攫われたわけだからね。

 でも、あれは誰も予想できないし、予想できたとしても、止めるのは難しかっただろう。

 クィスも、一夜ひよなが持つ結晶体を通じて警告してくれたようだけど、結局間に合わなかったわけだし。

 攫われたことは、仕方ないと割り切るしかない。それよりも、どうやって助けるかを考えるべきだろう。


「ひとまず、情報を集めなければ」


 場所自体は教えてもらったけど、豊穣の神様に関する情報も、何ならその町に関する情報も少ない。

 今すぐにでも飛び出したい気分ではあるけど、今焦ったところでどうしようもない。


「ルーシーさん、神剣の強化にはどれくらいかかりますか?」


「少なくとも、あと一週間はかかるかと。担当の神に、急いでもらうように呼び掛けて見ます」


「お願いします。後、豊穣の神様についても」


「それに関しては、ウル様から、後でお話があると」


「すでに伝わってましたか……わかりました、後で行きます」


 意図せずして、ウルさんとも話す機会ができそうだな。

 私は一度、深呼吸をする。胸がバクバクして、不安で押し潰されそうな気分だけど、ここで負けるわけにはいかない。

 一夜ひよなを確実に助けるためにも、まずやれることをしよう。

 そう思いながら、動き始めた。

 感想ありがとうございます。


 今回で第二部第二十三章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第二十四章に続きます。

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― 新着の感想 ―
胸が締め付けられる思いがするなぁ
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